倒壊した家から、思い出まで盗むのか
熊本地震で始まった「第二の被害」――火事場泥棒・悪質商法・義援金詐欺から家族と財産を守る

地震の被害に、犯罪という被害を重ねさせない。
公開情報を基にGT作成。実在の被災住宅や人物を描いたものではありません。
2026年7月28日の熊本地震で倒壊した住宅から、中学生が部活動で使っていたバッグが盗まれた。
熊本朝日放送の取材によると、被害が報告されたのは最大震度6強を観測した八代市鏡町だった。
地震発生時、中学2年生の少女は倒壊した自宅の1階に閉じ込められた。2階部分が押しつぶすように落下したものの、近隣住民によって約20分後に救出された。
しかし、家族が住宅を離れて避難している間に、少女が部活動で使用していたバッグがなくなったという。
家族は、これ以上物を盗まれないよう、倒壊した住宅の見張りを続けている。
住宅を失った家族が、今度は盗難を防ぐために現場へ残らなければならない。
これは、単にバッグ一つを失ったという話ではない。
安心して避難する時間。
余震から身を守る権利。
避難所で身体を休める時間。
壊れた家から離れ、家族の生活を立て直すための力。
盗難は、それらまで奪っていく。
盗難が奪うのは、金品だけではない
倒壊住宅から何かを盗まれると、被災者は「まだ残っている物も盗まれるのではないか」と考える。
自宅を見張るために、避難所と住宅を何度も往復する。
夜間も気になって眠れない。
壊れた住宅へ貴重品を取りに戻ろうとする。
避難所へ移らず、家の近くや車内で過ごす。
こうした行動は、余震、落下物、熱中症、車中泊による血栓症など、別の危険につながる。
実際、8月6日午前7時59分にも熊本県天草・芦北地方を震源とするマグニチュード5.1、最大震度4の地震が発生した。津波の心配はなかったが、地震活動が続く中で、損傷した建物へ防犯目的で戻ることにも危険がある。
財産を守るために、命を危険へさらしてはならない。

盗難は金品を失わせるだけでなく、被災者に見張りや住宅確認という新たな負担を発生させる。
図解:GT作成
「火事場泥棒が横行している」と断定できるのか
ここでは、確認された事実と、まだ確認できていない情報を分けなければならない。
8月6日午前8時47分までに確認した範囲では、倒壊住宅からバッグが盗まれた事例は報道されている。
一方、今回の熊本地震に関連して、空き巣、置き引き、車上狙いなどが合計何件認知されているのか、熊本県警や警察庁がまとめた総件数は確認できなかった。
したがって、現時点で、
「熊本県内の各地で窃盗が横行している」
と断定することはできない。
ただし、危険そのものが架空だという意味でもない。
警察庁は今回の地震に合わせ、被災住宅や避難所での盗難、悪質商法、義援金名目の詐欺などへの注意喚起を公表している。
自宅を離れる際の施錠、貴重品の携行、車内に貴重品を残さないこと、不審者や不審車両の通報などを呼びかけている。
注意喚起の記事では、被害を小さく見せてもいけない。
同時に、未確認の目撃情報やSNS投稿を根拠に「大量の窃盗団が来ている」などと広げてもいけない。
事実に基づかない情報は、正規の作業員、ボランティア、県外から派遣された支援者まで疑わせ、被災地の支援を妨げる可能性がある。
警察官約450人が24時間体制で警戒
熊本県警には、西日本各地から応援部隊が派遣されている。
8月5日時点で、約450人の警察官が被災地の警戒に従事している。
大阪府警は警察官40人とパトカー10台を派遣。爆発事故後も商品などが残るイオンモール熊本の周辺や、人通りが少なくなった被災地域を巡回している。
警察庁の資料では、パトロールのほか、被災者の相談対応、避難所の安全確保、犯罪防止に関する情報発信も行われている。
警察の大規模派遣は、今回の窃盗件数がすでに何百件にも達したことを意味するわけではない。
過去の災害で、住民が避難した住宅、休業中の店舗、避難所などが狙われた経験を踏まえ、被害が広がる前に抑止するための措置である。
2016年熊本地震では47件、被害額約1,300万円
2016年の熊本地震では、実際に空き巣や置き引きが発生した。
発災約1か月後の2016年5月18日、衆議院法務委員会で警察庁側は、前日の5月17日までに、被災住宅への空き巣や避難所での置き引きなど、窃盗事件を47件認知したと説明している。
47件のうち、空き巣は30件。
被害総額は約1,300万円。
5件、5人が検挙されていた。
集計期間を2017年4月末まで広げた熊本県警の数字として、窃盗被害91件も報じられている。
