【第100話 泣いた小鳥】



 滞在中のホテルでは、帰宅するなりレフトが号泣して来翔の手に包まれて泣いていた。


「ピヨヨヨ…ピヨヨヨ…」


 ネーラが来翔に通訳をした。


「あのね。マーガレットを見つけたのにマーガレットから帰れって言われたって泣いてるの…。すごく泣いてる…」


「ピヨピヨピヨヨヨ…」


「レフトは皆よりも一番弱いから悔しいって………」


 ネーラまで泣きそうになっていたので、来翔が二人に優しく語りかけた。


「レフトもネーラも弱くて良いのさ。レフトにはレフトしか出来ないことがあるし、ネーラにはネーラにしか出来ないことがあるだろ?」


「ピヨピヨ?」


「レフトは誰よりも歌が上手じゃないか! 僕は毎朝、レフトの歌声で目覚めるのが大好きなんだよ」


「ピヨ?」


「そうさ。レフトの歌声は世界一さ! ネーラもそうだよ? ネーラは世界一歌の上手なレフトや、世界一頭のいいアインを育てることが出来たじゃないか! これはネーラが全ての生き物を愛したからなんだよ? 僕はそんな二人のことを弱いから嫌になるどころか、凄く好きだよ。だから、レフトもネーラも笑ってくれよ。レフトは誰よりも早くマーガレットを見つけてくれただけでも凄いことなんだ。むしろ誇っても良いし、そんなレフトを育てたネーラも誇っても良いんだよ」


「ピヨピヨ?」


「ホントに?」


 来翔はニコッと笑って答えた。


「当たり前だ!」


 ようやく、レフトもネーラも笑顔になった。二人は気分を良くして、揃って歌い出した。




 ◆




 来翔はレフトからの情報を、クロガネと整理していた。


「クロガネさん。帰る! 帰る! と言うことは自力で帰る手段があると言う事だと思うんですが、クロガネさんはどう考えますか?」


「う〜ん……潜水中の潜水艦からの脱出なんて、プロの兵士でも不可能ですよ? マーガレットさんが自力で帰れるとは思えないんですけどね……。ただし、カフェに他の女性といたと言うことは、潜水艦の中でのストレスを軽減させるために、一日に数時間は外に出られるのかも知れませんよ? 潜水艦の中っていうのは訓練された兵士じゃないと何日も中に居られないんです。窓のない空間なので時間感覚がなくなり、毎日のリセットができなくなるんです。なのでレフトが出会った感じで、毎日、数時間だけ外に出られるのかも知れません! これは本当にレフトはお手柄ですよ!」


「それなら、明日からも今日、レフトが見つけたカフェで張り込みをした方が良さそうですね。僕とビリーさんはゾーン団には顔がバレてるので、クロガネさん、張り込みをお願いします! レフトとネーラにも周辺を飛んでもらいますね!」


「その作戦でやってみましょう!」




 ◆




 一方、潜水艦に戻ったマーガレットとレベッカは、早速Alexaと潜水艦のコンピュータをリンクさせた。


「Alexa、11000101011000100……」


「了解しました。船との接続を開始します。………………ごめんなさい。リンクを切られました。もう一度、別の方法でお願いします」


「Alexa、00111110101110……」


「了解しました。もう一度、接続を開始します。…………ごめんなさい。先程のミスによりセキュリティが強化されました。もう一度、別の方法でお願いします」


 マーガレットとAlexaは何度も潜水艦のコンピュータと接続させようと試みたが、なかなか上手くいかなかった。


 それを見てレベッカがイライラし始めていたのを、トンプソンが制止した。


「レベッカ、スキルのレベルが低いうちは、これで良いのだ。失敗などの経験でレベルが上がるからな。レベルが上がればすぐに接続は出来るようになる。気長に好きにやらせてみろ。本人は反抗的ではないようだし、そのうち出来るようになる。明日もまた港につけてやるから、日中は二人で気分転換してこい。貴様も潜水艦の中は精神的に辛いだろ?」


