夏になると思い出す、母とヘビとネコ。
今回、2度めとなりますが、のぞみんさんの企画に参加させていただきます。
母との夏の思い出、と言っても、ごくありふれた日常で起こったことです。
実家のあるあたりは、私が小学生の頃、雨が降った後、よく路面に
「これでもか!」と思わせるほど、見渡す限り、みみずの死骸が散らばっているようなところでした。
私が夏休みのある日、家の前で近所の子となわとびをやっていたときのこと。
当時、家の前に畑があり、そこからヘビが出てきました。
私はびっくりして、
「きゃー」と叫ぶと、母があわてて家の中から出てきて、
「どうしたの」と聞くのです。
「へび、へびが出た!」と叫ぶと、
母は家の方へ引っ込んでしまいました。
しばらくして、ほうきを持ってきたと思ったら、
なんと道路で這っているヘビをほうきで掃き始めました。
掃く、というよりはまるでゴルフのクラブでボールを打つかのように。
ヘビを打って、落ちた先で、また打つ、の繰り返し。
ついには、少し離れた用水路まで追いやりました。
そのとき、初めて、母のたくましさを知った思いがしました。
それからしばらく経ったある日の昼下がり。
私は2階に行こうと階段を上っていました。
すると、誰もいないはずの2階で物音がしました。
「え、まさか泥棒?」
恐る恐る忍び足で、物音がする方へ向かって行きました。
すると、私のことを遠目に下から見上げる目とぴったり目があいました。
私は、思わず「きゃー」と大声を上げました。
家にいるはずのないネコに遭遇したからです。
ネコの方も私の様子に驚いた様子。
ネコが通るほどしか空いていない網戸の隙間から、あわてて飛び出していきました。
ネコも相当、慌てたのでしょう。
飛び出して、ベランダの柵の隙間からジャンプした先は、ベランダより少し低いところにある松の木のてっぺん。
「あら、ネコちゃん、あんなところに行ったのね。」
家からいなくなったことで、ほっとしていました。
しばらくすると、か細い声で「ニャー、ニャー」と鳴くネコの声が聞こえてきました。
どこから聞こえてくるのかと思って外を眺めてみたら、先程の松の木のてっぺん。
どうやら下りられなくなった様子。
母に話すと、「そのうち下りてくるでしょう」と。
それでも、5分が過ぎ、10分が過ぎ、下りてくる様子がありません。
さすがに、母もこのままではいけないと思った様子。
物置から脚立とほうきをひっぱり出してきました。
どうするのだろう?と思っていると、
脚立をはしごのように伸ばし、松の木近くの柵に立てかける。
ほうきを片手に持ち、慎重に、はしごを上っていく。
母がたどり着いた先は、見上げると結構、高く見える。
それだけでも届かないので、ほうきでネコを寄せるようにする。
ネコは怖くて身動きとれないだけでなく、どうすればよいのか迷って
いるのか身をこわばらせるようにして、じっとしている。
母がもういちど、ほうきでネコを寄せるように手前に動かす。
何度か繰り返すうちに、どうにかネコは地面に飛び降り、逃げていきました。
自分の家の木で困っているネコを、子供が見守る中で助け出した母。
その姿は、家族の平穏を守る「母としての強さ」に溢れているように見えました。
夏休みの終わりの頃のこと。
いつもどおり、私は近所の子と家の前で遊んでいたら、
向かいに住むおばさんが家から出てきて言うのです。
「さっきから玄関の上の屋根でずっと、ネコが鳴いているの。
下りられないのかしらね。追っ払おうとしても、ずっと鳴いているだけで困っちゃってね」
見ると、この前とそっくりな白黒模様のネコが屋根の上にいて、
こちらを見下ろしていました。
私はすぐさま家の中にいる母を呼びに行きました。
何せ、この前もネコを助けたばかりですから。
すると、母はまたまた脚立とほうきを持って登場しました。
ネコのいる屋根にはしごを立てかける。
しかし、この前の松の木より高さもあり、
ネコは怖がって屋根の奥側、壁側にいました。
ネコがいるところまでは届きませんが、ほうきをネコのそばに
差し出しては引く。
差し出しては、引く。
繰り返しているうちに、ネコはほうきの動きに合わせて、
着いてきては、じっと立ち止まる。
また、着いてきては、じっとする。
何度か繰り返して、ようやく母のそばまで来ました。
今回も、そのネコは地面にジャンプするのかと思ったら、
それでもじっとしたまま。
母は観念したようで、下で見ていた私にほうきを渡して、
ネコに手招きし、近づいてきたネコを片手で抱きました。
片手にはネコ、片手にははしごを握りしめながら、慎重に下りてくる母。
母が2、3段下りたところで、急にネコが母の腕からするりと抜け出し、
地面に飛び降り、逃げていきました。
母は脚立を片付け、家に入るや、
「もう、ネコなんて、だいっきらい!」
と吐き捨てるように言いました。
私は、唖然としてしまいました。
あんなに一生懸命に、落ちないようにと優しく抱きかかえていたのに。
「まったく、いつもフンばっかりするし、人騒がせで迷惑ね」
そう言って、母はネコを抱いた手を洗いに洗面所へ向かいました。
「あぁ、えぇ汗かいたわ」
なんて爽やかなものではなく、どこか呆れたような、でもやり遂げたような顔をして。
一回目は母としての強さを感じましたが、二回目は少し違いました。
近所の人の困りごとに、たとえ大嫌いな相手(ネコ)が対象であっても、損得抜きで体を張る。
それは母という役割を超えた、一人の「人間としての凄み」だったのだと、今になって思います。
その背中を見ながら、私はさっきまで母の腕の中にいたネコの重みや、
母が必死に伸ばしていた手を思い出していました。
ネコ、大っきらいだったんだ。
それでも、あんなに必死に助けたんだ。
夏になると、あの夏を思い出します。
ヘビが出れば、ほうきを片手に用水路まで追いやり、
ネコが困っていれば、文句を言いながらも助ける。
人は、好きだから手を差し伸べるとは限らない。
嫌いでも、困っているものは放っておけない。
それまで私は、母を少し怖くて、厳しい人だとばかり思っていました。
母もかつては田舎で育った子どもだったのだと、そのルーツに触れたような気がしました。
人は一つの顔だけではない。
あの夏、ヘビとネコが、私に母の別の一面を見せてくれました。
のぞみんさんの「書いてたら、えぇ汗かけます」を思い出しながら、母の汗を思い出していました。
のぞみんさん、素敵な企画をありがとうございました。
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