【第135話 5日分余計な年末年始】
冬の江差町は、寒さは本物だが、積雪は十二月下旬までは降っても中々積もらない。完全に一面が銀世界になるのは、年末か年明けになる。北海道でも南に位置する江差町の冬は、いつもこんな感じで始まりを告げるのだ。
そんな江差町にある来翔の宿屋の周りには、雪ではなく雪虫という、北海道ではお馴染みの真っ白な雪のような虫が大量に発生していた。宿屋の出窓からその雪虫を見つめていたデメタが、必死に雨森に訴えかけていた。
「ゲコゲコ!」
「え? そりゃあ、無茶ですぜ! デメタ! 外は氷点下。デメタなんて外に出れば一発で冬眠状態になりますぜ!」
「ゲコゲコ!」
「え? それでもいいから雪虫を喰いたいですって? わかりやしたよ。あっしが何匹か捕まえて来てやりますよ!」
雨森とデメタが、外で大雪のように江差町を飛び回っている雪虫について話し合ってるのを聞いていた来翔が、二人に説明をした。
「デメタ、雨森さん。あれは雪虫と言って、北海道では毎年恒例の景色なんだ。この雪虫って不思議なものでね。こうして一斉に街を飛び回ると、何故か二週間以内に雪が積もるのさ。僕はこの雪虫って、この世界の雪の妖精なんじゃないかと思っててね。出来れば食べないで欲しいな」
来翔からの言葉を聞いて、フェアリーたちと雪虫を見比べ、デメタも「ゲコゲコ!」とニコッと金歯を見せつけて笑い、素直に諦めてくれていた。フェアリーたちも外で一斉に飛び回っている雪の妖精を見つめていた。
それから十日目の朝。皆が起きると、江差町は銀世界へと変わっていた。
デメタはそんな雪の世界を、一日中眺めていた。本来ならカエルは冬は冬眠していて、雪景色などを見る機会は無いからだと、雨森が皆に説明していた。しんしんと降り積もる雪を、ずっとデメタは眺めていた。
◆
そんなある日の夜。皆が寝静まると、来翔と雨森とカスミはデメタとレフトとフェアリーたちの枕元に、プレゼントを並べていく。
「来翔さん。これがXmasってやつですかい? 中々、乙な風習でござんすなぁ〜」
「えぇ。この日の夜は、世界中の親御さんたちが今の僕らと同じ行動をとってるのかと思うと、ロマンがあるでしょ? 雪虫たちと同じように、一斉に世界中の親御さんたちは子供たちの枕元へプレゼントを並べてるんです。そして、これが終わると、もうすぐ年が変わるのです」
「コチラの一年は三百六十五日でしたっけ?」
「そうです。異世界よりも五日間多いんですよ。きっと、この余分な五日間を幸せに過ごせるようにと、サンタクロースがXmasというイベントを考えたのかも知れませんね」
「ハハハ! そりゃあ粋な御仁でござんすなぁ〜! サンタさんという御方は!」
こうして、この年もフェアリーたちとカエルのデメタとインコのレフトとエレファントノーズフィッシュのアインの枕元には、プレゼントが並んでいた。
◆
翌朝。デメタが目を覚ますと、デメタの枕元にはデメタでも背負えるように加工された、ガマ口の小さな財布が置かれていた。
デメタは驚いて、すぐに親友のレフトにガマ口財布を見せに行くと、レフトの枕元にもレフト用の小さなブランコが置かれていて、お互いに見せ合いっこをして幸せな鳴き声をあげていた。
「ピヨピヨピヨ!」
「ゲコゲコゲコ!」
レフトはずっとブランコに乗り、デメタは何度もガマ口を開け閉めしては、リュックサックのような作りのガマ口財布を背負ったりおろしたりを繰り返していた。
一方では、フェアリーたちにはダンバインのプラモデルが各種並べられていた。
「あ! 私はダーナ・オシーだ!」
「あ! 私はビルバインだ!」
「やったー! ドラムロだ!」
自分たちと同サイズのプラモデルを、懸命にフェアリーたちが早速作り始めていた。
ダンバインの主人公達の母艦であるゼラーナを組み立て終えたクノンが、自分の『浮上』スキルでゼラーナを実際に浮かせていると、ネーラが『並航』スキルでゼラーナを縦横無尽に飛ばせて遊んでいた。
◆
そんな幸せなXmasを終えると、今度は年明けのお年玉で、デメタの幸福度はピークを迎えていた。
早速、クリスマスで貰ったガマ口財布に、綺麗に折りたたんで千円札をしまい込んでいた。既に大金持ちのデメタでも、お年玉は嬉しいようで、金歯を輝かせ笑っていた。
そして、幸せな年末年始を過ごした雨森とデメタは、奥尻島のゲートの前に来翔達から見送られて、異世界へと帰って行った。
「来翔さん! あっしがアチラで豪邸を建てたら、皆さんで来ておくんなさい!」
「はい! 雨森さんも須佐ノ国まで気をつけてくださいね!」
「ゲコゲコ!」
「ピヨピヨ!」
アメリカでしこたま稼いだ雨森とデメタは、来翔からドルをQに両替して貰って、故郷へと旅立った。東の果てにある須佐ノ国目指して、二人は歩き出した。
奥尻島の鍋釣岩の前には、来翔とレフトがそんなガマの油売りの二人の事を、いつまでも手を振って見送っていた。
(第136話へ続く)