 レベッカは社長からの気遣いに感激しながら答えた。


「いえ! これしきのことは大丈夫です! 二、三日なら外出できなくても平気ですよ!」


 トンプソンが優しくレベッカの肩をポンと叩いて、コンピュータルームから出て行った。レベッカは、社長から付けてもらった隷属の魔道具を大切そうに撫でていた。


 結局、この日のマーガレットとAlexaは潜水艦のコンピュータに侵入することも出来ずに一日を終えた。窓のない潜水艦の中なので日没などもわからなかったので、マーガレットは眠気だけで、今がたぶん深夜だと判断して、レベッカと共に潜水艦の二段ベッドで死んだように眠った。




 ◆




 そして、翌日の昼下がり。潜水艦は貸切の港に停泊して、レベッカとマーガレットは再び外出を許された。二人は乗組員への買い出しも兼ねて、コストコへレンタカーを借りて来ていた。


 車を運転しながら、レベッカはマーガレットに船内での事を尋ねてきた。


「マーガレット、アナタわざとゆっくりとハッキングしてないわよね? 社長はレベル不足だと言っていたけれど、私にはスキルとかレベルのことは分からないから、アナタがわざとなんじゃないかと疑ってしまうのよ。だってそうでしょ? 核兵器のセキュリティの上書きなんてアナタが従う理由が無いもの。私も社長が核兵器を何に使うのかを知らないけど、アナタからすると私よりももっと不安になると思うのよ。それなのにアナタはAlexaを使って上書きしようとしてるから、どうしても腑に落ちないというか違和感しかないのよね」


 マーガレットは車の窓から街路樹などを見て、レフトが今日もいないかと目で追いながら答えた。


「私だってトンプソンが普通のゾーンの男なら必死で抵抗してましたよ。でも、トンプソンはゾーンの男にしては超合理的で、無差別攻撃なんかしないと思うのよ」


 レベッカは、マーガレットが意外にもちゃんと人間観察をしていることに少し戸惑った。


「へぇ〜。ちゃんと見てるのね。社長はゾーン団にしてはまともよね。カリーナさんなんて女なのに男よりも攻撃的で、我々社員でも怖いもの。……実は私もカリーナさんが核兵器に興味を持っていたら……アナタと逃げていたかも……」


 今度はマーガレットが、レベッカの意外なカミングアウトに戸惑った。


「え? レベッカが? へぇ〜。意外とアナタもまともなのね……」


「それって酷くない? 私はあの会社では一番まともよ! うふふ」


 マーガレットも思わず笑ってしまった。


「うふふ、レベッカ。この際だから先に言っておくわね。……トンプソンの事を好きになっちゃダメよ。信じるなとは言わないけど、好きになっても未来には不幸しか無いの。彼は地球では自由に暮らしているのかも知れないけど、彼の首を狙ってる異世界の賞金稼ぎっていう人達は、来翔さんに匹敵するような強い人がゴロゴロしてるの。ゾーン団の幹部に関しては生死を問わずって手配書には書かれているから、近くにいると必ず巻き込まれる。それに、今はまだ異世界の賞金稼ぎがゾーン団の行方を探す手段が無かったからコチラ側には来てないだけで、今回、カリーナが失敗した事でゾーン団の存在が世間に明らかになったわ。それから、ゾーン団でも知らない情報として、来翔さんは異世界の賞金稼ぎの首領とも懇意にしてるの。ワタルがゾーン団の存在を知ったということは、来翔さんにも確実にその情報は流れてる。つまり! 異世界の賞金稼ぎにもゾーン団の存在のことが知られたと思っていい……」


 レベッカは、隷属の魔道具のネックレスを無意識に撫でていた。


「そうね……。ねえ、マーガレット。核兵器のこと。本当に頼んだわよ! 今の話を聞いて社長にはますます核兵器が必要になったわ! 核兵器さえあれば社長は賞金稼ぎなんかに殺られない!」


 レベッカの顔からは、笑みが消えていた。


 この時、レベッカもマーガレットも、一人の殺し屋から尾行されていることには全く気付いていなかった。


 二人は目的地のコストコで大量に買い物をしてから、自分らの寝床でもある潜水艦へと帰還してしまった。


 尾行を続けていた殺し屋は、潜水艦へ乗り込んでいく二人を見てニヤリと笑っていた。




 (第101話へ続く)


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