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望みのたまご【短編小説】

 好きな人の鞄に“それ”がぶら下がっているのを見た時、私の心はグラグラ揺れた。
 それは、水色の服を着た、長さ10cmくらいの小さな人形で、男子高校生の鞄に付けるには、可愛らしすぎて違和感あるよね?って、代物。

 目ざとく見つけたクラスメイトの男子から冷やかされて、新城(しんじょう)は気まずそうだった。
「女子からのプレゼント?リア充アピールかい」「あー孤独が沁みる。この時期そういうの、メチャしょんどい」
 揶揄する連中は軽い調子でからかっていたけど、周りで見ているクラスのみんなは言語化されない部分……彼らの言葉の底に(こんな時期に浮かれやがって)という嫉妬と苛立ちを感じ取って、その一幕から何となく目を逸らしている。来月にはクリスマス、ということは、受験も近いということだから。
 新城は「うるせえよ」と少し困ったような顔で返しつつも、ホームルームの時にさりげなく人形を鞄から外して、大事そうにポケットにしまっていた。隣の席の私からは、人形を手に取ったときの、彼の何とも言えない優しい表情が見えてしまい、崖っぷちでかろうじて踏み止まっていた私の心は足を踏み外して真っ逆さまに奈落の底へと落ちていった。

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 大学受験を控えた受験生であるところの私と、他の高校三年生の半分以上は、放課後、当然のように塾に通っている。受験が終わるまで遊ぶ暇なんてない。
 目指す大学がある人、将来なりたい職業がある人はまだいい。そうじゃない人……私みたいに、特に目標もなく何となく進学して、大学でやりたい事が見つかればラッキーという人間の方が多いんじゃなかろうか。少なくとも私の友達周りはみんなそんな感じだ。偏差値高めの大学に入れば、人気の会社に就職できる可能性が高まる、みたいな。けど、会社に入れたからといって、めでたしめでたし一生パピエン、ではない事もよく分かっている。

 そんなだから、普段から勉強に身が入らないのだけれど、今日はもう気分がどん底で、勉強どころじゃなかった。数式の隙間から、新城の彼女ってどんな人だろうとか、あの人形を見つめていた優しい眼差しで彼女を見るのかなとか、胸が痛くなるような妄想が次々と立ち昇り、頭の中をぐるぐる駆け回って、何も手につかない。
 塾の授業をぼんやり過ごし、小テストを何とかこなして、私は、個別勉強の時間になるとサッサと帰り支度をした。「今日は用事があるから」と先生に言い訳をもごもご呟いて塾の玄関を出る。夕食用の弁当は家で食べよう。家族には、気分が悪くなったから、とかなんとか適当に言えばいい。実際、気分は最悪な訳だし。

 塾から帰る時は、いつも家の近くまで友達と一緒だったけど、今日は時間が早いので一人だった。早いといっても、もうすぐ20時だ。駅前の道は、会社帰りなのか、そこそこ歩いている人は多い。商店街の店は閉店支度の最中というところもあった。

 ショッピングモールの玄関前を通りかかる。辺りには客の姿はほとんど無く、トラックが数台停まっていて、業者らしき人々が箱や何かを運んで忙しそうに行き来している。
 彼らは大きなツリーの設営をしているようだった。ホリデーシーズンに玄関を飾る二本の大きなツリーは、オーナメントの趣向が毎年変わる。去年はキラキラしたミラーボールのオーナメントだった。今年は何だろう、と、興味深く眺めていると
「すいません、ちょっと通して」と声がして、私は慌てて振り返った。大きな箱を両手に抱えた男の子は、私を見ると「あれ、高山じゃん」と声を上げた。
「山崎?……え、何やってんの、バイト?」
 そこにいたのは同じクラスの山崎だった。軍手にスウェットの腕をまくり、首にはタオルを巻いて、まるっきり業者のお兄ちゃんだ。山崎は箱を下ろすと
「納品。今年のツリーのオーナメント、俺の作品なんだ」
「うぇっ!?作品?山崎が作ったの?うそ、作れるの?」
 山崎は箱を開けて見せてくれた。5センチ四方のミニチュアプレゼントボックスが、ひとつひとつ緩衝材に包まれて、箱に詰まっている。ブルーのメタリックカラーの包装紙で包まれた小箱には、キラキラしたオパールカラーのリボンと造花、吊り下げる銀色の紐が付いている。私は素直に感心した。
「すっごく可愛い……」
 彼はそれを聞いて、嬉しそうにひとつ取り出した。
「これさあ、ちゃんと中身も入ってんだ。十二月中はツリーに飾って、一月からのクラフトマルシェで売るの」
「クラフトマルシェ?」
 山崎が指さしたところに、造花で飾られたウェルカムボードがあった。

