見出し画像

気づいたら赤いランドセルを背負ったままアラサー。


赤いランドセルを背負っていた。ランドセルを入れるロッカーの中には、赤か黒しかなかったから赤を選べば正解とわかって安心した。
黄色い帽子のゴムはビヨビヨに伸びていて好きではなかったけど、みんなそうだったからよかった。

みんなと同じだから安心したのに、みんなと同じになれなくて酷く苦しんだ。

通学班の先頭を歩くのが精一杯だった。何もできないのに、みんながやりたくない嫌な役目は回ってくる。

みんながやりたくないことは、私にはやれないことなのに。押し付けられて、配役が決まった後によいちゃんにはできないから、と先生に言われて、役を降ろされた。そういうときも、怒りたかったのに笑っていた。

今だによいちゃんにはできないから、が未来を縛る。

よいちゃんにはできないから、よいちゃんは未来を見てはいけません。
なーんてさ、未来を見なくても未来はやってくるから、準備もせずに太刀打ちできず、常にアップアップの状態だった。

12までには友達を作りたい。
16までには同じになりたい。
20までには一人前になりたい。

みんなと同じになれない未来に、よいちゃんが未来を彷徨って落ちていく。足にはイライラして引っ掻いた傷だけが増えていった。

私、本当は赤いランドセルあまり好きじゃなかったけどね。
私、本当は体育着をズボンにしまうのも嫌だったんだけどね。
私、本当は〇〇なのに。

それは言ってはいけないお約束だった。同じにならないといけなかった。

ゆいちゃんも、まみちゃんもできてるのになんで、よいだけ同じにできないんだ、って怒られる。また叩かれる。

言えないから、本音をノートに書き綴ったら見つかって、教室で大声で読まれた。
書いたものはバカにされた。
それなのに、書いたものは評判になって、みんなに読まれて、よいちゃんはこういう人でしょ、と、知らない人にも言われた。違うよ。

よいちゃんは、文章の中では何にでもなれた。

よいちゃん、30歳。
赤いランドセルをおろす準備をしている。

本当は、お花屋さんになりたいわけじゃない。
パン屋さんにもなりたいわけじゃない。
親も許してくれるから公務員になったけど、なりたかったわけじゃない。

本当は、物書きになりたいの。

中学のときに友達いなくて教室で読んでいた国語便覧。汚い現実の世界にいても美しいものを見せてくれるから好きだった。学校は嫌いだったけど、毎日通った。みんなと同じ。でも、見てるものは違った。国語便覧を見て夢を見た。

だから、物書きになって国語便覧に載りたいの。

私ね、黄色い帽子に、赤いランドセルをおろしたい。

新しい人生始めたい。

そんな5月ももう終わる。



いいなと思ったら応援しよう!