青ブラ文学部| 4月生まれの君へ 戦さの後で
I山根あきらさんの #青ブラ文学部
「#4月生まれの君へ」というお題に応募しました。
裏山に大きな山桜の木があった。
春になると、淡いピンクの花びらが庭先に舞い降りてきて
井戸の水に浮かんでいたりする。
父さんが生まれる前から、あったらしい。
そんな桜の木が、夏の嵐で折れて、横倒しになったまま冬を越した。
水もぬるみ、田植えの季節が近づく頃になると
小学校に上がったばかりの美桜は、毎日のように裏山に登った。
そしてある日、倒れた桜の小枝にほんのり赤いつぼみを見つけたのだ。
よく見ると、あちこちでつぼみがふくらんでいる。
美桜は、息をはずませて駆け降り、畑仕事をしていた父親に向かって叫んだ。
「父さん 父さん! あの桜 つぼみが付いてるよ」
「なに? ほんとか」
やがて、日ごとに暖かくなる春の陽射しに誘われて、つぼみは花開いてゆく。
そして、4月生まれの美桜の誕生日がやってきた。
畑や田んぼの仕事に追われる両親も、ほんのひととき手を休め
山桜のもとで昼食になった。

今まで高くそびえていた枝が、斜面に倒れて無数の花を付けている。
美桜は、遊びに来た従姉妹と、その花の枝を折るのに夢中だ。
陽を浴びた山の斜面は暖かく、落葉と土の匂い。
遠くの田んぼから、カエルの鳴き声が聞こえてくる。
誕生日のお祝いといっても
母さん手作りのちらし寿司と、頂き物のお饅頭くらいだ。
戦争が終わっても、辺鄙な山村では、まだまだ貧しい暮らしが続いている。
美桜は、あの戦争から生きて帰った父さんと
満州から無事に戻った母さんの間に生まれた 一人娘だ。
父さんは、その姿を見つめながら、晴れた空を仰ぐ。
ほんの10年余り前、日本は激しい戦禍の中にあった。
あの頃を何も知らず、平和な春の陽射しに包まれている娘 4月生まれの君へ
もう二度と 二度と戦争をしてはならない。
どうか、君たちの時代が平和であるように。
彼は、そう祈りながらも、苦い思い出に囚われていた。
村を出て大工修行中に招集され、海軍で軍艦に乗っていた時の事だ。
あの日 甲板で炸裂した砲弾が隣にいた戦友を奪っていった。
ささくれた砲弾のカケラが、決して口にした事のない想いと共に
誰の目にふれる事もなく、棚の奥深くしまわれている。
( 全てを封印して生きてゆくしかない )
父親は胸の内でつぶやいた。
そして時は流れ
桜は根元から新しい芽を出し
ずいぶん小さくなったけれど、ずっとその家を見守り続けた。
戦争から生きて帰り父となった男も、生涯かけて家族を守りぬいた。
山根あきらさんの #青ブラ文学部 に参加させていただきます。
どうぞよろしくお願い致します。
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