私は「姫カット」が言えない。
私はだいたい3ヶ月おきに美容院に行く。そろそろ行きたいなぁと思っているところなのだが、目下の悩みは「姫カット」が言えないことだ。
姫カット――それは、サイドの髪を頬からあごのあたりで短く切りそろえた髪型のことである。ちなみに、この切りそろえたサイドの髪の毛のことを「姫毛」という。
平安後期〜鎌倉・室町中期にかけて、女性(貴族の娘=姫)の成人の儀である鬢削ぎが起源とされている。
目元がハッキリするし、小顔効果もあるし、ちょっと個性的なワタシを演出できてしまったりもして、私はこの髪型がかなり好きだ。
さらに、多毛な私はサイドの髪を耳にかけられなかったりする(かけても耳からこぼれてしまう)ので、姫カットにしておけば、うざったい思いをすることもない。
実用面でも姫カットの恩恵に授かりたくてたまらないのだけれど、私は美容院で「姫カット」が言えない。
いやなに、発音の問題ではない。ただ、私の自意識が邪魔をするのだ。
だって「姫」だよ?自分から「姫」ってめちゃくちゃ言いづらくないか。
自分を姫って言っているわけではないのは百も承知なのだけれど、「姫カットにしてください」って、私にとっては「私をお姫さまみたいにしてほしいの」って言っているのとほぼ同義だ。
かわいい子が言うならまだしも、社会に揉まれてささくれたアラサー女が「姫」を要望するのはハードルが高い。
きっと心優しい美容師さんは、有象無象の客の一人である私のオーダーなんて何も気にしていないだろう。
しかし、脳内の私が「お前が姫カットって…」って嘲笑してくる。
違う違う!姫カットはお姫さまになるカットじゃない!「姫毛」を作るカットなんだ!
よりによってなんでこの髪の毛に「姫毛」なんて名前つけたんだよ平安のお姫さまがやってた髪型だからだよ!(以下無限ループ)
結局いつも「サイド(の髪)はどうされますか?」と美容師さんに聞かれた時、私は「少し、短めに…お願いします…」としか言えずに帰ってきてしまう。
そして帰宅後、鏡の前で自ら「姫毛」を切るのである。

姫カットって、なんか他に言い方ないんだろうか。
「写真を見せれば良いじゃん」と言われたこともあるけれど、自分より遥かに若くて抜群にかわいいモデルさんの写真を見せるなんて、それこそ自意識が邪魔をする。
一応毎回、しっくりくる写真を探しては見るものの、なかなか見つけられず諦めるのが常だ。
そんなわけで、今日も私は姫カットのうまい言い方を探している。
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