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【連載#19】受発注業務の「3つの断絶」。なぜ情報は途中で変質するのか


「FAXで受け取った注文書と、倉庫に届いた指示書の内容が違う」

受発注業務では、珍しくないトラブルです。ある商社では月に数件の誤出荷が発生し、原因を調べると「数量を読み間違えた」「単位の解釈が違った」といった理由が並びます。担当者は「次から気をつけます」と反省しますが、同じミスは繰り返されます。

これは、担当者の注意力不足でしょうか。

実は、受発注業務には「3つの断絶」が潜んでいます。情報が「受け取る→入力する→確認する→伝達する」と流れる中で、少しずつ変質していく。この構造を理解しなければ、システムを導入しても、チェックを増やしても、同じ問題は繰り返されます。



断絶1:媒体の断絶 ―FAX→Excel→基幹システムで失われるもの

最初の断絶は、情報が通過する「媒体」が変わるたびに発生します。

取引先から届く情報の形式は様々です。FAX、メール、電話、PDF、Excel、Web画面。1社の取引先が複数の媒体を使い分けることも珍しくありません。ある食品卸売業A社(取引先300社)では、FAXが60%、メールが30%、電話が10%という比率でした。

問題は、これらの情報がシステムに入力されるまでの過程です。

典型的な流れを見てみましょう。

  1. 取引先がFAXで注文書を送る(紙媒体)

  2. 担当者がExcelに転記する(デジタル媒体)

  3. 担当者が基幹システムに入力する(システム媒体)

  4. システムから倉庫へ出荷指示が出る(印刷物媒体)

媒体変換が4回。各段階で「翻訳」が行われます。

たとえば、FAXには「SUS304 10×20×1000 50本」と書かれていたとします。Excelへの転記時、担当者は「SUS304 10mm×20mm×1m 50本」と単位を補います。基幹システムでは「SUS304-1020-1000」に変換され、出荷指示では「商品コード: 12345 数量: 50」に置き換わります。

元の情報と最終的な表記は、まったく別の形です。この変換過程のどこかで解釈を間違えれば、誤出荷につながります。

媒体が変わるたびに、人間が「翻訳」している。この翻訳プロセスに、ミスが紛れ込みます。


断絶2:時間の断絶 —「届いた時点」と「処理した時点」のズレ

2つ目の断絶は、情報が届いてから処理されるまでのタイムラグです。

ある機械部品商社B社(年商200億円)の1日を追ってみましょう。

  • 9時:FAXで注文書が届く

  • 午前中:担当者は別の業務で手が離せない

  • 14時:ようやく入力を開始

  • 15時:入力完了

  • 16時:確認担当者がチェック

  • 17時:倉庫へ出荷指示

注文の受信から出荷指示まで、8時間が経過しています。

この間に何が起きるでしょうか。入力時点では在庫があった商品が、確認時点では欠品しているかもしれません。顧客から「数量を変更したい」と連絡が入っていることもあります。

より深刻なのは、月末・期末の集中時です。注文が集中し、処理が翌月にずれ込むと会計上の期ズレが発生します。在庫数値と実際の在庫が合わなくなり、棚卸差異の原因にもなります。

情報には「鮮度」があります。時間が経つほど、情報は現実とズレていきます。

▼リチェルカのお客様インタビュー


断絶3:人の断絶 —伝言ゲームで「文脈」が失われる

3つ目の断絶は、複数の人を経由する過程で生じる「解釈のズレ」です。

典型的な情報の流れを追ってみます。

  1. 営業担当が顧客から電話で受注

  2. 営業担当が受発注担当にメールで依頼

  3. 受発注担当が基幹システムに入力

  4. 倉庫担当がシステムを見て出荷準備

  5. 配送担当が伝票を見て配送

5人が関与し、各段階で「解釈」が入ります。

具体的な例を見てみましょう。
顧客が電話で「いつもの、50個ね」と発注します。営業担当は「前回と同じ商品を50個だな」と解釈しますが、前回が何だったか記憶は曖昧です。受発注担当は「この取引先の"いつもの"は商品Aのはず」と判断しますが、実は最近商品Bに切り替わっていました。倉庫担当は「商品A 50個」と受け取りますが、単位が「箱」なのか「個」なのかが不明です。配送担当は「50箱」と判断し、結果として500個が届く。10倍の誤出荷です。

この問題の根底には「暗黙知」があります。ベテラン担当者は「いつもの」が何かを知っています。取引先の癖、過去の経緯、暗黙の条件。これらは頭の中にあり、システムには記録されていません。新人にはわからず、引き継ぎ時に抜け落ち、退職時に消えます。