「ハンドメイドの祭典〜クラフトマルシェ2022」
1/3〜2/15 
ショッピングモール内 中央広場
地元のハンドメイド作家たちが
それぞれのブースで
自由に展示販売するイベントです
クラフト・アクセサリー・雑貨
インテリア・ファッション
クリエイターによるこの世でただひとつの
オリジナル作品
ワークショップの開催日程は以下……


「ザキヤマーあんま時間ないよー」
 女の人の声がして、シャツにエプロンをつけて上着を羽織った、これまた業者風……いやアーティスト……のお姉さんが、私たちに呼びかけた。山崎は「はいはーい、行きまっす」と陽気に応じ、箱を抱え上げて走っていった。
 私は邪魔にならないように、少し離れた場所から作業を見守った。山崎と女の人、ほか数人は、車から箱を下ろして、何か相談をしながら中身をツリーに飾り付けている。今年は、高さ4m位の白いツリーだった。片方のツリーには青系のオーナメントが飾られ、もう片方は赤やピンク系のオーナメントになるようだ。
 山崎と、もう一人のお兄さんが、青系ツリーのはしごに登り、上からバランスよくオーナメントを飾り付けてゆく。オーナメントの中に、新城の鞄に付いていたのとそっくりな人形を見つけてドキリとした。そういえば、さっき山崎に「ザキヤマ」と呼びかけた、あの声をどっかで聞いた気が……考え込んでいると、不意に目の前に人影が現れて、私は心臓がマジで一瞬、止まる。
「高山?」
「新城……」
「あれ?高山も関係者?」
「え?ち、違う、塾の帰り」
「俺も」
 えーめっちゃラッキー!と私は内心盛り上がる。が、新城は、すぐに私から顔を逸らすと、作業中の人々の方に歩いて行った。女の人は、彼を見て驚いた声を上げた。
「高人(たかひと)、なんでいんの」
「塾の帰り、ついでに何か手伝うことある?」
 山崎が梯子の上から「関係者以外立ち入り禁止なんで」と言った。新城は冗談ぽく「マジでえ?」と言い返す。
 三人のやりとりを眺めるうちにふと思い出した。二年の時、たまに教室まで来て山崎を呼んでいた三年の先輩。確か手芸部の部長と友達が言っていた。その友達は笑いながら、こうも言っていた。
「山崎さあ、あの先輩のこと好きらしいよ……中学まで剣道部でいいセンいってたらしーのに、高校入ったら女目当てで手芸部とか、ウケる」

