こちょこちょという魔法
子どもの笑顔がほしいときに
「こちょこちょ」という言葉ほど
不思議な力を持つものはない。
まだ触れてもいないのに、
その言葉を聞いた瞬間、
子どもの顔がふっとほころぶことがある。
ほんとうにくすぐるわけじゃない。
まだ何もしていないのに、
ただ「こちょこちょするぞー」と声に出すだけで、
その場の空気が少しゆるんで、
笑いが生まれていく。
くすぐりの前触れというより、
それは小さな呪文のようで、
言葉そのものが
子どもの心の奥にある笑いのスイッチを
そっと押してしまうのだと思う。
不思議なもので、
こちょこちょが届く前の、
あの待っている時間がいちばん楽しそうだ。
身体が小さく縮こまりながら、
逃げるように笑って、
だけど本当は逃げきるつもりがない。
そんなふうに、
笑いは触れる前から始まっている。
あれはたぶん、
こちょこちょそのものが生み出す笑いではなく、
誰かと一緒にいる安心や、
これから起こる小さな楽しさを
身体が先に感じ取ってしまうから
生まれるものなのかもしれない。
そして、こちょこちょという言葉自体にも
どこか不思議なあたたかさがある。
意味を説明するまでもなく、
音のリズムだけで
くすぐられる感覚が胸の奥にひらく。
「こ・ちょ・こ・ちょ」
という短い音の反復は、
くすぐりの動きを軽くなぞりながら、
笑いの予感をそっと立ち上げる。
言葉が触れた瞬間、
身体の奥でほぐれるような気配が生まれるのは、
その音のやわらかさのせいかもしれない。
笑うという行為は、
理由や説明よりもずっと前にある
あたたかい気配のようなもの。
こちょこちょという言葉は、
その気配を呼び起こす
小さな合図なのだと思う。
生きることの中には、
こんなふうに理由のいらない笑いが
静かに灯る瞬間がある。
それは、とてもささやかで、
だけど確かに“いのち”のかたちをしている。
----hikari
いいなと思ったら応援しよう!
あなたの応援が、創作の原動力です。チップでのご支援、心より感謝いたします📷