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私たちの豊かさは奴隷制から生まれた?『奴隷制・資本主義・産業革命』が暴く、綺麗事じゃない歴史の裏側

産業革命は、18世紀から19世紀のイギリスで始まり、現代の豊かな資本主義社会の土台を築きました。

これまでその原因は、新しい技術の発明や労働、石炭、法律といった、イギリス国内のポジティブな要因にあるとされてきました。

しかし、その輝かしい歴史の裏側で奴隷制が果たした決定的な役割については、長らく歴史学の主流から外され、あまり注目されてきませんでした。

今日紹介する『奴隷制・資本主義・産業革命――なぜ富めるものはいよいよ豊かになったのか』は、この見過ごされてきた歴史の不都合な真実に真正面から光を当てる本。

著者のマキシン・バーグ氏(ウォーリック大学名誉教授)とパット・ハドソン氏(カーディフ大学名誉教授)は、ともに英国アカデミーのフェローであり、イギリス経済史や産業革命研究における世界的な第一人者です。

二人は、奴隷貿易やプランテーション(大規模農園)で生まれた莫大なお金が、単に一部の奴隷商人を大金持ちにしただけでなく、イギリスの産業、貿易、金融の隅々にまで血液のように行き渡り、産業革命を牽引する原動力になったことを、膨大なデータを用いて証明しています。

すごく重要な本なので、今日はこの本を徹底紹介!


過去の論争を乗り越えて

この二人が言ってる、奴隷制が産業革命の資金源になったという主張そのものは、結構昔からある話。

1944年にトリニダード・トバゴの歴史家、エリック・ウィリアムズが『資本主義と奴隷制』を発表し(ちなみにこれも名著)、奴隷貿易の利益がイギリスの産業革命の資本を蓄積させたという、いわゆる「ウィリアムズ・テーゼ」を打ち立てました。

しかし、1960年代から70年代にかけて、この主張は激しい批判に晒されることになります。

批判者たちは、奴隷制による利益は当時のイギリス全体の巨大な経済規模(GDP)から見れば数パーセントに過ぎず、産業革命という国全体の大変化を単独で引き起こすほどの規模ではなかったと反論しました。

こうして長らく、奴隷制はあったかもしれないけれど、そんな大きいことじゃない、みたな雰囲気になりました。

そこに、今日の本が出たわけです。

バーグ氏とハドソン氏は、奴隷制がイギリス社会の需要と供給の双方にどのような波及効果をもたらしたのかに注目しました。

国全体のGDPという大きな数字だけで見るのではなく、特定の地域や産業ごとに細かくデータを分析することで、奴隷貿易がイギリス全体に様々なイノベーションを引き起こす火付け役となったことを実証したのです。

奴隷制がイギリス経済を変えた仕組み

著者はお金の流れを追うというアプローチで、奴隷制の影響が経済のあらゆる分野に浸透していたことを明らかにしました。

16世紀から19世紀にかけて1,200万人以上のアフリカ人が奴隷として海を渡りました。

特に18世紀において、イギリスは世界の奴隷貿易の約40.5%を握る世界最大の奴隷商人国家でした。

この巨大なシステムが、イギリス国内に劇的な構造変化をもたらしました。

まず消費の観点からは、奴隷の過酷な労働によって作られた砂糖、紅茶、タバコ、コーヒーといった商品が、特権階級の贅沢品から一般の労働者階級にまで広く普及する消費革命が起きました。

労働者たちはこうした魅力的な嗜好品を手に入れるために、より長く一生懸命働くようになり、自給自足の生活から市場経済へと移行する勤勉革命が刺激されました。

さらに、生産現場であるアメリカ大陸やカリブ海のプランテーションは、単なる野蛮な搾取の場ではなく、当時もっとも効率的に管理された最先端のビジネスモデルでした。

そこでは労働力を極限まで効率化するための緻密な記録管理が行われ、植物学や気象学といった大西洋の科学が発展し、そのノウハウがイギリス本国にも還流していったのです。

こうした大西洋貿易の結節点となった港湾都市も大きな変貌を遂げました。

リヴァプールやグラスゴーといった港町は奴隷貿易によって急速に発展し、そこから内陸のランカシャー地方などに向かって製造業の拠点が次々と形成されました。

奴隷を買い付けるための交換品としての繊維製品や、プランテーションで奴隷が着るための安価な衣服など、巨大で確実な外部市場の存在が、イギリスの工場に大規模な設備投資を決断させる強力な動機付けとなったのです。

