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【創作】亀のハナウタ

🌸はらとけいさんの企画に参加しました🌸

「あれ?亀?」
 メグミは笑った。

「うん 霊亀山・大超寺だよ」
ハルキは答えた。
 

その寺院の山門をくぐると、五輪塔と水盤の整えられた庭があった。脇の木立が涼しげな影をつくり、亀が甲羅干し、水盤には鯉が泳いでいた。

「それが僕の知ってる大超寺なんだけど」
「えっと、それって京都のお寺よね?」

「京都にもあるけど、僕とこは宇和島の大超寺だよ」
「そういえば京都の大超寺も宗派は同じかも」

 メグミは自分のスマホ画面をハルキに向けた。
「宇和島に赤松遊園地ってあるじゃん 観覧車は?」
「なにそれ」
「遊園地に観覧車はマストでしょ?」
「なんで観覧車なんだよ」
「ハルキそれ訊く?景色を一望したくならないの?」
 すっごい絶景なのに。メグミは笑った。

 私は高いとこが好きなんだよ。

 ハルキはラテアートのコーヒーをすすった。泡立てられたマシュマロ入りホイップが、溶けない雲のようにカップの表面を覆っている。

「あのさ 遊園地って

①USJ(ユニバーサルスタジオジャパン・大阪)とか、
②ナガスパ(ナガシマスパーランド・三重)とか、
③ポルトヨーロッパ(和歌山)

 イメージこのあたりでしょ」

「④TDK(東京ディズニーランド)も入れて」

(はい)
 ハルキは素直だ。

「あのさ 愛媛県は自然が豊かなんだ」
「だから?」

「えっと赤松遊園地にメカは無い 以上」
「じゃ何があるの?」

「大きなブランコ それに乗って海に飛び込む」
「エコの極みだね」

「赤松覗き岩がある 近くの九島にゴジラ岩っていうのもあるよ」
「アトラクションは無さそうだね」

「うーん そういうとこじゃないんだよ」

 ハルキは唸った。かまわずメグミはスマホ画面を操る。

「ずっと前に閉園したけど 地元あげて再生に取り組んでるって」
「南予は廃墟ばかりだって 衰退する一方だよ」

「ハルキに地元愛は無いわけ?」
「そんなに単純じゃないって」

 この夏、海のそばの実家に戻ったら、祖母が腰痛で寝てた。家業が養殖で、決まった時間に給餌しないと魚が痩せて売り物にならない。近所も手伝ってくれたが、まず給餌を頼まれた。あれだけ言われたのに寝過ごして、仕方ないから目を覚ました夜中にやろうとしたら、足元が暗く海にドボン。当然ズブぬれ。会議の予定があるから、翌日午後には出社したい。だから、せめて靴下だけでも替えたくて、だけどそんなときに限って替えすら無くて。買おうって店探したけど、いつのまにかコンビニすら20時閉店になっていて、けっきょく翌朝までコンビニの開店を待つ羽目になったんだよね。

 メグミは笑った。

「夏で良かったじゃない サンダルで出社しても良かったんじゃない?」
「やだよ だいたいメグミが爆笑するでしょ」

 メグミのコーヒーはブラックだ。砂糖もミルクも入れない。

「きっと今年も暑いんだろうけど 魚って夏バテしないの?」

「出荷前に鯛の体色が変わって止まりかけたし 日焼けはするみたい」
「そっか 魚にも日焼けってアリなんだ」
「養殖屋には死活問題だよ 品質不良で返品されちゃう」
「そっかそっか だからって簡単に日除けもできないもんね」

「ホントこの頃の天気は異常だよね」
「そうだよ こないだは大超寺、庭に全部コンクリ貼っててさ」

 ハルキは眉をひそめている。

「亀はいた?」
「いや、池もなくなってるし 亀・・・ どこいったんだろ」

 メグミは笑顔になった。

「大丈夫だって 亀は強いんだよ」
「え?」

 ハルキの、そういうとこが可愛いんだって。
 霊亀山の亀が絶滅したら存続の危機じゃん。
 その亀はお寺の中で大事にされてるよ。

「そろそろ出ようか」

 春の日差しの中、二人は手を繋いで歩いた。

「そのお寺の亀、見たくなった」
「じゃあ宇和島いく?」

 メグミはハミングしたくなった。
 その亀もハルキに会いたがっていると思う。

 【終】


 【あとがき】

画像は、有馬温泉(兵庫県)の吉高屋の看板亀(?)です。大超寺で見かけた亀と、そんなに目が合ったりしませんでした。声帯が無いため、「亀が鳴く」という季語は春の比喩に過ぎませんが、画像の亀は人馴れしていて、何か言いたげにも見えますよね。