「鳥の巣」を設計した天才芸術家は、なぜ中国政府に81日間も消されたのか?『千年の歓喜と悲哀』
日本にあって中国にないもの、最も大きなことって「表現の自由」だと思います。
人権とも言えるかも。
(正確には、日本のほうが遙かにマシな状態ってことですが…)
もういまの中国じゃ、あらがっても無駄、みたいな雰囲気なのかもしれませんね。
どうせ刑務所or殺害なんだから、最初から折れたほうがいい、みたいなね。
そんな中で、折れずに生き残ってアーティスト活動を続けている人の本を今日は紹介!
彼の名はアイ・ウェイウェイ。
北京オリンピックのメインスタジアム「鳥の巣」の設計顧問を務めたり、大英博物館やテート・モダンで大規模な展示を行ったりと、世界中で活躍してる有名なアーティスト。
『千年の歓喜と悲哀』は、そんな中国を代表する現代美術家・建築家・社会活動家の彼の自伝です。
この本、国家の巨大な権力によって運命を翻弄された詩人の父・艾青(アイ・チン)の生涯と、それに抗い「表現の自由」を戦い取る息子の軌跡を描いた、二世代にわたる壮大な歴史ノンフィクションでもあります。
素晴らしい本なので、きょうはこの本を紹介します!
辺境での極貧生活
物語の前半では、父である艾青の数奇な人生が克明に描かれます。
艾青は1929年にパリへ留学して自由な思想を吸収したのち、中国を代表する詩人となりました。
しかし、1950年代後半に毛沢東が主導した反右派闘争によって、約30万人もの知識人とともに国家の敵(右派)というレッテルを貼られてしまいます。
当時まだ幼かったアイ・ウェイウェイは、追放された父とともに新疆ウイグル自治区にある「小シベリア」と呼ばれる過酷な砂漠地帯へ送られました。
彼らは約10年間、地面に四角い穴を掘り、泥と枝で屋根を作っただけの文字通りの穴ぐらで生活することを余儀なくされます。
かつて国の英雄だった父は、顔に墨を塗られ、公衆便所の清掃を強制されるという屈辱を味わいました。
この極限状態での経験が、後にアイ・ウェイウェイが権力の暴走を憎み、個人の尊厳を何よりも重んじるアーティストへと成長するタネとなったわけですね。
ニューヨークでの覚醒
1976年に文化大革命が終わり、名誉を回復した一家は北京へ戻ります。
アイ・ウェイウェイは美術を学んだ後、1981年にアメリカ・ニューヨークへ渡りました。
10年以上におよぶニューヨーク滞在で、彼はマルセル・デュシャンやアンディ・ウォーホルらの現代アートに強い衝撃を受けます。
この時期の興味深いエピソードとして、アメリカを代表するビート世代の詩人、アレン・ギンズバーグとの出会いが記されています。
1984年、ニューヨークの教会で行われた詩の朗読会で、ギンズバーグは「中国の革命詩人たちが辺境に追放され、労働を強いられた」という内容の詩を朗読しました。
客席にいたアイ・ウェイウェイが「それは私の父のことです」と名乗り出ると、ギンズバーグは驚き、かつて中国で艾青と会い、熱い抱擁を交わした思い出を語りました。
その後、ギンズバーグは近所のダイナーでアイ・ウェイウェイにエッグクリームをご馳走し、二人は交流を深めました。
自由の国アメリカで「父の詩の精神」と最先端のアートが結びついた瞬間でした。
アートを通じた国家への抵抗
1993年に帰国したアイ・ウェイウェイは、次々と挑発的なアート作品を発表します。
1995年には、数千年の歴史を持つ骨董品をわざと落として割る『漢時代の壺を投げ落とす』という写真を発表し、文化大革命における伝統文化の破壊を強烈に批判したんです。
さらに彼は、2008年の北京オリンピックでスタジアム「鳥の巣」の設計に携わったものの、大会が近づくにつれて開会式などの行事をボイコットするようになります。
その理由は、この世界的イベントが、中国共産党の功績ばかりを称賛し、国内の人権抑圧から目を逸らさせるプロパガンダに利用されていると強く感じたからでした。
また同年起きた四川大地震では、政府が手抜き工事の事実を隠蔽しようとしたことに対し、独自の調査を行って犠牲となった子どもたちの実名をブログで公表し続けました。
81日間の秘密拘束
このような活動により、彼は政府から「最も危険な人物」として厳しく監視されるようになります。
そして2011年4月3日、空港で突然警察に連行され、外部と一切連絡が取れないまま81日間にわたり秘密裏に拘束されてしまいました。
解放後も、政治的弾圧を隠すために約240万ドル(数億円)もの巨額の脱税容疑をかけられ、パスポートを取り上げられます。
この真っ暗な独房の中で、彼は「権力によって、自分の存在や父の歴史が完全に消去されてしまうかもしれない」という強い恐怖を感じました。
自分がなぜこのような状況にあるのか、父・艾青はどのような悲劇を生き抜いたのか。
それを幼い息子・艾老(アイ・ラオ)に記録として遺すため、彼はこの回想録の執筆を決意したのです。
それがこの本。
忘れさせない、傷跡を。
タイトルの『千年の歓喜と悲哀』は、父・艾青がかつてシルクロードの廃墟で詠んだ詩、「千年の歓喜と悲哀の/痕跡はどこにも見当たらない」から取られています。
国家は、自分たちに不都合な記憶を人々の頭から吸い取り、漂白してしまう巨大な機械のようなもの。
しかしアイ・ウェイウェイは、あえて「記憶を記録し、表現し続けること」で、絶対に消えない痕跡を残そうとしました。
現在、ヨーロッパで事実上の亡命生活を送る彼は、世界中の難民問題にも積極的に取り組んでいます。
雨が降る難民キャンプで白いグランドピアノを用意し、紛争で傷ついたシリア人女性に演奏してもらうなど、国境を越えて「声なき人々」の尊厳を守る活動を続けています。
この本、理不尽な権力に立ち向かう「父と子」の深い絆の物語であり、先進国だと当たり前な「表現の自由」がいかに尊く、守り抜くべきものであるかを教えてくれる、歴史的傑作です。
永遠に残ってほしい本のひとつ。
【編集後記】
マガジンで、今まで紹介した本をジャンル分けして整理してみました。本屋とか図書館で本を選んでるみたいで楽しいので、ぜひ見てみてください!
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