しずくの問いかけ|シロクマ文芸部
蛇口から、いつものように水を出した。
朝のぼんやりとした光がキッチンに差し込んでいる。
眠い目をこすりながら、マグカップをゆすぐ。
朝は、一杯のコーヒーから始まる。
目を覚まさなきゃ。
すると、流れ出した水の中から、しずくが……
いや、しずくのかたちをした”問い”が、ぽたりと落ちた。
「あなたの今は、どこにつながるの?」
水の隙間から聞こえたような気がしたその声に、
思わず蛇口を止めた。
今がつながる先?
そんなのわからないよ、と思いながらも、
しばらくじっと、流しの底を見つめてしまう。
今…だよな。
私は“今”のことで手いっぱい。
今日の仕事、明日の心配、眠れるかな?とか
数センチ先のことすら、余裕がないのに。
老後?将来?新たにやりたいこと?
そんなの、まるで自分とは違う他人の人生みたいで、
ぼんやりとした霧の向こうにしか見えない。
そもそも生きてるかもわからない、
何年後の未来なんて、想像しようがない。
なのに、しずくはまた、ぽたりと落ちた。
「あなたの未来は、どこにあるの?」
言葉は、まるで自分の中からこぼれたみたいに、静かだった。
誰かに問われたわけじゃない。
でも、どこかの自分が、自分に聞いている気がした。
答えなんて出ない。
けれど、問いだけは、確かにそこにある。
私はまた、蛇口をひねった。水は何事もなかったように、たださらさらと流れていく。
しずくの形をした問いは、しばらくシンクの片隅にとどまり、やがて、静かに消えていった。
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