レコード男子|キャノンボール・アダレイ|『Mercy, Mercy, Mercy!』|ライブの熱を、そのまま受け取る夜
おはようございます。
レコード男子リョータです。
今日の一枚は、キャノンボール・アダレイ・クインテット『Mercy, Mercy, Mercy! Live at “The Club”』。
前回の『Somethin' Else』が、黒いジャケットの硬派さと、その中にあるしなやかな歌心を聴かせる盤だったとしたら、今回はもう少しはっきりしています。
こちらは最初から、ライブの熱を受け取るための一枚です。
ジャケットもいい。
黒を基調にした画面に、キャノンボールの横顔。
そこへ大きく入る “Mercy, Mercy, Mercy!” の文字。
見た目はやはり渋い。
でも、中身は渋いだけでは終わらない。
むしろ、客席の空気を吸い込みながら、音楽そのものがどんどん前へ出てくる。
裏ジャケットの解説を読むと、この盤がただのライブ録音ではないことがよくわかります。
舞台はシカゴのクラブ、The Club De Lisa。
そこにキャノンボール、ナット・アダレイ、ジョー・ザヴィヌルたちが入り、演奏し、その熱気ごと封じ込められた。
しかも録音の経緯まで含めて、少し奇跡めいた話になっている。
Capitolが前夜に機材を持ち込み、丸ごと録った。
結果として残ったのは、単なる演奏記録ではなく、その夜の空気そのものだった。
この盤の魅力は、まさにそこだと思います。
ライブ盤というと、演奏が少し荒くても、その場の勢いが魅力になることがある。
でも『Mercy, Mercy, Mercy!』は、勢いだけで押すわけではない。
演奏はちゃんとまとまりがあり、しかもそのまとまりが、客席の反応と混じりながら温度を上げていく。
ジャズのライブって、やっぱり特別だな、と思わせてくれる一枚です。
収録曲を見ても、
「Fun」
「Games」
「Mercy, Mercy, Mercy」
「Sticks」
「Hippodelphia」
「Sack O’ Woe」
と並び、キャノンボール・クインテットの“ライブで映える曲”が揃っています。
どれも、演奏者がただうまいだけではなく、その場で客と呼吸を合わせながら膨らんでいく感じがある。
なかでもタイトル曲 「Mercy, Mercy, Mercy」 はやはり特別です。
曲そのものの親しみやすさもあるし、ジョー・ザヴィヌルが書いたあのメロディの強さもある。
でも、この曲がただのヒット曲以上のものになっているのは、やはりこの盤がライブの場で生きているからだと思います。
観客の温度をもらいながら、演奏が自然に高まっていく。
その感じが、ちゃんと残っている。
キャノンボールのアルトは、ここでもやはり前へ出てきます。
ただし『Somethin' Else』の時のような、しなやかさや洗練の見え方とは少し違う。
今回はもっと、客席の熱に押されて前へ出てくる感じがある。
歌うというより、乗る。
滑るというより、湧く。
その違いが面白いです。
ナット・アダレイ、ジョー・ザヴィヌル、ロイ・マッカーディ、ヴィクター・ガスキン。
このクインテットの顔ぶれもまたいい。
キャノンボール一人が前へ出るのではなく、バンド全体がクラブの中でひとつの塊になって動いている。
とくにライブ盤だと、その“塊感”が大事だと思うのですが、この一枚はそこがとても強い。
裏ジャケットの文章の中に、
“they played like sweet preachin’”
という言い方が出てきます。
これ、すごくいい表現です。
まさにそんな感じがある。
説教くさいのではなく、でも確かに人を乗せる力がある。
熱があるのに押しつけがましくない。
キャノンボールの音楽には、こういう“人前で鳴る強さ”があるのだと思います。
前回の『Somethin' Else』では、マイルスの夜とキャノンボールの歌、という形で、少し陰影のある美しさを書きました。
でも今回の『Mercy, Mercy, Mercy!』は、もう少しはっきりと外へ開いている。
夜は夜でも、クラブの夜。
黒いジャケットの奥にあるのは、静かな緊張ではなく、熱気のある一体感です。
しかも、この盤の熱は、雑ではない。
きちんと整っている。
その意味でこれは、単なるライヴの勢い任せの盤ではなく、ライブが作品として成立する瞬間を記録した盤でもあると思います。
場の力と、演奏の完成度と、録音の幸運と。
それらがうまく噛み合った時、ライブ盤はスタジオ盤とは別種の“完成形”になる。
この一枚は、その好例でしょう。
キャノンボール・アダレイを続けて聴いていると、同じ人の音楽でも、盤によってこんなに重心が違うのかと面白くなります。
『Somethin' Else』では、しなやかさと看板性。
この『Mercy, Mercy, Mercy!』では、場の熱と一体感。
どちらにもキャノンボールらしい明るさと前向きさがあるけれど、出方が違う。
その違いを棚の中で見ていくのは、かなり楽しいです。
今日は、キャノンボール・アダレイ・クインテット『Mercy, Mercy, Mercy!』。
ライブの熱を、そのまま受け取る夜。
そんな盤として、レコード男子の棚に置いておきたいと思います。
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