売れないものを売る男|情熱サロンインタビュー
神戸の工房に、その男はいた。
株式会社プリンシプル代表・村田光俊。
日本の革職人のセレクトショップ「フリースピリッツ」を全国17店舗展開する経営者である。だが彼の仕事は、店に立つことではない。なんと、職人の家に上がり込むことだというのだ。
仕入れ先の職人の多くは、自宅が作業場。
村田は暮らしと仕事が溶け合うその空間で、家族の話を聞き、生き方を聞き、そのすべてが商品に滲み出る瞬間を見届ける。
会いに行った革職人は、実に500人を超える。
彼の商売は、ビジネスの常識に反している。
有名ブランドの下請けに甘んじてきた無名の職人。腕はあるのに売る場のないブランド。原価が高く、誰も手を出さない商品を、あえて買取で仕入れて売る。
「誰もやらない。でも誰かがやらなければ、日本から革のモノづくりは消える」——それが彼の出発点だった。

意外なことに、村田は自らを「めちゃくちゃ平凡な子どもだった」と語る。勉強もスポーツも全部70点。何者でもなかった少年は、だからこそ一つを究める職人に憧れ「自分がいないとダメな仕事」を創ろうと決めた。
転機は、東日本大震災。コンサルタント時代の上司に「東北に仕事を創りに行くべきだ」と言われながら、彼は動けなかった。
評価と給料を優先した自分。
「自分の命を、なんのために使うのか」
——その問いが、独立への引き金となった。
だが理想だけでは食えない。
腕利きの職人に「夢は?」と尋ねたとき、返ってきた答えは「海外旅行に行きたいな」。
素晴らしいものを作っても、豊かになれない現実。
だから村田は社員に口うるさく言う。
「絶対に売らないといけない。売らないと全員が不幸になる」
熱い想いと売る力、その両輪で新しい市場を創る。それが彼の流儀だ。
何百というキーケースを見てきた男が「一番」と断言する愛用品がある。
子どもが作ってくれたキーケースだ。

「想いは、作りや素材や品質を凌駕する」
——目利きの結論が、それである。
視線の先には世界がある。
日本のレザーブランドで世界に成功した例はまだない。ロゴで買うのではなく、本当に良いものが選ばれる市場を、海外に創る。
彼にとってフリースピリッツとは何か。
「自分にしか出来ない形で、革職人さんの未来を創りながら、自分の生き方を高められる仕事」
売れないものを売り、市場を創る。
プリンシプル——原理原則を貫く男の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

株式会社プリンシプル/神戸
