535回の揺れ、その外側にいる避難者たち
熊本地震から1週間――地震活動は本当に減ったのか、公式統計に映らない避難生活と支援の壁を追う

震度1以上の地震は535回。地震回数が減っても、被災生活が終わったわけではない。
公開情報を基にGT作成。実在の被災者や施設を描いた画像ではありません。
2026年7月28日、熊本県熊本地方でマグニチュード7.1、最大震度7の地震が発生した。
発生から1週間以上が経過し、地震回数は大きく減ってきた。
しかし、気象庁が8月5日午前9時までの観測データを精査した結果、震度1以上の地震は累計535回に達している。
熊本県内では、8月5日午前7時30分時点でも、138か所の避難所に7,269人が避難している。
人的被害は163人。このうち死者は38人。住家被害は1万3,690戸に増えた。
数字だけを見れば、
地震回数は減った。
避難者も減った。
停電はおおむね解消した。
救助活動も大きな現場では一区切りを迎えた。
被災地は、少しずつ元の生活へ戻っているように見える。
だが、本当にそうだろうか。
指定避難所から人が減っても、全員が安全な住宅へ戻ったとは限らない。
損傷した自宅で暮らす人。
庭や軒先で眠る人。
ペットを連れて車中泊する人。
保育園や集会所など、自治体が把握していない場所へ自主避難する人。
ホテル避難を申し込んでも、移動先が決まらない人。
「公式の避難者数が減った」という事実と、「被災者の生活が安全になった」という事実は、同じではない。
今回は、気象庁、熊本県、内閣府などの公的資料に加え、熊本の地元報道、国内メディア、AP通信、ロイター、ドイツの地震観測網GEOFONなどを照合した。
地震活動、救助と避難者の状況、新たな支援策。
その三つを一本の流れとして追っていく。
1.震度1以上は535回――最新の地震発生統計
気象庁の最新集計では、7月28日午後4時から8月5日午前9時までに、震度1以上を観測した地震は535回発生した。
最大震度別の内訳は次の通りだ。
最大震度回数震度7:1回
震度5弱: 5回
震度4: 19回
震度3: 54回
震度2: 140回
震度1: 316回
合計 535回
日別に見ると、
7月28日 194回
7月29日 144回
7月30日 62回
7月31日 34回
8月1日 30回
8月2日 30回
8月3日 16回
8月4日 21回
8月5日 4回(午前9時まで)
となっている。
7月28日と29日の2日間だけで338回。
その後は大きく減少した。
一方、8月3日の16回から、8月4日は21回へ一時的に増えている。
8月4日午前5時32分には熊本地方で最大震度4、約30分後には天草・芦北地方で最大震度3の地震が発生した。
「全体として減っている」ことと、「強い揺れがもう起きない」ことは別である。
体に感じない地震も含めた活動の強さを見る指標では、マグニチュード3.5以上の地震が、8月5日午前6時までに116回確認されている。

震度1以上は累計535回。回数は大きく減少しているが、最大震度4~5弱の揺れも断続的に発生している。
集計期間:2026年7月28日午後4時~8月5日午前9時。出典:気象庁
参照リンク
2.回数が減っても警戒が解除されない理由
気象庁は、地震の発生数について、
「増減を繰り返しながら大局的には緩やかに減少しているが、地震活動は依然として活発」
と評価している。
8月4日時点で、最大震度5強程度以上の地震が発生する可能性は、本震直後のおよそ5分の1まで下がった。
一方、平常時と比べると約80倍の水準にある。
この「80倍」は、80%の確率で地震が起きるという意味ではない。
地震の発生確率を、通常の状態と比較した数字である。
つまり、
本震直後ほど危険ではなくなった。
しかし、通常の状態には戻っていない。
ということだ。
気象庁は、8月4日から今後1週間程度、最大震度5強程度以上の地震に注意するよう呼びかけている。
最大震度6弱程度以上についても、平常時より発生しやすい状態が続いている。
今回の活動域は広い。
熊本地方の本震周辺だけでなく、天草・芦北地方でもマグニチュード6.1や5.8の地震が起きた。
最大震度5弱以上の地震は、本震を含め6回確認されている。
震源が一方向へ順番に移動しているわけではなく、熊本地方とその南西側の双方で活動が続いている。
気象庁は、震源の位置や規模によっては、7月28日のマグニチュード7.1による揺れよりも、局地的に強く揺れる可能性があるとしている。
