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私の後ろの少年

ある日、飛行機に乗ると何やら騒がしい。

自分の席がリズミカルにバウンドするのだ。

控えめに後ろを振り向くと、後ろには誰も座っていないように見える。しかし、その隣には静かに、けれど険しく子を注意する夫婦の姿。

「あぁ、さてはちびっこが私の後ろに座ってるのね」

そう思いながらリズミカルな振動に揺られていた。

トントントトン、トントトン

私があまりにも何も言わないものだから、見えない少年らしき子は、座席を蹴り上げた。

ドンドンドン!

痛くはないが、さすがにびっくりして振り向くと、機嫌の悪そうな少年。

年の頃は4歳か5歳か。母に何度もやめなさいと言われることにも飽きたようだ。

「まどからくもと、そらが見えるっていってたのに見えないじゃん!」

母の剣幕に目もくれず、言い返す少年の言う通り、この日の天気はあまり良くなかった。

どす黒い雲と雨に覆われ、昼なのに機内の照明のほうが明るい。

私はどうも飛行機慣れしてしまって、外の景色なんて見ていなかった。

しかしきっと後ろの少年にとっては、旅行の楽しみの1つであったであろう。

「私は何度も飛行機に乗っているけれど、意外と途中から晴れるときがあるの。そういうときはたまに、虹も見えるんだよ」

母に反抗をして私の座席を蹴り上げる少年にちらっと顔を見せると、えっという顔をした。

「にじ、見えるの?」

私が頷くと、少年の目はキラキラと輝いた。

「空から見える虹はね、あんまり長続きしないから、よく見ておかないとね」

そう言うと、少年は蹴るのをやめて、窓にかじりついた。

少年の母からはお礼を言われたが、大したことはしていない。

大人のフライト時間と子どものフライト時間では体感が違う。飽きてしまって当然だ。

やがて、幸運が訪れた。

飛行機の高度と天候が良くなったことで、少年が待ち望んだ、青く澄んだ空とふわふわの白い雲が眼下に広がったのだ。

結局、虹は見られなかったが、少年は母からスマホを借りると、窓の外を撮影し始めた。

外が明るくなると、少年はわくわくを隠せず、とても元気に母に話しかけた。

静かな機内に少年がはしゃぐ声が響く。

迷惑そうな人、つられて外をのぞく人、気にしない人、機内にはそれぞれの人々と、「静かにしなさい!」と眉をひそめる母がいた。

「あのくもはね、しまになってるんだよ!」

「あの上でとんだらもっと高いところにいけるんだよ!」

私の後ろの少年は、豊かな想像力で空を見つめていた。

思わず私も窓を見つめる。

布団のようなカーペットのようなフカフカの雲。

私の大好きな水色の空。雲の合間から見える深い青色の海。

こんなふうに見下ろしたのはいつぶりだろうか。

私を美しい景色に招待してくれたのは、元気な後ろの少年だった。


子どもの存在は人を豊かにしてくれる。

きっと彼の母親はヒヤヒヤしていたと思うけれど、自分の息子の前の女が突然話しかけてきたことを不審がることなく、笑顔で接してくれた。


後ろの家族に幸あれ。少年の豊かな想像力がこれからもっと花ひらきますように。



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椎名なおこ|十勝のライター あなたの応援で私の執筆が進みます💙 ペットの🐢と夫と穏やかに過ごす時間にいただいた支援で紅茶を取り入れたいです☕