青ブラ文学部|春の定義
霧雨の中、人影のない桜の並木道が続いている。
二人は、ゆっくりとその歩道を歩いていた。
「こんな季節に私を呼び出すなんて、残酷ですわ。教授」
「すまない。
だが、こんな季節だからこそ、きみに逢いたくなった」
「あれから、もうずいぶんになりますのね。
先生がアメリカへお立ちになった。あの春から」
「ああそうだな。研究のためには、そうするしかなかった。
きみには、本当に申し訳ないことをした」
「分かっています。あの頃、私は心がどうかして、とても酷い状態でしたから」
そう、あの頃 なぜか、春が悲しかった。
満ちて来る春の光
静かに 圧倒的に 満ちてくる光。
その 空の輝きに なぜか涙が溢れた。
華やいだ仮面の下に、どうしようもない、 むなしさを感じていたあの頃。
「いたずらな春風のようだったきみが、春をそんなふうに感じていたとはね」
「自分でも気づいていなかったんです、最初は。
でも、気づいた時には、気持ちが闇の中に沈んでしまって
抜け出せなくなっていたんです」

「そう、本当に辛いことだった。あれが、私達の時を奪ってしまった」
「もう、過ぎたことですから」
「うん、ここは変わらず美しいな」
「ええ、わたしのいちばん好きな春がここにあります」
誰もいない舗道の さくら並木は 霧雨に霞んで
みなもに伸びた枝から 時折り 花びらが舞い落ちる
それが、二人にとって、心安らぐ春だった。
山根あきらさんの #青ブラ文学部 に参加させていただきます。
どうぞよろしくお願い致します。
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