ここで重要なのは、数字だけを切り取らないことだ。
「47件」と「91件」は、どちらかが間違っているのではなく、集計した期間が異なる。
災害後の窃盗は、発災直後の数日だけに発生するとは限らない。
避難が長期化する時期。
住宅の解体や片付けが始まる時期。
住民が仮設住宅へ移る時期。
店舗や倉庫が長期間休業する時期。
復旧期間全体を通して、警戒が必要になる。

2016年熊本地震では、2016年5月17日までに47件、2017年4月末までの長期集計では91件の窃盗被害が報告された。集計期間の違いに注意が必要だ。
出典:衆議院法務委員会、熊本日日新聞/図解:GT作成
被害が大きい地域では、空き巣が一時的に増えた
2023年に発表された研究では、2016年熊本地震の前後における熊本県警の犯罪認知データが分析された。
研究結果では、建物被害が大きかった地域で、2016年4月と5月に空き巣が一時的に増加した。
一方、地震被害が比較的小さかった地域では、同様の増加は確認されなかった。
Journal of Disaster Research「熊本地震による空き巣増加への影響」PDF
研究では、犯罪が起きやすくなる条件として、次の三つが同じ場所と時間に重なる「日常活動理論」が示されている。
狙われやすい対象がある。
犯罪を行おうとする者がいる。
犯行を見つけたり止めたりする人がいない。
大規模災害では、窓や玄関が壊れ、住宅へ侵入しやすくなる。
住民は避難し、家が無人になる。
街灯、防犯灯、防犯カメラ、通信設備が止まる。
警察や地域住民の注意は、人命救助や避難に集中する。
これらが重なることで、通常より犯罪の機会が生まれやすくなる。
世界の研究が示す「災害と略奪」の本当の姿
災害後の略奪や犯罪は、世界中の災害で繰り返し報道されてきた。
しかし、世界の研究をまとめた2025年の系統的レビューは、災害後の略奪が必ず大規模に発生するわけではないと指摘している。
地域によって状況は大きく異なり、犯罪が増える場合もあれば、非常に限定的な場合もある。
また、被災者の多くが略奪の「うわさ」を聞いていても、実際に被害を経験した人は一部にとどまる場合があるという。
報道やSNSが犯罪を過度に強調すると、住民が財産を心配して避難を拒否したり、警察や救助資源が必要以上に財産警備へ振り向けられたりする危険も指摘されている。
一方で、犯罪を減らす効果が期待できる対策として、
迅速な救援物資の供給。
警察と地域による巡回。
街灯の早期復旧。
不審事案を報告できる窓口。
住民への正確な情報提供。
地域住民や団体の連携。
が挙げられている。
つまり、必要なのは「知らない人は全員犯罪者だ」と疑うことではない。
犯罪が起きやすい条件を減らし、事実を早く共有することである。
被災住宅を守る前に、命を守る
8月6日朝にも最大震度4の地震が発生した。
損傷した住宅には、再び壁、屋根、天井、家具が崩れる危険がある。
防犯のためであっても、危険判定を受けた住宅や、明らかに傾いている住宅へ入ってはいけない。
通帳や現金を回収するために、倒壊しかけた建物へ一人で入る。
防犯カメラを設置するために、壊れた屋根へ登る。
窓を板で塞ぐために、不安定ながれきの上へ乗る。
こうした行動は避けなければならない。
防犯対策は、建物へ安全に近づけることが確認された場合に限って行う。
今すぐできる六つの防犯対策
1.玄関以外の侵入口も確認する
玄関だけでなく、窓、勝手口、雨戸、シャッター、物置、車庫を確認する。
地震で鍵が壊れている場合は、補助錠やワイヤーロックなど、無理なく設置できる方法を使う。
ただし、壊れた窓や外壁を塞ぐ作業は、余震や落下物の危険がない範囲に限る。
2.貴重品を住宅へ残さない
警察庁は、貴重品を置いたままにせず、可能な限り携行するよう呼びかけている。
現金、通帳、印鑑、身分証、保険証、薬、お薬手帳、住宅や車の鍵などは、小さなバッグへまとめる。
携行できない高額品は、家族と保管場所を共有し、写真と一覧を残しておく。
3.住宅と家財を写真で記録する
安全な場所から、住宅の外観、窓、玄関、各部屋、家財、車両を撮影する。
家電製品、自転車、工具、農機具などは、型番や製造番号も撮影しておく。
記録は地震による損害確認だけでなく、その後に何がなくなったのかを整理する際にも役立つ。
4.車、オートバイ、自転車にも鍵をかける
車内の見える場所へ、財布、バッグ、工具、スマートフォンを残さない。
毛布や衣類をかけて隠すだけでは、物が置かれていること自体が外から分かる。
警察庁も、すべての車両への施錠と、車内へ貴重品を残さないことを求めている。
