変態紳士録:抱かれる前に寝かしつけられた夜
W君と出会ったアプリを退会した。
元はと言えば比較目的での登録だったし、最近このアプリは下火らしい。
性癖マッチングの勝手もわかったし、せっかくならTier Sに移って効率よく男漁りといこうではないか。
この時の私は少し荒れていた。
実際、Tier Sと言われるアプリは元いたところとは、初速の動きも男の質も”レベチ”だった。
無課金の無礼な若者はかなり少数。
ちゃんと遊び方を知っている、それなりの大人の男が揃っているように見えた。
「ちょっと疲れ気味やし、甘やかしてくれそうな人がいい」
クソワガママ?
いや「甘やかしたい」が癖の男、めっちゃおるからな?
写真からオキシトシンがダダ漏れのNさんとマッチした。
***
初速が早いアプリは、その後の展開も早い。
お互いの職場が近いこともあり、マッチ2日後にお茶することになった。
なんやかんや意気投合し、あっという間に時間が過ぎた。
Nさんは結構ディープな身の上話までしてくれた。
バツ3で二度と結婚はしたくないこと。
二度目の離婚でかなりの負債を抱えてしまったこと。
一時期、女風で働いていたこと。
大阪の男、初対面で重い話を平気で話しがちである。
まあ、私もやけど。
Nさんは年齢より若く見えるが、深く壊れた経験のある人間特有の色気があった。
軽口ではあるが、私の事もよく見ている気がする。
ある種、生きることに対する諦めを受け入れた目だ。
別れた後のLINEのやり取りで、流れるように来週のアポが決まった。
***
「おつかれ〜」
当日、ホテル街近くのコンビニで落ち合った。
ムーブがほぼW不倫のそれだが、めちゃくちゃ気楽だ。
「アルコールと水買っていい?」
「飲み放題のホテルあるで」
楽だ。
もしかして、デートなんて必要ないのでは?
飲み放題ありのホテルに入り、フードをつまみながら酒盛りが始まった。
……メンタルが荒れていて、良い感じに酒も入っている。
傍らには結構いい男。
なのに、この座りの悪さは何なんだろう。
「今日、ちょっと疲れてる?何かあった?」
「最近、嫌なこと続いててん」
「そうかぁ」
彼の掌が背中に置かれた。…温かいを通り越して、熱い。
「手、熱ない?」
「体温高いねん。冬場はモテるけど、夏は嫌われがちやわ」
「せつなー」
「試してみる?」
誘導が上手いなぁ、なんて感心しながら腕に抱かれてみた。
熱いが、悪くない。というか、今はこれが必要だ。
「…ベッド行こ」
並んで横になり、彼にぴったりくっついていると不意に涙がこぼれた。
初アポで泣くとか、不覚すぎるやろ。
しかし、彼は何も言わずに背中をトントンしてくれた。
さすがはオキシトシンの男。
「泣いたりして、ごめんな」
「良いよ、疲れてたんやろ?ゆっくりしよ」
熱い手で頭を包まれ、また背中をトントンされる。
子どもの頃、親にこんな風にされたことがあったろうか?
覚えている限りの範囲では、記憶にない。
でも、どうしてこんなに懐かしくて落ち着くんだろう。
記憶を辿っていたはずが、いつの間にか眠りに落ちていた。
1時間くらいで目を覚ましていれば、一戦交われたのかもしれないが、時間いっぱい寝てしまった。最悪。
「…申し訳なさすぎる」
「謝らんで。また、いつでも声かけてな」
元ランカーの手腕、観測ならず。
しかし彼ならどんな状況も受け入れて、どんな女も慈しめるに違いないことが、十分過ぎるほどわかった。
爆睡してしまった手前、気まずいこと山の如しだ。
でも、不思議と身体もメンタルも万全の状態でまた会いたいと思う。
あの時の私には、あの時間が必要だったのだ。
