人生の答え合わせをしたがる人ほど、今の生活を見失いやすい
ファミレス。午後2時すぎ。
店内は高校生のグループと、作業中のノートPCを開いた数人。
依頼主は、30代半ばの男性。
仕事は順調。家庭も、第二子がもうすぐ生まれるというタイミング。
「このままでいいのかなって、ふと思うことがあるんです」
ドリンクバーにて、炭酸飲料を注ぎながら彼は言った。
「これまでの人生、全部それっぽくやってきた気がして。でも、なんか自分で選んだ感覚が薄いんですよ」
「就活して、内定もらって、結婚して、家買って。全部正解ルートって言われるやつですよね」
「はい、でもその正解がしっくり来ないというか」
席に戻ると、彼はグラスの氷をストローでガラガラとかき混ぜる。
「このまま進んだ先で“ああ、こっちでよかったんだ”って思えるのかなって」
「人生って答え合わせのないマークシートみたいなもんですからね。分かんないけどとりあえずどれか一つ塗っとくか、って感じで先に進むし」
「そう、塗ったそれが正解か分からないんですよ」
「提出したあとに“あ、違ったかも”って思い始めてるわけですね」
彼は笑った。ちょっと苦い笑いである。
「この前、会社の飲み会で後輩に“迷いなさそうですよね”って言われて」
「ほう」
「おれ、だいぶ迷ってんだけど?って言いかけました」
「迷ってる人って自分のことちゃんと見てる人ですよ」
「そうなんですかね」
「雑な人ほど、“こっちでいいや”ってサクッと行ける。迷うってのは選ぶことにちゃんと向き合ってる証拠だと思いますよ」
「でも迷ってるうちに時間だけ進んでる気もして」
「時間って“選ばなかった方”をどんどん遠ざけるから置いていかれてる感は強くなりますよね。でも仕方ないですよ、片方しか選べない時ってよくあるんで。選んだ方を強引に正解にするのが人生じゃないですかね、知らんけど」
彼はふーっとため息をついた。
「自分の選択を今さら後悔するつもりはないけど、どこかで「もしも」をずっと考えてる自分がいるんです」
「あのとき別の道を選んでたらってやつですね」
ジークアクスだな〜と思いながらぼくは話を聞いていた。
もしもあの改札の前で立ち止まらず歩いていれば。
「特に夜に風呂入りながら思います」
「ぼくは何考えてるのかあんまり覚えてないので、風呂ではぼーっとその時々でテキトーなこと考えてるんでしょうね」
「平和でいいですね」
「ちなみに「もしも」ってやつは、選んでない方の自分に期待しすぎなんですよ」
「……あー」
「選ばなかった自分だって、たぶんそっちからこちらを思いながら同じように迷ってたと思いますよ」
彼は少し黙って炭酸飲料をひと口飲んだ。正確には砂糖の塊と称される黒い液体、コカコーラである。
「たしかにどっち選んでも“これでよかったのかな”って思うかもしれないですね」
「正解より納得感の方が大事なんじゃないかと思います」
「納得感か……」
「選び続けてるって実感がある限り、それはたぶん正解です」
彼は大きくうなずいた。
「なんか今まで、結果にばっか意識が向いてた気がします。選び続けるって考え方は少し安心できます」
「不安って“これで最後かも”って思うと出てくるんですよ。選び続けてる限り、次があると思えるでしょ」
帰り際、レジ前で彼がぽつりとこぼした。
「こういう話、妻にはあまりできなくて。なんかかっこ悪い気がして」
「かっこ悪くていいと思いますけどね。かっこよくなろうとするほど歪みますから」
彼は苦笑しながら「確かに」と言った。
「子どもが大きくなって、いつか無職さんみたいな人に相談してたら、ちょっと安心できるかも」
ファミレスにひとり残ったぼくは、ぬるくなったアイスティーを飲みながら考えた。
人生の選択は、答えのない問題文に、毎日マークシートを塗り続けるようなものだ。 塗り直しも、迷いも、すべては選んでいる証拠である。正解はたぶん未来のどこにもなくて、今の自分を納得させ続けることが、静かで確かな答えなのかもしれない。
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