5.停電時でも使える照明を検討する
安全に設置できる場合は、電池式の人感ライト、ソーラー式ライト、バッテリー式カメラなどを使う。
ただし、機器を設置するために危険な場所へ入ってはいけない。
防犯設備より、建物から離れることを優先する。
6.SNSで不在期間を公表しない
「○○避難所に移動した」
「1週間は家に戻らない」
「家族全員がホテルへ避難した」
といった投稿は、自宅が無人であることを知らせる情報になる。
被害状況を発信するときも、住所、表札、番地、車のナンバー、現在の避難先、不在期間が同時に分からないよう注意する。

防犯よりも命が最優先。危険な建物へは入らず、安全を確認できる範囲で施錠、記録、貴重品管理を行う。
出典:警察庁、熊本県警/図解:GT作成
避難所では「小さな貴重品バッグ」を身体から離さない
熊本県警は、過去の災害で避難所の置き引きや、充電中の携帯電話の盗難が発生したとして注意を呼びかけている。
避難所では、財布、スマートフォン、鍵、身分証、通帳、印鑑、薬を一つの小さなバッグへまとめる。
トイレや給水へ行くときも、バッグを置いたままにしない。
寝るときも、単に枕元へ置くのではなく、身体や寝具へ固定する。
携帯電話を充電する場合は、長時間その場を離れない。
避難所には住民だけでなく、支援員、配送業者、ボランティア、報道関係者など多くの人が出入りする。
知らない人がいること自体を犯罪の証拠にしてはいけないが、貴重品を放置しないことは必要である。
地域の見守りは「自警団」ではない
近所同士で避難先を共有する。
高齢者や一人暮らし世帯の家を気にかける。
不審な車両を見かけた時間と場所を共有する。
住宅を確認するときは、可能な限り複数人で行動する。
こうした見守りは有効だ。
世界の研究でも、地域内の信頼関係や協力、警察・自治体・民間団体の連携が、災害後の犯罪を抑える要因として挙げられている。
ただし、地域住民が不審者を追跡したり、取り押さえたりする活動ではない。
危険を早く発見し、警察へつなぐための仕組みである。
甲佐町ではブルーシートの高額請求が発生
犯罪の危険は、住宅へ侵入して物を盗む行為だけではない。
甲佐町は8月4日、町内で、
「熊本地震により屋根瓦が傷んでいる」
「ブルーシートを張る」
などと言って訪問し、不当な高額請求を行う事案が発生していると公表した。
町は、突然訪問してきた業者とその場で契約しないこと、業者をすぐに屋根へ登らせないこと、不審な訪問は警察へ相談することを呼びかけている。
熊本県も、災害後に発生しやすい手口として、
「行政から補助金が出るので自己負担なしで修理できる」
「保険金が使える」
「早く工事しないと大変なことになる」
「無料、ボランティアで片付ける」
「補助金申請を代行する」
といった勧誘を挙げている。
「今すぐ」「無料」「必ず補助金」は、いったん止まる合図
被災者は、一刻も早く屋根を塞ぎたい。
雨が降る前に直したい。
これ以上家を傷めたくない。
その心理を、悪質な業者は利用する。
特に警戒したい言葉は、
「今すぐ直さないと危険」
「保険を使えば無料」
「補助金が必ず出る」
「近くで工事していて屋根の破損が見えた」
「今日だけ安くできる」
「契約書は後で作る」
である。
その場で判断せず、業者名、所在地、電話番号、作業内容、総額、追加料金、キャンセル条件を書面で確認する。
可能な限り複数の業者から見積もりを取る。
保険金については、訪問業者ではなく、自分で保険会社や代理店へ確認する。
国民生活センターは、災害後には点検商法、ブルーシート設置後の高額請求、保険金を使った住宅修理、義援金詐欺などが発生すると注意を促している。

「今すぐ」「無料」「必ず補助金」と急がせる業者ほど、契約を止めて第三者へ確認する。
出典:甲佐町、熊本県、国民生活センター/図解:GT作成
契約してしまっても、諦めない
訪問販売や電話勧誘販売に該当する契約は、法定書面を受け取った日を含む8日間以内であれば、クーリング・オフできる可能性がある。
すでに代金の一部を支払っていても、返還を求められる場合がある。
書面を受け取っていない、記載に不備がある、業者から虚偽の説明や威圧を受けた場合などは、8日を過ぎても対応できる可能性があるため、自己判断で諦めず、消費生活センターへ相談することが重要だ。
契約書、名刺、領収書、業者とのメッセージ、着信履歴、車のナンバー、作業前後の写真は削除せず保存する。
義援金詐欺と偽の救助要請にも注意
災害後は、行政機関、支援団体、被災者本人を装った詐欺も発生する。
