それ以来、お化け屋敷と呼ばれるようになりました【ぬいぐるみたちのやさしい物語】ファンタジー小説
それは、ヒグマとシロクマが夕食後に食器を洗っているときでした。
「ドン、ドン」
玄関のドアがノックされる音に二匹のクマは顔を見合わせました。
魔女の家に人が訪ねてくることなどほとんどないですし、ましてやこんな夜遅くならなおさらです。
ヒグマとシロクマがこっそり玄関を覗くと、魔女がドアを開けようとしているところでした。
「お前たちは隠れてなきゃだめだよ。
喋るぬいぐるみなんて見たら、みんなビックリして気絶しちゃうから」
魔女は「シッ、シッ」と手で合図を送りますが、好奇心が旺盛すぎるヒグマとシロクマが言うことを聞くはずがありません。
一度顔を引っ込めますが、すぐにひょっこり戻ってきます。
訪ねてきたのは若い男女二人組で、二人ともとても疲れている様子です。
ヒグマとシロクマは丸い耳をピクピクさせて聞き耳を立てます。
どうやら二人はハイキング中にツキノワグマに襲われて、必死に逃げているうちに迷子になってしまったようでした。
「今晩、泊めていただけますか?」
魔女は大いに迷いました。
彼女は極度の人見知りなのです。
しかし、事情が事情だけに二人を迎え入れました。
魔女が二人をリビングに案内すると、二匹のクマのそばに飛んできて言いました。
「わたし、初対面の人無理だから面倒見てあげて」
魔女は「では!」と手で合図を送ると、そそくさと自分の部屋に逃げていきました。
「どうしよう」
シロクマが頬に両手を当てて考えます。
見つからないようにリビングを覗くと、疲れてうなだれている二人がいます。
二匹のクマは相談して、とにかく飲み物を出すことに決めました。
キッチンで砂糖入りの甘いホットココアを作っている間に作戦を立てます。
ヒグマが外で音を立てて二人の気を引き、
そのすきにシロクマがホットココアをテーブルに置く。
「うまくいきそうだね」
ヒグマとシロクマはがっちりと握手をした後、それぞれの持ち場に散っていきました。
少しして、両手にホットココアを持ったシロクマがリビングを覗きました。
人間二人はソファーに寄り添って座っています。
「ガサガサ、ガサガサ」
窓の外で茂みが揺れる音に慌てふためく人間二人。
茂みの音がおさまると、窓に近づき恐る恐る外を覗きます。
シロクマは「今だ!」と部屋に入りホットココアをテーブルに置こうとしますが、ついうっかり日頃の行儀のよさが出てしまい「どうぞ」と声を出してしまいました。
振り向いた人間がシロクマを見て「クマだ!」と叫びました。
ビックリしたシロクマは転んで、持っていたホットココアを頭からかぶってしまいました。

「アチチ!!」
騒ぎに気付いたヒグマが窓に駆け寄りました。
そして、床に倒れているシロクマを見つけると、火傷していないかという心配で我を忘れ、力ずくで鍵のかかった窓をガチャガチャとこじ開けようとしました。
「こっちにもクマだ!!」
ツキノワグマに襲われ、命からがら逃げ込んだ先で再びクマに遭遇した人間二人はパニックになり、悲鳴を上げながら部屋の隅でガタガタと抱き合って震え出しました。
「なんの騒ぎ!?」
あまりの騒々しさに、魔女がドアを勢いよく開けて飛び込んできました。
救世主の登場に、人間二人は魔女の足にすがりついて叫びます。
「た、助けてください!!クマが……喋るクマが!!」
しかし、助けを求められた魔女の顔は、みるみるうちに真っ青になっていきました。
そうです。
彼女は極度の人見知りなのです。
見知らぬ人間二人に至近距離で見つめられ、大声で話しかけられた魔女は、白目をむきブルブルと小刻みに震えて動けなくなりました。
魔女の異変に気付いたシロクマが、ホットココアでベタベタになった毛を引きずって甘い匂いを漂わせながらゾンビのように魔女と人間の方へ這い寄っていきます。
シロクマが「ベタベタ」。
ヒグマが「ガチャガチャ」。
魔女が「ブルブル」。
人間二人は大急ぎで荷物を掴むと、
「お化け屋敷だ!」
と叫びながら夜の森の中へ消えていきました。

【お知らせ】
魔女の森に住むぬいぐるみたちがトートバックになりました!
物語から飛び出したみんなを是非チェックしてください。