 新城がこっちに向かって歩いてくる。
「帰るわ。途中まで一緒にいこ」
「いいの?」
「居ても邪魔なだけみたいだし」
 新城は苦笑いして歩き始めた。私は並んで歩きながら、心が沈み込んでゆくのを止められない。新城の彼女って……うん多分。そうだよね。
「あそこに居た女の人ってさ、去年、手芸部の部長だったひと、だよね」
「そうそう。知ってたんだ」
「新城ってさ、その、付き合ってんの?あの人と」
「え?」
 新城はチラリとこちらを見て、決まり悪そうにガリガリと頭をかいた。
「まあ、うん」
「……そっか」
 うわあ本人の口から聞きたくなかったなあ。って、訊いたの私だけどさ。私はそれきり口を閉じた。沈黙が続き、やがて耐えきれなくなったのか、新城が口を開いた。
「家が近所でさ。まあ幼馴染?……同じ高校に入ったら、手芸部入れってしつこくてさ。オトコが手芸部ー?いやいやいや。したら山崎の奴、しれっと入部してて笑った。度胸あるよなアイツ。内心マジで焦った……て、何話してんだオレ」
 ん?新城は山崎が彼女を好きだって事を知ってたのかな。けどまあ、私には関係ないか……。
 つい涙が滲みそうになって、歯をぐっと噛み締めて必死で堪えた。その後も新城は、小学校の頃は時々、彼女の家でお菓子作りを手伝ったとか、中学の時は下手くそな手編みの手袋を貰ったとか、照れながら話していたけど、私は相槌を打つのが精一杯で、話の内容は殆ど右から左に抜けていった。それでも自宅のそばで別れるまでの十五分弱は、人生の中でトップクラスに辛い時間だったと思う。


 夕飯とお風呂を終えて部屋に戻った。いつもなら、塾でやった範囲を軽く見直して、明日の英語の予習もしてから寝るんだけど、そんな気力も湧いてこない。私はベッドに寝転がって、ぼんやり天井を見上げた。新城と彼女のことをなるべく意識から締め出して、山崎の事を考える。背が高くて、痩せているけどそれなりにガッチリした体つき。業者ぽい格好をすると、めっちゃガテン系って感じになる。

(今年のツリーのオーナメント俺の作品なんだ)

 受験のこの時期に物作りとか。山崎は進路どうするんだろ。イベントに出店するって、そう簡単じゃないだろうし、あの前のめりな空気感は、手芸は単なる部活動って感じじゃなかった。それを言うなら女目当てに……てのも、友達の勘違いだろう。 

(度胸あるよなアイツ内心焦った)

 私の知らないところできっと色んなドラマがあって、主人公は多分、新城と山崎と先輩で、私はモブの一人でしかない。生徒A。学園ドラマの台詞のない、教室にいるだけの賑やかし。
 どんどん考えが後ろ向きになってくる。理性が(これ以上考えてもロクなことにならないから止めとけ)と囁くけど、止められない。台詞がある役を演じられる人達が羨ましい。ドラマを作るのも賞賛を浴びるのも彼らで、モブにはそれは許されない。同じ人間なのに。神様は本当に不公平だ。私は布団に潜り込んで、ぎゅっと目を瞑った。
 ……途切れがちな苦しい眠りの中で、学園ドラマの賑やかし達が「台詞と生きる権利を寄こせ」と鉢巻を額に巻き、春闘の労働組合みたいに映画監督とかテレビ局の人に詰め寄っている、という夢を見た。その間、主演の俳優(新城)とヒロイン(先輩)は隅の方で怯えた顔をして、縮こまっている。私は鉢巻側の一人だったけど、内心は、俳優に抱えられているヒロインを羨ましく感じ、私もそっち側に行きたい、一度でいいから代わって欲しい。などと考えていた。


「雪乃(ゆきの)、どした、顔が死んでるよー」
 私は体育館の壁際に座り込み、前に立つ友達を見上げた。今は体育の時間で、バレーボールの試合が終わり、次のチームが交代してコートに入るところだ。友達はそのまま隣に座った。うーんそんなに顔に出てるか。これでも普段通りを装っているつもりなんだけど。
「モブだけに演技が下手なん……」
「は?もぶ?」
「何でもない」
 向こうの方では男子が試合をしている。新城はコートに入っていて、山崎は壁際で友達と並んでその試合を見ている。横の友達の、体育だるいよねとか塾の英語の先生がまあまあイケメンとか、そういう話を聞き流していると、何やら頭が痺れてボーッとしてくる。
「あっ」
 友達の声がしたと同時にガン!!と激しい衝撃があって、全ての音が一瞬、意識から遠ざかり、転がってゆくボールが視界に入った。コンマ数秒の後、顔にボールがぶつかった、という文章が頭に浮かぶ。同時に顔の真ん中に痛みを感じ、生ぬるい感触が鼻から流れ出て顔を濡らした。体操服に染みる鮮やかなダークレッド。
 ……辺りの騒然とした音がいっぺんに戻り、鼓膜に入ってくる。うわ雪乃ヤバイ鼻血が出てる大丈夫ごめんねちょっとティッシュ誰か持ってないこれで押さえて冷やした方がいやいや上向いちゃダメ保健室連れてけおーい保健委員!
「高山、保健室いこ。立てる?」
 目の前に山崎が立っていて、私の腕を掴み、引っ張って立たせた。少しよろけ、山崎が私の片腕を持ちながら、もう片方の腕を背中に回すのを感じる。山崎は教師と言葉を交わし、ゆっくりと歩きはじめた。私は手渡された布で鼻を押さえながら、彼について歩いた。顔の上半分がジンジン痛んで、足元がふわふわする。妙に現実感がない。