熊本県は、行政職員などを装って義援金を集める行為や、補助金申請の代行を理由に金銭を要求する手口へ注意を呼びかけている。
海外でも同様だ。
アメリカのFEMAは、災害後に詐欺師、個人情報窃取犯、偽の支援担当者が被災者へ接触することがあると警告している。
アメリカ連邦取引委員会は、偽の修理業者や慈善団体、政府職員を装う手口に注意し、免許と保険の確認、書面契約、前払いの回避、工事完了前の全額支払いをしないことを推奨している。
アメリカ赤十字も、知らない相手へ個人情報や金融情報を提供しないこと、赤十字などの名称を使った偽募金を通報することを呼びかけている。
SNS上の寄付依頼では、
振込先の名義。
団体の公式サイト。
自治体や報道機関が公表した口座と一致するか。
電子マネー、暗号資産、ギフトカードだけを要求していないか。
を確認する必要がある。
不審者を見つけても、自分で捕まえない
倒壊住宅や無人店舗へ入る人物を見かけても、自分で追いかけたり、取り押さえたりしてはいけない。
相手が複数いる可能性がある。
刃物などを所持している可能性もある。
地震で損傷した建物が崩れる危険もある。
安全な場所から可能な範囲で、
見かけた時刻。
場所。
人数。
服装。
車種と色。
車のナンバー。
移動した方向。
を記録する。
撮影できる場合も、撮影のために近づかない。
犯罪が進行中、または犯人が現場にいる場合は110番。
緊急ではない不審者、防犯、悪質商法の相談は、警察相談専用電話「#9110」へ連絡する。熊本県では096-383-9110でも受け付けている。
SNSへ顔写真や車両を「犯人」として公開するのは避ける。
人違いだった場合、正規の作業員、支援者、ボランティアを傷つけることになる。
情報はSNSより先に、警察へ渡す。
困ったときの相談先
状況相談先侵入や盗難が進行中、不審者が現場にいる・・・・・・・110番
緊急ではない防犯・不審者相談・・・・・・・・警察相談専用電話 #9110
熊本県内から警察相談・・・・・・・・・・・・・・・・・096-383-9110高額請求、住宅修理、訪問販売・・・・・・・・・消費者ホットライン 188熊本県消費生活センター・・・・・・・・・・・・・・・・096-383-0999熊本県警察本部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・096-381-0110
相談窓口の受付時間などは変更される場合があるため、最新情報は熊本県の公式ページで確認してほしい。
被災地を守るのは、恐怖ではなく正確な情報
今回、倒壊住宅からバッグが盗まれたという被害が確認された。
甲佐町では、ブルーシート設置などを口実にした不当な高額請求が実際に発生している。
西日本各地から約450人の警察官が派遣され、被災地を巡回している。
過去の熊本地震では、空き巣や置き引きなど47件、被害額約1,300万円が、発災約1か月後までに認知されていた。
警戒は必要だ。
しかし、確認されていない窃盗団の情報や、特定の地域、車、服装、国籍などを根拠なく犯罪と結びつけてはいけない。
災害時の犯罪情報は、人を守ることもあれば、避難をためらわせ、支援者を遠ざけ、地域の不信を広げることもある。
必要なのは、恐怖をあおることではない。
施錠する。
貴重品を携行する。
危険な建物へ戻らない。
避難所でも貴重品を手放さない。
訪問業者とその場で契約しない。
義援金の振込先を確認する。
不審者と接触せず、警察へ通報する。
近隣住民と正確な情報を共有する。
地震は住宅を壊す。
盗難や詐欺は、その人が残された社会を信じる力まで壊す。
地震から助かった命を、その後の犯罪や悪質商法で再び傷つけてはならない。
※この記事は、2026年8月6日午前8時47分までに確認した、警察庁、熊本県警、熊本県、甲佐町、国民生活センター、衆議院会議録、熊本朝日放送、国内外の研究論文、FEMA、アメリカ連邦取引委員会、アメリカ赤十字の公開情報を基に作成しています。
※今回の熊本地震に関連する窃盗事件の総認知件数は、確認時点で公式な集計を発見できませんでした。確認された個別被害と、未確認のうわさを区別しています。
※2016年熊本地震の窃盗件数は集計期間によって異なります。本記事では、国会で警察庁側が説明した「2016年5月17日まで47件」を基準にしています。
※危険な住宅へ、貴重品の回収や防犯目的で立ち入らないでください。命を守ることが最優先です。
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