さらに、海底で規模の大きな地震が起きた場合には、津波への注意も必要になる。
3.世界の観測網は熊本地震をどう解析したのか
日本の気象庁は、本震をマグニチュード7.1、震源の深さ16キロと解析している。
一方、ドイツのGFZ・GEOFONは、モーメントマグニチュード6.8、深さ約10キロの地震として記録した。
海外報道では、アメリカ地質調査所USGSも、速報値を修正した後、マグニチュード6.8、深さ約10キロとして伝えられている。
気象庁の7.1と、海外機関の6.8。
この違いは、どちらか一方が誤っているという意味ではない。
気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードでは、利用する地震波や計算方法が異なるため、数値に差が出ることがある。
国内外の観測機関は、
九州の浅い地殻内で、横ずれを主体とする大規模な断層運動が発生した
という基本的な部分で一致している。
世界各地でも、同じ時期に複数の大きな地震が起きている。
しかし、発生日が近いというだけで、熊本地震と世界の地震を一つの連鎖として結びつけることはできない。
震源の場所、深さ、断層運動、プレート構造が異なるためだ。
一方、海外メディアが強く注目しているのは、地震の仕組みだけではない。
AP通信は、冷房のない混雑した避難所、断水、燃料不足、車中泊、猛暑を重点的に報じた。
地震から助かった人が、その後の避難生活で命を失う危険を、海外も大きな問題として伝えている。
参照リンク
AP通信・猛暑と避難生活を伝えた記事
4.救助活動から「避難生活を守る段階」へ
熊本県の8月4日資料では、人的被害は161人、死者は38人だった。
その後、8月5日午前7時30分時点で人的被害は163人となった。
死者38人のうち、
36人は自治体が災害による死亡と確認。
1人は、負傷の悪化や身体的負担による病気で死亡した可能性があり、災害関連死の審査対象。
1人は、災害との関連を調査中。
とされている。
日本製紙八代工場では、閉じ込められた11人全員の救助活動が終了し、9人の死亡が確認された。
イオンモール熊本では12人が救出され、5人が軽傷、7人が死亡した。
大規模な救助現場での活動は一区切りを迎えている。
しかし、「救助完了」は災害終了を意味しない。
現在の救命活動は、
避難者の健康確認。
持病の薬の確保。
熱中症や血栓症の予防。
断水地域への給水。
感染症の早期発見。
危険な車中泊から安全な場所への移動。
という、生活を守る段階へ移っている。
熊本県は8月4日時点で、被災市町村へ543人を派遣。
避難所運営、罹災証明、住家被害認定、災害ごみ、保健活動などを支援している。
参照リンク
5.避難者7,269人、その数字に入らない人々
熊本県が8月5日午前7時30分時点で集計した避難者は7,269人。
前日の午後6時時点から269人減少した。
避難所は13市町、138か所となっている。
住家被害は1万3,690戸。
全壊699戸、大規模半壊20戸、半壊1,025戸、一部破損6,068戸などとなっている。
避難者が減ったことは前進だ。
しかし、この数字には注意が必要である。
避難所を出た人が、
安全な自宅へ戻ったのか。
損傷した家へ戻ったのか。
車中泊へ移ったのか。
親族宅へ移ったのか。
自主避難所へ移ったのか。
公表される人数だけでは分からない。
熊本日日新聞は、八代市や氷川町で、在宅避難や自治体が指定していない自主避難所が存在し、支援物資が十分に届いていないケースを報じている。
高齢で歩けない。
免許を返納して移動できない。
病気の家族を残せない。
大勢がいる避難所では眠れない。
顔見知りのいる小さな施設の方が安心できる。
被災者が指定避難所へ行かない理由は、それぞれ異なる。
避難所へ来ない人を、
「避難が必要ない人」
「支援が不要な人」
と判断してはいけない。

8月5日午前7時30分時点の公式避難者は7,269人。しかし、在宅避難、軒先避難、自主避難所、車中泊などを含む被災者全体の人数は把握しきれていない。
出典:熊本県、熊本日日新聞/図解:GT作成
参照リンク
6.食事・睡眠・猛暑・感染症が同時に襲う
避難生活が1週間を超えると、必要な支援の内容が変わる。
発災直後は、水と空腹をしのぐ食料が最優先になる。
しかし、その後も、
おむすび。
パン。
カップ麺。
ご飯。
といった炭水化物中心の食事が続けば、たんぱく質や食物繊維が不足する。
