冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第八話 #DDDVM
入ってきた人物について、まず印象深かったのは頭部を隙間なく覆う鋼鉄の仮面だ。前面には五本のスリットによる視界取りこそあいているものの、何某かの仕掛けによってか中の容貌を伺い知ることは出来ない。
比較的長身に入るその屈強な身体には、急所を覆った金属パーツと軽装の革鎧がぴったりとずれなく身につけられ、腰には古めかしい鞘に収められた、鍔元だけでも分かるほど金と白の精緻な装飾が施された剣が寄り添っている。
「失礼します。あなた方がアルトワイス王家より、王命を受けた方々ってことであってるかな?」
丁寧さとフランクさの入り混じった口調で、入ってきた仮面の人物は我々へと語りかけてきた。私の視界の揺れから、随分としゃちほこばった様子で立ち上がったと思しきワトリア君が会釈する。
「はい、その通りです。私はワトリア、一介の医学生です」
「ワトリアさん、か。どうぞよろしく」
「あの、その仮面は……」
「聞いても無駄よ、その人が仮面取った話なんて聞いたこと無いもの」
「え、ええ?一体どうして……」
困惑するワトリア君に、シャンティカ君は不敵な笑みで続けた。
「決して兜は取らずとも、依頼達成率はわかってるだけで九割越え、失敗しても被害は最小限、腕利きの冒険者は数あれど、この人ほどスマートな仕事を行う冒険者は他に居ないんじゃないかしら?そうよね、無貌さん」
「買いかぶり過ぎです、自分も失敗もすれば被害も出しますとも。ただ常に精一杯の仕事をしているだけで」
「え、と……信用させてもらっても……?」
部屋の隅に追い詰められた小鼠のような視線ですがりついているであろうワトリア君に、シャンティカ君からは肩をすくめて追認の言葉が綴られた。
「王家の人達、取れる選択肢で一番良い人物を送って来たって言ってもいいでしょう。決して顔をあらわにしないってだけで、諸国一の冒険者なのは間違いないわね」
「そういうあなたは、どなたかな」
「アルヴァ族のシャンティカ、駆け出しの冒険者よ。依頼者からの要望でこの件の調査に同行するわ、よろしくね、顔無しさん」
「はい、よろしくお願いします」
シャンティカ君にさえ、信頼をおけると判断させるほどの知れ渡る名声に、それを裏付ける女王陛下からの直接依頼。それに反して、この鉄兜の人物の物腰は非常に柔らかく穏やかなものだった。おおよそ、荒くれ者を想像させる冒険者の印象からはかけ離れた、実に奇妙な人物である。
ふと、ワトリア君の眼鏡を通して彼を見定めようとしていた私と視線と、彼の視線が衝突した、様な気がした。いかんせん、兜の仮面に覆われていて確証は出来ないが、頭部の角度からすると彼が見ていたのはワトリア君ではない様に感じられる。
訝しがる私を他所に、シャンティカ君から私の存在について説明が入った。
「今回は私達の他に、ワトリアの眼鏡を通して私達を見守ってる竜もいるの。むしろ彼が一番重要な存在ってところね」
「ああ、なるほど。事前の説明では竜殿も参加されるとは聞いていたんだけど、まさかこんな所に収まるとは思えなかったですし、納得しました」
どうやら、私も調査の一員であることは知っていたらしい。だが、この人物は見れば見るほど謎多き人物、と見て間違いなさそうだ。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第八話:終わり|第九話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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