 保健室の扉には「離席しています」の札がぶら下がっていたが、山崎は構わずドアを開けて私を通し、パイプ椅子に座らせた。
「上向かないで、鼻を押さえてて。氷嚢出すから……ほらこれ。鼻の、ここんとこに当てて冷やして」
 言われた通り左手で鼻を押さえ、両目の間、鼻の上のあたりを右手の氷嚢で押さえる。山崎は私の前に立ちつくして、しげしげと私の顔を眺めた。私は体操服の血のしみを見下ろして「あーあ」と嘆いた。鼻を押さえたままなので酷い鼻声だ。
「バチが当たったのかも」
「え?」
「ヒロインに成り代わりたいなんて思ったから」
「……なんの話?」
「山崎、手芸部の元部長のこと、好きってほんと?」
 山崎は驚いた顔をした。私は思わず左手を離した。ショックの反動か、何かが堰を切ったように溢れて止まらない。
「いいよね、やりたい事あって何か目指せる人。私なんて何もないよ。これがどうしようも無いくらい好きとかこれやって生きていきたいとか。特技も得意なこともない。なによ、俺の作品だとかキラキラしちゃって。私なんか高校生活にキラキラしたもん何にも無いまま卒業だよ。なんで私には何もないの?モブだから?」
「は?いやちょっ高山、落ち着いて」
「落ち着けないっ」


 その時、勢いよくドアが開いて、新城が保健室に入ってきた。
「何、どうした。外まで声ダダ漏れてるけど。揉め事?」
 山崎が答えた。
「なんかショックで興奮してる。お前は?様子見に来たの?」
「俺も突き指しちゃった。湿布ない?」
 私は急に恥ずかしくなって、思わず左手の布で目をゴシゴシ拭いた。新城はそれを見て
「高山、それであんま拭かない方がいいよ……トイレのとこにあった雑巾だから」
「っ!?」
 何かが私の中で音を立てて切れた。無理、何もかも無理、限界。私は立ち上がって布を床に投げつけ、おいおい泣き出した。男子二人は呆然としている。
「ふううああ、ううふーーひうっぐ、ひっ、バカっし、んじょのっ、バカっ……私っずっと好きだったのに一年の時からっ……なによお塾帰りにイチャついちゃってさあぁーーもおおぉーーヤダーもうヤダようーーふうわあああーーん」
 山崎と新城は顔を見合わせた。山崎は、はああ〜と大袈裟に息をつくと
「そうかぁー。高山、お前のこと好きだったみたい」
「え……」
「気持ちわかるわ。見せつけられちゃって可哀想」
「はあ?誰がいつ見せつけたよ」
 私は泣きながら大声で遮った。
「うるさい!アンタが悪いっ!!」
「だよなーお前が悪い」
「なんだよそれ……」
 新城は溜息をつき、私に向き直ると、深く頭を下げた。
「高山。ごめん、俺が悪かった」
「…………」
 私は泣きすぎてリアクションができない。山崎は湿布を引き出しから取り出して新城に差し出した。
「俺がついとくからさ、先に戻れよ」
「ん……頼むわ」
 新城はこちらを気にする素振りを見せながらも、保健室から出て行った。