高齢者や持病のある人にとっては、栄養の偏りが体調悪化につながる。
テレビ熊本は、避難所で食事の栄養バランス、睡眠不足、外にあるトイレへの夜間移動、猛暑下でのマスク着用と感染症対策の両立が課題になっていると報じた。
避難所の環境には大きな差がある。
冷房のある教室。
段ボールベッドとパーテーションがある施設。
温かい食事が届く施設。
その一方で、
体育館の床で眠る施設。
冷房が十分でない施設。
外の仮設トイレを使用する施設。
物資を仕分ける職員が足りない施設もある。
文部科学省の調査では、熊本県内で避難所に指定されている公立小中学校の体育館・武道場532施設のうち、空調設備があるのは111施設。
約2割にとどまると報じられている。
さらに、熊本県の資料では、震度6強以上を観測した地域を管轄する4消防本部で、7月29日から8月3日までに熱中症による搬送が計196件発生している。
地震前1週間の1日平均は、4消防本部合計で19.4件だった。
8月3日だけで39件となっており、猛暑と避難生活の重なりが大きな負担になっている。

食事、睡眠、猛暑、感染症は別々の問題ではない。避難生活が長引くほど、複数の負担が重なって体力を奪う。
出典:熊本県、テレビ熊本、AP通信/図解:GT作成
7.ペットを連れて入れず、車中泊を選んだ人
ロイターは、犬2匹と避難した女性の事例を報じている。
女性は最初に向かった避難所で、犬を受け入れてもらえなかった。
犬と離れることを選ばず、蒸し暑い夜を車内で過ごした。
その後、SNSでペットと一緒に避難できる動物病院を知り、移動した。
ペットを飼っていない避難者にとっては、
鳴き声。
におい。
アレルギー。
衛生面。
といった問題がある。
すべての人と動物を、同じ空間へ入れれば解決するわけではない。
一方、ペットを理由に被災者が避難所へ入れず、危険な車中泊を選ばざるを得ない状況も防ぐ必要がある。
熊本県、熊本市、熊本県獣医師会は8月4日、熊本地震ペット救護本部を設置した。
犬や猫の一時預かりは原則30日間。
避難所での健康相談、ノミやダニの駆除、診療支援も行う方針である。
これは、ペットだけを守る施策ではない。
飼い主を危険な車中泊や損傷した住宅から、安全な避難先へ移すための人命対策でもある。
今回の地震では、車中泊していた70代女性が、熱中症とみられる状態で死亡した。
発見時には車の燃料が切れ、冷房が使えない状態だったと報じられている。
正式な災害関連死の認定は審査を待つ必要があるが、車中泊の危険が現実の死亡事例として表れた可能性がある。
参照リンク
8.ホテル114施設を確保しても、移動は進んでいない
体育館や車中泊から、冷房、ベッド、浴室のあるホテルや旅館へ移る二次避難が始まった。
熊本県は、県内114施設を受け入れ先として確保した。
8月3日午後1時30分から申し込みを開始。
8月4日午後2時までに289件の申し込みがあった。
しかし、その時点でマッチングが完了したのは6件だった。
受付開始から約1日後の数字なので、6件だけを見て制度が失敗したと判断するのは早い。
一方で、この数字は、部屋を確保するだけでは二次避難が進まないことを示している。
高齢者の移動手段。
通院や透析。
介護サービス。
家族を同じ施設へ入れる調整。
食事や費用。
ペットの受け入れ。
仕事、学校、自宅の片付けとの距離。
一人ひとりの条件を確認しなければならない。
114施設を確保したことと、114施設へ被災者が移れたことは違う。
今後見るべきなのは、確保した施設数ではない。
申し込んだ人のうち、何人が実際に体育館や車を離れ、ホテルのベッドで眠れるようになったかである。

ホテル避難には、部屋の確保だけでなく、申請、条件調整、医療・介護、移動手段、家族やペットへの対応が必要になる。
2026年8月4日午後2時時点。出典:熊本県/図解:GT作成
参照リンク
9.医療船、仮設住宅、感染症対策――新たな施策
国内初となる「船舶を使った医療」
8月5日午後2時から、八代港に停泊するPFI船舶「はくおうⅡ」で、入浴、休憩、医療支援が始まる予定だ。
内閣府によると、2021年に成立した船舶医療体制に関する法律に基づく、国内初の船舶活用医療となる。
被災地の傷病者に救護活動を行い、今後は宿泊や食事を含む利用についても調整する。
内閣府・船舶活用医療の実施について
仮設住宅70戸の建設
宇城市と氷川町では、最初の建設型応急住宅70戸の工事が始まった。
