かめきちの時間
姉が散歩コースで見つけた小さな亀を、
連れて帰ってきたのが始まりだった。
あまりにも小さくて、
あまりにも可愛かったからだと言う。
本当は、いけないことなのかもしれない。
けれど、その命はもう、家にいた。
そのうちの一匹を、私はもらった。
名前は、かめきち。
あれから2年。
手のひらにすっぽり収まっていた身体は、
いまもまだ掌に乗るくらいの大きさだけれど、あの頃より、ほんの少しだけ重みを持った。
黒い甲羅は、
指先でつまめるほどの丸みのまま、
それでも確かに、わずかな厚みを増している。
艶のある黒は強く光を返さない。
水の中では、静かに、深く沈んで見える。
大きくなった、というより、
「ちゃんと生きてきた」分だけ、
少しだけ変わった。
亀は急がない。
水の中を、ゆっくり進む。
陸に上がれば、さらにゆっくりだ。
それでも、ちゃんと育つ。
焦っているのは、いつも私のほうだ。
冬になると、
かめきちはほとんど動かなくなる。
餌も食べない。
水の中で、じっとしている。
最初の冬は、不安だった。
本当に大丈夫なのかと、
何度も覗き込んだ。
でも亀は、動かないことで、生きる。
止まることは、衰えることではないらしい。
冬眠という不思議な仕組みの中で、
命は静かに春を待っている。
人間は、動いていないと価値がないような気がしてしまう。
立ち止まると、不安になる。
けれど、かめきちは教えてくれる。
急がなくてもいい。
止まる時間も、生きている。
春が来れば、またあの小さな口で、
私の指先から餌を食べる。
恐る恐る近づき、
ぱくりと咥えるその瞬間。
命は、ちゃんとこちらを見ている。
あの距離の近さに触れるたび、
私は思う。
大きくなるということは、
速くなることではないのだと。
止まりながら、
ゆっくりと、
確かに、育つことなのだと。
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