人が変わるたびに、情報の「文脈」が失われる。暗黙知は、伝言では伝わりません。


3つの断絶を超える方法 —チェック強化では解決しない理由

これらの断絶に対して、従来どのようなアプローチが取られてきたでしょうか。

アプローチ1:チェックを増やす
ダブルチェック、トリプルチェックを導入する企業は多いです。しかし、チェックを増やすほど処理時間は長くなり、時間の断絶が広がります。チェックする側もまた人間です。疲労や慣れで精度は下がり、ある調査ではダブルチェックのエラー検出率は70%程度にとどまるとされています。

アプローチ2:システムを統一する
全社で同じシステムを使えば媒体の断絶は解消できる。一見正しい考え方ですが、取引先まで同じシステムを強制することはできません。取引先が100社、200社と増えるほど、入り口の多様性は避けられません。

アプローチ3:マニュアルを整備する
詳細な手順書を作り、ルールを徹底する。しかしマニュアルは例外に対応できません。「いつもの」のような曖昧な依頼、過去の経緯を踏まえた条件、イレギュラーな要望。これらは書ききれません。そして忙しいときほど、マニュアルは守られなくなります。

これらのアプローチが根本解決にならない理由は、「断絶」という構造そのものを変えていないからです。

では、何が必要なのか。

  • 媒体の断絶には、どんな形式の情報も統一データに変換する仕組み

  • 時間の断絶には、届いた瞬間に処理が始まりリアルタイムで更新される仕組み

  • 人の断絶には、ベテランの判断基準をシステムが学習し文脈を保持する仕組み

つまり、「一気通貫」で情報を管理し、途中で人間の翻訳を介さない仕組みが求められています。これが、第20話で詳しく解説する「デジタルワーカー」という考え方の出発点です。


まとめ:受発注の失敗は「人のミス」ではなく「構造の問題」

最後に要点を3つだけまとめます。

  1. 媒体の断絶
    FAX、メール、システムと形式が変わるたびに「翻訳」が発生し、ミスが紛れ込みます。担当者の注意力ではなく、情報変換の構造的な課題です

  2. 時間の断絶
    情報が届いてから処理されるまでのタイムラグで「鮮度」が失われます。古い情報のまま処理することが、トラブルの原因になります

  3. 人の断絶
    複数人を経由する過程で「文脈」が失われます。暗黙知は伝言では伝わらず、解釈のズレが誤出荷につながります

チェック強化やマニュアル整備で防ぐことには限界があります。必要なのは、情報を「最初から最後まで途切れさせない」仕組みです。

次回(第20話)は、この「断絶のない情報管理」を実現するアプローチとして、「デジタルワーカーを派遣する」という新しいサービスモデルについて解説します。


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株式会社リチェルカについて

株式会社リチェルカは、エンタープライズ企業を中心に、属人化しやすい受発注業務を「一部の改善」ではなく、業務プロセス全体として安定運用できる形に整える支援を行っています。具体的には、以下を組み合わせて提供しています。

  • 業務整理・業務設計のコンサルティング(現状の棚卸し/残す例外・減らす例外の整理)

  • AI-BPO(データ化代行)による入力・照合の負荷軽減

  • 次世代AI-OCR「RECERQA Scan」による帳票の読み取りとデータ正規化

  • データベース+正規化基盤「RECERQA Hub」によるマスタ整備・突合支援

  • 受発注業務向けAIエージェント(RECERQAシリーズ)による判断支援(「いつものあれ」のような曖昧な依頼の特定など)

  • AIエージェントに最適化されたSCM基幹システム agenticERP「RECERQA SCM」による周辺業務まで含めた最適化

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執筆:リチェルカ編集部
監修:
梅田 祥太朗(うめだ しょうたろう)
株式会社リチェルカ 代表取締役CEO

■監修者プロフィール
中央大学商学部卒業後、みずほ銀行を経てワークスアプリケーションズに入社。国産ERP「COMPANY」「HUE」の会計・SCM領域の営業に従事し、最年少マネージャーとして総合商社グループや大手製造業、物流企業などのエンタープライズ企業を支援。その後、AI insideに参画し、執行役員CROとして事業全体を管掌。AI-OCR「DX Suite」を通じて、紙業務のDXと業務自動化を多数の大手企業に展開し、IPOを実現。
独立後、株式会社リチェルカの創業と同時に、卸売業「うえさか貿易」の事業承継を行う。卸売業の経営現場に立つ中で、受発注・在庫・棚卸といったサプライチェーン業務が、属人運用に依存し、エンタープライズ向けに業務全体を最適化できる決定的なソリューションが存在しないという課題を痛感。これらの実務経験を背景に、受発注業務を起点としてサプライチェーン全体を横断的に効率化・高度化する次世代のAIエージェント搭載ERP(Agentic ERP)の「RECERQA」を開発。現在は、業務プロセスの中に生成AIを組み込み、これまでシステム化や自動化が難しかった受発注・サプライチェーン業務の「できなかった」を解決する取り組みを行っている。

株式会社リチェルカは「すべての人を、クリエイティブワーカーに。」をパーパスに掲げ、受発注業務向けAIエージェントを開発しています。

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