氷川町では9月上旬、宇城市では9月下旬の入居開始を目指している。
完成までの約1か月を、体育館、ホテル、賃貸型応急住宅などで安全につなぐ必要がある。
感染症専門チームが避難所へ
実地疫学専門家FETPは8月4日から、感染症流行の早期探知を開始した。
8月5日からは、災害時感染制御支援チームDICTが避難所を巡回し、消毒や感染対策について指導する。
200億円を超える予備費
高市首相は、熊本地震への対応として、200億円を超える予備費の使用を閣議決定する方針を表明した。
地震を激甚災害と特定非常災害に指定し、自治体の復旧費負担や被災者の行政手続を支援する方針も示されている。
8月5日には、熊本県知事が2016年熊本地震と同程度の財政支援を要望した。
断水と猛暑が重なる中、災害関連死を防ぐ取り組みの拡充も求められている。
10.断水解消「8月末」の見通しに残る不安
8月4日午後2時時点で、熊本県内では約4万4,380戸の断水が続いていた。
主な内訳は、
宇城市 約1万5,580戸
甲佐町 約300戸
八代市 約2万5,300戸
氷川町 約3,200戸
となっている。
熊本市の断水は解消したとされている。
政府と熊本県は、残る断水地域について、8月末を目途に解消する見通しを示した。
ただし、これは各家庭で直ちに安全な水が使えることを保証するものではない。
水源。
浄水場。
送水管。
配水池。
家庭へつながる配水管。
それぞれを順番に復旧し、試験通水を行い、水漏れや水の濁りを確認する必要がある。
熊本日日新聞は、被害の全容をまだ把握できていない自治体もあり、「8月末」という方針に戸惑いが出ていると報じている。
断水は、飲料水だけの問題ではない。
トイレ。
入浴。
洗濯。
調理。
病院の診療。
高齢者施設の介護。
避難所の感染症対策。
生活のすべてへ影響する。
11.今後見るべきなのは、地震回数だけではない
535回。
この数字は、熊本の地下で地震活動が続いていることを示す。
しかし、熊本地震の現在地を示す数字は、それだけではない。
避難者7,269人。
避難所138か所。
死者38人。
人的被害163人。
住家被害1万3,690戸。
断水約4万4,380戸。
ホテル避難申込289件に対し、マッチング完了6件。
これらは重要な数字だ。
しかし、本当に確認すべきなのは、その先にある。
床で眠っていた高齢者が、ベッドへ移れたか。
車中泊の人が、安全な部屋へ移れたか。
一人暮らしの在宅避難者に、水と食料が届いたか。
炭水化物だけでなく、栄養のある食事を取れたか。
夜に眠れるようになったか。
持病の薬を受け取れたか。
ペットと離れずに、安全な避難ができたか。
ホテル避難を申し込んだ人が、実際にホテルへ到着できたか。
支援の評価は、
何台送ったか。
何室確保したか。
何人派遣したか。
だけでは測れない。
その支援によって、何人の生活が実際に変わったのか。
そこまで確認して、初めて支援が届いたと言える。
地震の回数は減っている。
だが、被災者が消えたわけではない。
指定避難所の外にいる人。
移動できない人。
声を上げられない人。
支援情報を受け取れない人。
そうした人を見つけ、支援へつなげることが、これからの熊本で最も重要になる。
地震から助かった命を、避難生活の中で失わせてはいけない。
熊本地震の次の焦点は、揺れの回数だけではない。
一人ひとりの生活が、本当に安全へ近づいているか。
今後も、その変化を追い続けたい。
※この記事は、2026年8月5日午前11時40分ごろまでに確認できた、気象庁、熊本県、内閣府、首相官邸、熊本日日新聞、テレビ熊本、熊本朝日放送、テレビ朝日、AP通信、ロイター、GFZ・GEOFONなどの公開情報を基に作成しています。
※地震回数は8月5日午前9時、避難者数・人的被害・住家被害は8月5日午前7時30分時点です。
※断水、ホテル避難、人的支援など、一部の数値は熊本県の8月4日午後2時時点の資料を使用しています。
※速報値、推計値を含むため、今後の調査で修正される可能性があります。
※記事内の図解は公開情報を基にGTが作成したもので、実在の避難者や避難所を撮影・再現したものではありません。
※地震の発生時期、場所、規模を予知・断定する記事ではありません。避難、給水、医療、交通などについては、気象庁、熊本県、各市町村の最新情報を優先してください。
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