また、重工業や繊維産業における技術革新も奴隷制と無縁ではありませんでした。

例えば、プランテーションで砂糖を精製するためには巨大な銅製のボイラーや鉄製の設備が不可欠であり、当時有名だった会社は、132基もの蒸気機関をカリブ海の農園に輸出していました。

さらに奴隷船を守るための銃火器や、奴隷を繋ぐための鉄の鎖などの需要が、バーミンガム周辺の金属加工業を飛躍的に成長させました。

綿織物産業も同様に、アメリカ南部の奴隷労働による安価な原綿の大量供給なしには、あれほどの爆発的な成長を遂げることは不可能でした。

そして!最後にこの巨大でリスクの高い遠隔地ビジネスを成立させるために、近代的な金融システムが構築されました。

何ヶ月もかかる三角貿易のリスクを分散するための海上保険、遠くの取引先と現金を動かさずに決済する為替手形、そして奴隷やプランテーションを担保とする抵当貸付などの複雑な金融取引がロンドンで発達しました。

保険会社は奴隷関連ビジネスの引き受けで急成長を遂げ、こうして蓄積された金融ノウハウと資本が、現在の世界的な金融センターであるシティ・オブ・ロンドンの確固たる土台となったのです。

結構エグい話だよね。

負の遺産

まあ、いまでもこれがなぜ問題かっていうと、現代社会が抱える深刻な問題に直接的につながる生きた歴史である点にあります。

2019年以降に世界的な広がりを見せたブラック・ライブズ・マター(BLM)運動は、欧米社会に根深く残る構造的な人種差別のルーツを問い直す大きな契機となりました。

イギリス国内でも、かつての奴隷商人エドワード・コルストンの銅像がブリストルの港に引きずり下ろされるなど、公共空間における歴史の記憶のあり方が激しく問われました。

近年では、イングランド銀行や英国国教会、名門大学といったイギリスを代表する権威ある機関が、自らの初期の資産形成に奴隷貿易の利益が混入していた事実を公式に認め、調査や謝罪、金銭的な支援などに向けた動きを加速させています。

そう、この本、こうした過去の清算に向けても必要な本なんですね。

奴隷制がもたらした富は、イギリスに世界の覇権をもたらした一方で、世界規模での富の偏在を固定化させました。

アフリカやカリブ海の植民地は、イギリスの工業化を支えるために単一の作物を安く作り続けるだけの供給地として縛り付けられ、自立して発展する機会を永遠に奪われてしまいました。

さらに、イギリス国内においても不平等の爪痕は色濃く残っています。

かつて奴隷貿易と結びついて栄えたグラスゴーやリヴァプールといった北西部やミッドランズの工業都市は、製造業の海外移転に伴って著しい衰退に見舞われ、現代イギリスにおける深刻な地域間格差の温床となっています。

現代のグローバル資本主義が抱える南北問題や人種的格差は、まさに大西洋奴隷制という暴力的なシステムによって形作られた負の遺産なのです。

日本の戦争の問題もそうだけど、こういうのって、何十年、何百年と、後になってしわよせが来るんだよね。

綺麗事ではない資本主義の歴史

この本、よく言われる「自由主義や民主主義、科学や起業家の努力だけが資本主義を発展させた」という、美化された綺麗事の歴史を根底から打ち砕く一冊です。

産業革命は、1,200万人以上のアフリカ人の身体と生命を商品化し、非人間的に酷使することによって得られた資本の力なしには、決して達成されることはありませんでした。

そして、現代を生きる私たちが当たり前のように享受している豊かな消費社会や、便利な金融の仕組みが、どのような暴力的な土台の上に築かれているのかという不都合な真実を知らなくちゃいけない。

目を瞑りたくなるけど、知らなくちゃいけないこと。読みましょ。

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おすすめの本を紹介しまくる人 これからも毎日、本を紹介したいのですが、このnote、ずっと赤字状態です。もし本好きの方がいらしたら、チップを送っていただけると嬉しいです。