寂しさを雑踏でもみ消して
高校生の頃、通学で横浜駅を利用していた。
人混みがニガテな私は、毎日通らなければならないこの駅が好きじゃなかった。
ただでさえ苦痛な満員電車に揺られて、降りてもなおたくさんの人に揉まれる日々。教科書やノートが詰まった重たいカバンを持って駅構内を歩くのは、もはや修行だった。
通っている高校は望んで進学したところだったけれど、通学経路だけはどうしても好きになれず、そこまで考えずに進学先を選んだ自分の浅はかさを呪った。
横浜駅には多くの路線が通っている。同じ学校に通っていても、同じ路線を使う人はごく少数だった。だから、友人と一緒に帰るのはいつも改札口まで。そこから先は、各々目的のホームへ向かう。帰り道でおしゃべりできる時間は、それほど多くない。
みなみ西口の相鉄線改札を横目に階段を降りると、左手にJRの改札口、右手に東横線の改札階へ続くエスカレーターが見える。かなり広めの通路なのに、そこはいつも多くの人が行き交っていた。この雑踏の中で「バイバイ」と手を振り、人混みをかき分けながら帰路に着く。そんな毎日だった。
3年生になると、部活がなくなった分下校が早くなった。受験生なのだから、当然帰ってからも勉強しなければならない。道草を食っている場合ではないのは分かっていたけれど、私たちはなかなか横浜駅の地下から離れられなかった。
楽しくて時間を忘れていた
帰って勉強するのが嫌だった
何も考えていなかった
どれも正解な気がするけれど。今思えば、寂しかったのだ、と思う。
あと何回、このやりとりが出来るんだろう。
あと何回、この制服に袖を通すんだろう。
あと何回、この通学定期を使うんだろう。
あと何回、「バイバイ」と言うんだろう。
あと何回……そんな風に数えるのが嫌で。忘れたくて。いつも通りが良くて。心に刻みたくて。でも、「卒業」を語るにはまだ実感がなくて。気恥ずかしくて。つい、だらだらと話し続けていたのだ。きっと。
今となっては、あの時話していた内容なんて一つも思い出せない。
ずっと立ち止まって話し込んで、時々大笑いしていても、行き交う人々は私たちに見向きもしない。あんなに嫌いだった横浜駅の雑踏は、私たちの寂しさをきれいに飲み込んでくれた。
日本のサグラダ・ファミリアとも呼ばれる横浜駅は、常にどこか工事が行われている。私の高校在学中も、当然のようにいつもどこかに仮設の壁があった。だから、今の横浜駅に思い出の場所と言えるようなところはほとんどない。
でも、東横線へ続くエスカレーターの脇には、確かにあの日女子高生だった私たちがいる。
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