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Split of Spirit 23

平良は、欠伸をしている。

彼は人造人間だった。

南場たちの実験の後で、イマジナリーブレインを移植された。

もともと人造人間の傭兵部隊に所属していたが、とある任務中に、彼は、拠点から逃げて、戦争、紛争を中立的な立場から観察するようになる。

どちらかに肩入れするわけでもなく、人が人を殺す様をただ眺めている。

そこに快楽や、愉悦はなかった。

人間を知りたい、その感情が彼を突き動かした。

特に人間同士で命を奪い合っている様子に、心惹かれていた。

様々な国の、治安の悪い地域を訪れ、死体と目を合わせていた。

スラム街を歩いていると、通り魔に遭遇する。

目が合った平良は、干渉を避けようとする。

すると、通り魔の視界から目の前にいたはずの彼が消える。

突然の出来事に通り魔は困惑している様子だったが、平良はおおよその自分の能力の詳細を把握できていた。

「人間」を求め、さまよう中、彼はとある人造人間の組織に辿り着く。

その組織は「人造人間を解放し、人間社会を破壊すること」を目的とするらしい。

興味が湧いた。

人造人間で結成された組織と、人間として生きてきた鳴田がぶつかる様子は、平良にとって新鮮な体験だった。

だから彼はあくまで中立の立場を貫いていた。

しかし、鳴田の急成長、吉沢の暴走で、戦力はやや鳴田側に傾く。

「やはりこれは僕が出る必要がありそうだね。」

ペンを回して、物思いにふける。


南場家は燃えてしまって、鳴田は、自分の部屋で生活していた。

南場、芝田、武内を連れて、家に帰った鳴田。

芝田が廊下を歩いていると、廊下の向こう側から、南場がやってくる。

「おい、狭いぞ!芝田!」

「しょうがないだろ、部屋が狭いんだから!!」

「狭い部屋で悪かったな!!」

以前の調査で、南場は平良が元軍人であり、組織に頻繁に出入りしていることが分かっていた。

そのため、鳴田の部屋に侵入した平良のことを組織のリーダーだと勘違いしたのだ。

「まさか、吉沢と俺が同期で、記憶を消されてたとはな。」

育成施設から脱走した夜の真相を知らされる。

「どうりで、ちょこちょこ話がかみ合わないと思ったぜ。」

武内はうなずきながら納得している。

鳴田がイマジナリーブレインを覚醒させた武内との戦いは、あらかじめ南場によって仕組まれたものだった。

南場、武内、芝田は、別れてからも互いに連絡を取り合っていたらしい。

「あの死にかけた夜が、計算の内だったなんて……」

「まぁ、武内が殺しそうだったら止めに入ってたよ。」

「武内がいなくなったときは焦ったがな」

ファミレスを出た後、芝田に、行方をくらませた武内について問われた時。

あの時の芝田の眼は本気だったようだ。

「俺たちの持っている情報はこれで全てだ。

さて……」



―教会―

平良はマリア像の前で祈りを捧げている。

教会の扉が開き、反射した日光が差し込む。

ゆっくりと目を開け、平良は振り向いた。

「ハッ、人間じゃあるまいし、」

武内は乾ききった笑いを見せる。

「『知る』ためには行動を模倣するのが基本だろう。」

平良が答える。

武内は、刀を抜いて一気に距離を詰める。

平良に目掛けて振り下ろす。

土煙が舞い、手ごたえがないことからも、当たっていないことが分かる。

煙を払い視界を確保するが、平良の姿がない。

「どこだ?」

実際には、平良は武内の背後にいるのだ。

しかし武内は、気配に気づけない。

懐から丁寧にコンバットナイフを取り出し、武内に近づける。

武内にナイフが刺さるよりも先に、芝田が思い切り平良目掛けてタックルする。

平良は吹き飛び、受け身をとるが、平良を受け止めたマリア像は粉々に砕ける。

「やはり仕留められないか」

平良は、砂埃を払い、姿勢を正す。

「同じイマジナリーブレインを持つ者同士の僕たちに戦う理由があるのか?」

「やっぱり、お前もだったか」

「……僕たちの戦う理由はなんだ?」

「お前の思惑に吉沢を付き合わせるわけにはいかないからだ。」

「違うだろ、」

芝田は武内の眼を見てため息をつく。

「戦うのが、楽しいからだ」

武内は無邪気にそう言った。



平良のイマジナリーブレインによる能力は、「一時的に他人から認識されなくなる」。

自分の眼を見られることが発動条件。

解除条件は、能力対象者以外の人間が自分の眼を見ること。

能力を重ね掛けすることはできず、他人からの認識を消せるのは一度だけ。

つまり複数人の認識を消すには、自分に視線を集中させなければならない。

平良は、武内と芝田のコンビネーションに苦戦していた。

(どちらか一方の認識を消しても意味がない。

一刻も早く、太刀筋を見切りたいが、連携のバリエーションが多すぎる。)

