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原理A:愛から始まる個人の幸福

原理B:仏教における悟り

人生の全ては苦しみである(一切皆苦)、全てのものが時とともに移り変わってしまう(諸行無常)。世界には避けられない不条理がある。仏教の悟りは、それと対峙しなければならなくなった時、それを克服するプロセスだ。

世界に逆らうのではなく、自分の側(煩悩)を消却し、自然の摂理(法、ダルマ)の側に溶け込む。世界をあるがままに受け入れ、不条理を超えた先にある光を感じる。

これを原理B「外部環境への整合」の行動原理と定義する。


これに対し、西側世界、キリスト教文化圏では「個人の幸福追求」という原理Aが行動原理となっている。これを原動力にかつてない繁栄を生み出した。

これも合理的な結論や利己的な欲求ではなく、人間の奥底から湧き上がる身体知に基づいた行動原理なのではないか。

それを中世騎士物語に原点を見出すことができると考える。

原理A:愛に身を捧げる

「トリスタンとイゾルデ」では、マーク王の使者のトリスタンは、マーク王の妻となるイゾルデとほれ薬を飲み、二人は恋に落ちてしまう。

侍女 「今飲んだのは薬ではなく、死(破滅)です」

トリスタン 「もしそれが私の死だというのなら、この死こそが我が生命だ。もしそれが私の破滅だというのなら、この破滅こそが私の喜びだ。この愛ゆえの死(痛み)が続くなら、私は永遠に死んで(苦しんで)いたい」

許されない恋、という個人の情動が社会の掟を超越する瞬間に、たとえそれが不条理な運命や苦痛だったとしても、それは自分にとって生命の輝き、今生きているという実感を与えてくれるものだと見出した。

悟りが自己を打ち破り外部に整合するのに対し、こちらは外部に反抗して自己の内部に整合する。2つは構造が逆向きだが、不条理という運命を乗り越えた先という同じ境地にある。

恋愛を人間の至上の行為だとする扱いは、シェイクスピアの戯曲やハリウッド映画にも受け継がれる。

縛り付ける教義と人間性の解放

キリスト教では、全知全能の神が完全な世界を作り出した。はずなのに、世界には悪が存在する。教義上の矛盾を解決するため、悪の出処として位置づけられたのは、個人の自由意志(原罪)だ。

宇宙の真理(神)は直接、個人とつながるのではなく、教会を通さなければならない。神の声を直接聞いても、既存秩序と整合すれば聖人、不整合なら異端となる。

神の絶対秩序(教会)に縛られた息苦しさの中で、個人が自分の「生」を実感できる唯一の突破口が、物語の中の「不条理な恋愛」だったのではないか。

その「掟に背いてでも自分の内面に忠実であること」の実感が、のちに宗教、政治、経済へとスライドし、「個人の意志こそが世界を動かす力である」という近代の確信へと成長していった。

個人の自由、真理、幸福による世界

宗教改革、科学革命、市民革命、産業革命。
自由な思考(科学)や自由な権利(革命)が実際に世界を劇的に豊かにしたという「成功の歴史」は、もはや単なる手段ではなく、原理A「個人の幸福追求」を不動の価値観に押し上げた。

実際には原理Aだけではなく、バランス調整機能も存在した。
それは、新大陸や植民地といった外部への不利益の押し付けであったり、金融崩壊や戦争などの強制的なバランス崩壊でもあった。共産主義や社会主義、全体主義といった別のイデオロギーの台頭を招いた時期もあった。国際法やSDGs、環境保護など外部秩序を維持する枠組みも設けられた。

訪れた「西洋の没落」

だが、いまやグローバル化が最終段階となり、不利益を押し付ける外部はなくなった。対抗するイデオロギーも尽き果てた。

行き着く先は、ソフトランディングによる持続可能な世界か?
自然の摂理が指し示すのは、栄枯盛衰だ。すなわち、中心が移動し、多極化する世界だ。アジアやグローバルサウスが台頭しつつある。外部秩序を守る枠組みも解体されつつある。

いずれ西側世界が、アジアやグローバルサウスに経済的、文化的に従属する時代が来るのだろうか?

そんな屈辱的な世界になるのならば、いっそこの世界ごと破壊してしまえばいい。「加速主義」にはそうした考え方が見え隠れする。

既存秩序を破壊する「加速主義」

「加速主義」は、軋みつつある原理Aを限界まで加速させ、爆発させようとするイデオロギーだ。

AIによる産業爆発を引き起こし、またたく間に宇宙文明まで押し上げるのか。それとも、既存秩序を崩壊させるだけでなく、人類文明そのものを崩壊させてしまうのか。

それは誰にも分からない。

ただ一つ言えることは、誰も参加した覚えがないのに、我々全員がこのギャンブルにつきあわされているということだ。

トリスタンが受け入れた死と破滅の苦しみは、生命の輝きをもたらした。
加速主義がもたらす死と破滅の苦しみに、人類は耐えきれるだろうか。

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