センスがいい人の「なんとなく」、実はこういうことだった―『食いしんぼうのセンス』が教えてくれた、おいしいシュウマイの作り方
「センス」って、なんだろう。
美術や音楽、文章などのクリエイティブな分野で「あの人はセンスがいい」なんて聞くと、その人が特別な才能を持って生まれたような、そんな印象をもつ言葉です。
では、料理分野においての「センス」って、一体なんだろう。
そんな疑問に、ひとつの答えを出してくれる本と出会いました。
『食いしんぼうのセンス』って、どんな本?

ある日、ふらりと立ち寄った書店でこちらの本と出会いました。
いつもと同じように、気になる料理本を棚から次々に取り出して小脇に抱え、最後にレジに連れていく本を数冊選ぶ段になって、こちらの本を選んだ理由はふたつ。
ひとつめは、最近女性料理家さんの本を読むことが多かったので、男性料理家さんの書いた本を読みたい。
そしてふたつめ、これが決め手となりましたが、出版社がアノニマ・スタジオさんだったこと。
アノニマ・スタジオさんのレシピ本は、レシピという実用性はもちろん、本全体がまとう雰囲気や写真の空気感のようなものがわたし好みのことが多いんです。
著者は料理教室や雑誌で活躍している料理家の渡辺康啓さん。渡辺さんは本書で、ご自身のことを「ナチュラルボーン食いしんぼう」と称しています。
ここでいう「食いしんぼう」は、とにかくたくさんの量を食べるという意味ではなく、食べることが大好きで、おいしいものを作ること・食べることにストイックであるということ。
おいしい料理を作るために真剣に取り組み、目や鼻、耳で食材の変化を感じ取り、一番おいしく仕上がる方法で調理する。
生まれ持ったものではなく、これまでの積み重ねで身についた経験や感覚こそが、本書のタイトルになっている「食いしんぼうのセンス」なのです。
本書は、渡辺さんがご自身の「食いしんぼうのセンス」を、誰でも再現できる「レシピ」の形式に落とし込んだ料理が55品掲載されています。
センスがいい人って「どうしてそんなふうにできるの?」と周囲に聞かれても「いや〜、なんとなく…」とふんわり答える人が多いイメージがありますが、それをここまで言語化するのは大変だっただろうなあ、と思わず感じ入った一冊です。
きょうの「レシピのしおり」
渡辺さんはイタリア料理を得意とされていますが、本書で紹介されているのはジャンル多彩な家庭料理。
ちなみに最初に紹介されているのは「目玉焼き」と「サラダ」というと、どれくらい身近な料理を取り上げているかがイメージしやすいと思います。
今回はその中から、新玉ねぎのたっぷり入った「シュウマラズ」を作ることにしました。
「シュウマラズ」は渡辺さんの造語で、要は「"あの形"に整えないシュウマイ」です。
「おにぎり」に対する「おにぎらず」のようなもの、と考えると想像しやすいでしょうか。

調理はまず、たっぷりの新玉ねぎを刻むところから。1cm角と大きめに刻みます。刻み終わったら片栗粉をまぶしておきましょう。
新玉ねぎとは別に、長ねぎも使います。こちらはみじん切りにしておきます。

ボウルに豚ひき肉と長ねぎ、調味料を入れて混ぜます。ここでは、ひき肉に粘りが出るまでしっかりと混ぜるのがコツです。

混ぜ終わったら、さきほど刻んだ新玉ねぎをどっさりと乗せて…

今度はスケッパーでさっくりと、練らないように混ぜていきます。たっぷりの新玉ねぎがひき肉と混ざりきるだろうか、と最初は少し不安になりますが、スケッパーを大きく何度か動かしていると、次第に混ざっていきますよ。
この「ひき肉はしっかり」「新玉ねぎはさっくり」の2通りの混ぜ方が、ふんわりした食感を決める大事なポイント。渡辺さんが「食いしんぼうのセンス」によって導き出したやり方なのです。

お次は「シュウマラズ」の名前のきっかけにもなっている、独特の成形のやり方です。シュウマイの皮を片手で持ち、たねを乗せたら…

キュッとやさしく握って、成形完了です。
シュウマイって、スタンダードな「あの形」にすることが意外に難しくて、わたしも今までおちょこを使ってみたり、持ち方を工夫したりと試行錯誤してきたのですが、きれいにできたことが数えるほどしかありません。
この形なら、成形にかかる手間がぐっと減りそう。ひき肉だねを握りながら、今までより気負わずにシュウマイが作れそうだなと考えていました。

蒸気のあがったせいろで10分蒸すと、新玉ねぎたっぷりの「シュウマラズ」完成です。

手で握っただけのシュウマラズは、ひとつとして同じ形がなく、でも中に新玉ねぎがごろごろ入ったところは共通しています。

空気を含んだ肉だねの食感はふわふわとしていて軽やか。肉がギュッと詰まったシュウマイも好きですが、重さを感じないこのエアリーな感じも好きです。
「手で軽く握る」という成形のやり方が、肉だねに含まれた空気をキープして、軽やかな食感に仕上げてくれるんですね。
たっぷり混ぜ込んだ新玉ねぎは熱が通って甘みが出ていて、しょうゆ味の肉だねとの相性は抜群。とろけるようなやわらかさではなく、ほどよいシャキシャキ感が残っています。
本に書かれた蒸し時間を忠実に守ったからこその、絶妙な食感なのではないかと思いました。
本書は他にも、野菜炒めや麺料理、大人のハンバーグプレート、ポテトサラダや簡単鍋など、作ってみたくなるレシピがたくさん。
パラパラと眺めていると「これが食卓に出てきたら嬉しいな」という料理ばかりで、自然とキッチンに向かいたくなります。
特別な日ではなく、ふだんの日の料理のレベルを上げたいと考えている方、本書で詳しく解説されている「食いしんぼうのセンス」を取り入れてみてはいかがでしょうか。

📘 書籍情報
書名:食いしんぼうのセンス
著者:渡辺康啓
出版社:アノニマ・スタジオ(発売日:2025年11月26日)
ページ数:112ページ
ISBN:978-4877588793
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