 五分後、しゃっくりが沈静化すると、猛烈な恥ずかしさが押し寄せて、私は俯いて顔を覆った。
「死にたい……」
「黒歴史、爆誕」山崎はニヤニヤ笑っている。「鼻血止まってるよな」
 私は鼻血を忘れていたことに気がついた。
「ごめん迷惑かけちゃって。あーもー……新城にも謝らないと……はあ」
「もう後はホームルームやって帰るだけだし、ここで着替えて直で帰れば?制服と荷物取ってきてやるからさ」
「えーいいのかなぁ……けど、そうして貰えるとすごく助かるかも。新城の顔見るのに、もうちょっと時間が欲しい」
「んじゃ待ってな」
 山崎は保健室を出て、入れ替わるように養護教諭の先生が入って来た。山崎と会話を交わして事情を把握すると、私の鼻の具合を診てくれる。しばらくそこで待っていると、山崎が荷物を抱えて戻ってきた。私はそこで着替えて、彼と一緒に校舎を後にした。

 帰りの道で、私は何度も重い溜息をついた。出来ることならこのまま消えてしまいたい。失恋したからって八つ当たりなんてマジで最悪だ。
「あのさあ」
 話しかけられ、どんよりした気分で彼の方を見やる。山崎は笑いを含んだ顔で「俺、めっちゃ腹減ったんだけど。なんか食いに行かね?」と言った。言われて私も猛烈にお腹が空いてきた。山崎は重ねて
「マック行かない?スマホのナゲット半額クーポン、今日までだからさ」
「うん、行きたい……喉渇いたし甘いものが欲しい。シェイク飲みたい」
「じゃ決定」

 ハンバーガーショップのテーブルについて、外を眺めながらシェイクを飲んだ。向かいの席では山崎が、すごいスピードでハンバーガーとナゲットを頬張っている。トレイの上の食べ物は、あっという間に彼の胃袋に収まった。
「そういえばさ、山崎。先輩のこと好きだったの?」
 私は思い出して訊いてみた。山崎はコーラを啜りながら顔をしかめた。
「忘れてなかったか」
「私と一緒にここに来たってことは、話してくれる気だったんじゃないの?」
「そうかな、どーだろ……そうなのかもなぁ……」山崎は音を立ててコーラを飲み干すと、ストローを口から離して頬杖をついた。
「大体さ、俺の方が先に好きだったんだよ、新城よりも。だって俺、保育園の頃から先輩と結婚する気だったし」
「えっ、山崎も幼馴染?」
「小学校はマンモス校だったから、生徒の数は多かったし、そっからの付き合いイコール幼馴染じゃん……先輩の母ちゃんが料理教室の先生やってんの。俺の母親も新城の母親もそこの生徒で、家も近くて昔から何かと交流があったってわけ……物作りが好きな家系なんだろうなあ。先輩は、手芸の方に行っちゃったけどさ」
「じゃあ、ずっと三角関係だったんだ」
「中学の途中から付き合いだしたから、アイツら。俺はもーとっくにフラれてる。てか伝えてない。新城にはバレたけど」
 そんなにも長い間の片思い。で、そっからの失恋。想像もできない、てゆーかしたくない。何気なく話してるけど、死ぬほど辛い時期だってあったろう。乗り越えてきたんだなぁ山崎は。
「手芸部に入ったの、先輩が居たから?」
 山崎は片手を口にあててゲップをした。
「無くもないよ、ぶっちゃけ。けど俺、やりたいことがあったから。それに近い内容が手芸部なんだよね。親との約束で中学までは剣道続けるって。けど、この高校受かったら好きにしていい、で、合格して。これからは好きなことやろうと思ってさ」
「やりたいことって?あのオーナメント?」
「あっそうだ」
 山崎は隣の席に置いた鞄を引き寄せると、中からあのオーナメントを取り出して、私に差し出した。
「やる」
「えっなんで!?」
「フラれ仲間じゃん、オレら」
「ええ〜なにそれぇ……開けていい?」
「いや。帰ってからにしてよ。やっぱさ、家に帰って開けるまでがプレゼントだからさ」
「遠足かい」
 私はブルーに輝く小箱を鞄にしまった。
「ありがとう。これさ、もしかして先輩にあげるつもりだったとか?」
「バレた?……けど、もーいーわ。うん、いいことにする」
 山崎は笑った。私もつられて笑った。