芝田との連携は、育成施設での訓練の中で最も得意な分野だった。

武内は、斬撃を繰り出し、避けた位置に芝田が拳を叩きこむ。

「また消えたぞ!!」

芝田が見失う。

「そこにいるじゃねぇか」

武内は、能力の対象になっていない。

距離を離しても、すぐに見つかり、目を合わせられる。

その瞬間、芝田の視界にいなかったはずの平良が現れる。

「見えてきたぞ、発動条件が!」

芝田が叫ぶ。

「だからなんだ?」

平良の顔に焦りが見え始める。

芝田と武内に挟まれたこの状況。

(発動条件を看破されると非常に厄介だ。

能力は多用できない。

……仕方ない。)

平良は目を閉じた。

「!?」

平良の正面にいた芝田は、異変に気付く。

(あいつ、なぜ目を?)

武内が後ろから、胴体目掛けて、刺突を行うが、紙一重で体を捻ってかわす。

近づいた武内を後ろ回し蹴りで吹き飛ばす。

「ぐっ…」

咄嗟にガードはしたが、威力を殺せていない。

「今のでいったな」

肋骨の辺りを触り、折れていることを確信した。

(デジャブだな)

武内と鳴田の最初の出会い、彼はイマジナリーブレインを覚醒させ、敗北してしまった。

その時にも、武内は後ろ蹴りで、倒されてしまった。

「油断するのは悪い癖だな。」

痛みはあるが、立ち上がる。

「くッ」

芝田は壁際に追い詰められている。

(なぜだ、技を出しているのはこちらの方なのに。)

平良は目をつぶったまま芝田の拳の連打を、全てかいくぐる。

すれ違いざまに、芝田の腕にナイフの刃先を当てていく。

(どうなっている、なぜ当たらない。)

平良は殺気に対して敏感であった。

飛んでくる拳に込められた殺気の一端を感じ取り、回避に繋げる。

これはイマジナリーブレインの能力そのものではなく、紛争地帯で数多の死線を潜り抜けたことで発現した第六感。

振りかざされるナイフによって、徐々に芝田の腕が紅く染まっていく。

その瞬間、立ち上がった武内が距離を詰めて、平良に飛び掛かる。

平良はそれを半身でかわすと、武内の首元を掴む。

顔を覗き込み、目を見開いて、武内と目を合わせ、彼の視界から消える。

首を掴まれている平良の腕はそこに在るが、武内が彼の姿を捉えることはできない。

ゆっくりと目を閉じる平良。

このまま目を開かなければ少なくとも、武内に殺されることはない。

首から手を離し、距離をとる。

芝田には、平良の姿が見えている。

しかし、攻撃を当てることはできない。

武内は芝田が空を殴っているのを見て、硬直している。

「詰みだ」

平良はつぶやく。

芝田は絶望しながらも拳を奮う。

ナイフが芝田の胸に向かった時、武内の刀が、ナイフの先を斬りおとす。

「!?」

平良の能力によって接触している無機物も同時に認識されなくなっているはずだった。

(なぜだ!?)

意識外からの攻撃に狼狽える平良。

武内は下を俯いたまま、ぶつぶつと何かをつぶやいている。

感じたことのない寒気がする。

「捉えたぞ」

顔を上げて、邪悪に口角を上げる武内。

思わず、距離を離そうとするが、一挙手一投足が認識されている。

完全に動きを読まれている。

(負ける?)

武内は、平良の足元を見ていた。

体重によるわずかな床の凹みを見逃さなかった。

体重移動が鮮明に分かったことで、武内は平良の動きを完全に予測できていた。

(これは……)

平良の足が止まる。

「詰みだな」

武内の放った袈裟斬りは、平良の身体を深紅に染め上げた。

その場に倒れて、朦朧としながらも目を開いた、平良。

「あぁ、やっぱり神になんてすがるもんじゃないな」

腕を広げた彼のシルエットは皮肉にも十字架。

「おっ」

武内の視界に、彼が現れる。

「僕を……殺すのか?」

「拷問したいのは山々なんだが、生憎、あいつに止められててな」

「……彼か。根っからの聖人君子だな、一体どういう考えで僕を」

「何も考えてないからだと思うぞ」



一方その頃、鳴田は、南場と共に、吉沢と対峙していた。

ここは鳴田の通う、聖陵高校、2年3組の教室。

吉沢は教室の中にいて、鳴田、南場は、入り口を塞ぐ。

「また君か」

吉沢はため息をつく。

「そうだ、俺だ」

威圧感に気圧されながら、それでも力強く。

「鳴田秀平君、君は恵まれた人間だ。

一体どんな言葉を僕に投げかける。

そのどれもきっと僕には届かない。

僕は君の話を聞き入れないし、己に課した使命から逃げない」

鳴田は目を閉じる。

「結局、進む道は違っても、自分自身の原点に、感情に沿って生きていけば、俺たちは出会う運命だったんだ」

「俺の邪魔をするなら消えろ」

殺気が濃くなる。

鳴田は目を合わせる。

「俺はそれでも大切なものを守るよ」


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