人間の庭 ❘ 霧の中から、認知症のSOS
蒙霧升降(ふかききりまとう)――深い霧が立ちこめるころ。
今日は、そんな霧の候の4日目。
以前、関わりのあった方から電話が入った。
認知症が進み、ひとりで暮らすことが難しくなってきて、周囲と相談しながら、これからの暮らしを考えていた方からでした。
なかなか新しい暮らし先が決まらないようだった。
「私はここが大好きなの。ここで暮らせないのかしら。どうしたらここにいられる?」
「ご家族が一緒に暮らせたら、いられるけれど……」
「お手伝いさんじゃダメかしら?」
「あなたは、認知症という病気なのです。だから、ひとりで暮らすことが難しくなったのです」
「えっ!? 私、認知症なの? 知らなかった。誰も言ってくれなかった……」
以前から病気について説明を受けていた。
けれど、そのたびに彼女の中では、別の何かに変換されていたのだろう。
自立心が強く、たくましく生きてきた方だった。しっかりした話し方は変わらず、一見すると大丈夫そうに見える。けれど、数年前から暮らしは少しずつ大変になっていた。それでも、自分でなんとかしようと頑張っていた。
いよいよお手上げになり、
「私、施設に入ります」
と、ご本人自ら一歩前に進んだところだった。
「住めば都ですよ。きっと、新しい景色も気に入りますよ」
「あなたに話したかったから」
「私も、あなたの声が聴けてよかった。また、いつでもお電話ください」
もしかしたら、もう電話はかかってこないかもしれない。
それでも、電話を切ったあと、なぜかつながっているような気がした。
認知症は、深い霧の中に入り込んだようなものなのかもしれない。
見えなくなったり、わからなくなったりしながらも…
誰かとつながっている感覚を頼りに、
霧の中を歩いている。
🌿 Rebone Garden