 自宅に戻ると着替えもせずに、貰った小箱を開封してみる。そのままでも綺麗で、包装紙と花の飾りを剥がすのが勿体ない感じだけど、中を見たい気持ちに抗えない。ペーパーナイフを使って、傷をつけないように慎重に包装を剥がすと、中から透明なプラスティックの箱が現れた。箱の中に、茶色の梱包材に包まれた、青い何かが入っている。青い卵を抱いた小さな鳥の巣みたいだ。私は透明な箱を開けて、中身を取り出した。
 ころん、と手の平に転がったのは、ガラス製の蜻蛉玉だった。青と水色とエメラルドグリーンが複雑に組み合わさった色合いは、超ミニチュアサイズの地球みたい。紐を通す穴が、地球を地軸のように貫いている。
「わあすっごい、綺麗……」
 私はつまみあげると、窓にかざしてそれを眺めた。これを山崎が作ったの?山崎はガラス職人になりたいのかな。見ていると心に潮が満ちてきて、静かな光が身体の隅まで沁み渡るような感じ。これを作っている時の、彼の横顔を想像してみる。

 棒の先に付いたガラスの雫を、バーナーの炎にかざして。
 ひとつひとつ、魂を込めるように。
 届け。俺の魂よ、届け。

 いいなあ羨ましい。今までにないくらい強烈に、私も何かを追いかけたい、と思った。こんな風に、自分の魂のひとかけらが誰かに届いて、その人の勇気や元気になるような。
 私にもできるかな。私の魂はどこまで届くのかな……望みに手を伸ばすことがどこか怖かった。でも踏み出してみよう。そこから全てが始まるはずだから。手始めに、この蜻蛉玉をストラップにしたいな。山崎に相談してみようかな。

────わたしは 望む。

 蜻蛉玉をアクセサリー置きにしているガラスの皿の上に載せて、スマホで写真を撮影した。それを山崎個人宛に、LINEで送った。メッセージを打ちこむ。
「めちゃ綺麗。すごく嬉しい!これ、ストラップにしたいんだけど、相談してもいいかな?」

 すぐ既読がついた。


 私はスマホを握りしめ、ドキドキしながら返事を待った。



(完)


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[ あとがき的な ]

イシノアサミ&闇カラス、2021年最後の(?)共演です!

イシノさんの「カラーシリーズ」の中の子を、いつか物語に登場させたいな。
そう話すと、イシノさんは快く応じて下さいました。たしか「みる猫」が終わってまもないころ。
……光陰矢の如し。気づけば2022年まで、もうひと月も残ってない!!
焦りました。そしてようやく、ここに完成させることが出来て、ホッとしています。
こちらは今回使わせて頂いた「ホリゾンブルー Horizonblue 」の子です。
そしてヘッダーも今作の為に描き下ろしてくださいましたあ!いえ〜いっ😆
イシノアサミさん、ありがとう!!

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↑色彩煌めくイシノアサミさんのカラーシリーズから

↑ここには収録しないでくれましたが。実はあんこ様の最終回を読んですぐは,
取り乱してガチ泣きした私です。今となってはよい思い出……(恥)

↑拙著「貴方が美しいということ」。
kesun4さんと「みる猫」のコメント欄で『なんかヤろうぜ!』みたいなノリから始まった企画でした。こちらの詩を読んでびっくり。
「えっこれ百目鬼サイドの歌詞!?kesun4さん『囀る』読んだ?」みたいな(笑)

初心を忘れないためにも、自分で書いた「囀る」のレビューを貼っておこう。


2021年は、私にとって、人生の中でもすごく印象深い年になりました。沢山の方との関わりの力でここまで来れました。
ほんと人生は、中に何が入っているか食べるまでわからないチョコレートみたいですねえ。

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