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屍人の夜⑥

有賀祐樹と田原剛


作家の有賀祐樹は、高楼山でひっそりと貸し別荘にて新作を執筆中だった。
一階のリビングで、パソコンのキーボードをタイプする音が鳴る。
そこから少し離れた位置に男がいた。その男は料理人で、ハンターでもあり、猟師の田原ごうだ。有賀の友人で付き添い人というか、山奥で一人執筆中の有賀。何か起きた時や、山に住む野獣から襲われる危険性も考慮してのわば用心棒代わりの役割を担っていた。田原は珈琲豆を挽いていた。田原は挽き終えると豆をポットのお湯をフィルターに注ぎ濾し始めた。珈琲のいい香りがリビングに広がった。「ん、コーヒーのいい香り」その香りに反応した有賀は待ってましたと言わんばかりだった。「だろ?俺はいい豆でしか珈琲を入れないんだ。そろそろ休憩だろ先生…。」
「そうだな、一服するか。」田原は挽きたてのいい香りがする珈琲を執筆中の有賀の机まで運んだ。「おっ、これこれ」有賀はコップを鼻もとまで運びコーヒーの香りを嗅いだ。そして、ふ〜っとひと吹きしてから一口飲むと「あ〜美味うまい最高だなこのコーヒー」と言って表情が和らいだ。「何処の豆?産地は?」と田原訊いた。「秘密だね」ニヤリとしながら答える田原。「ところで進捗具合はどうなんだ先生…?」有賀は飲んでいたコーヒーを一旦机に置いた「ああ、いい感じだよ、山奥で書いてるからいいんだ。今回はホラーなんだけど、作家が山奥の別荘で執筆中に殺人事件に巻き込まれる話しなんだ。つまり今の現状に似ている、だから時々物音がすると怖いよ。殺人鬼が現れるようでね。」田原「大丈夫だよ先生、いざという時は、この猟銃があるからよ」田原は自分の銃身の長い銃を自慢気に見せた。
「そいつは心強い!けどその先生ってのはやめてくれよ、俺とお前は幼馴染みの同級生じゃないか。」「ま、いいじゃないか」「それよりも今書いてる本はもしかしたら俺の代表作になるかもしれない、それだけ今回は自信あるよ。」「ん〜でも、ホラーみたいなものだろ?特殊なジャンルだけど大丈夫なのか。」「あ、あ手応えもいいよ、あとはひたすらラストまで書くのみだよ。」「そいつぁ楽しみだな」田原はたばこを吸いながら答えた。


「ところで携帯がさっきから圏外なんだ、お前のはどうだ?」有賀は田原に訊いた。
「んっ、あれ、俺のもだな」
「ここは圏外じゃないはず、さっきまで繋がってたのにおかしいな…」
「電波障害かな、フレアの影響がどうのこうの言ってたな」
「なんてこった!外部との連絡がつかないのかよ…」
「えらい事になったな…けどよ、そう心配すんなって、ここには食料もあるし、電波だってそのうち復旧するさ」
「だといいけど…ネットも使えないのかよ…調べものも出来ない…」
「何か俺達の身に何かあったら大変な事になるよな」有賀は言う。
「ふ〜ん、例えば?」
「今言ったように書いてる状況になったらヤバいって話しさ、こんな山奥に殺人鬼が現れて俺達を襲ったら…助けを求めるにも出来ないって事だ…」
「何をビビってんだよ、だからこの猟銃があるから心配すんなって言ったろ」
「頼りにしてるぜ…、だとテレビはどうただ?」有賀はテレビのリモコンスイッチをオンにした。
「あっ、テレビは何とか大丈夫だ。映らないチャンネルもあるけど…」
「おいっ観ろよ!街は大変な事になってるぞ、暴動騒ぎが横行してるらしいぞ…」
「だからさっきからヘリコプターが飛んでるのか」窓から空を見上げる2人。夕空は赤紫色に染まっている。
「フレアの影響か、あれはオーロラの余波であんな色になってるんだ」時刻は18時を過ぎた頃だった。
「んっ?車?こんな所に…なんだ…」有賀の貸し別荘に1台の車がやってきた。
「軽自動車だな」
軽自動車に社外製のマフラーを装着しているようなエキゾーストが山奥に鳴り響く。
車から3人の男女が降りて来た。
玄関のチャイムが鳴る「あの3人だ、なんだろ」

「はい、どちら様ですか?」

「いきなりお邪魔してすみません。オーナーの浅丘の娘、あやと申しますが、私たちをかくまってもらえないでしょうか、街は大変な騒ぎで…中へ入れてほしいんです」あやは助けを求めた。

「オーナーの浅丘さんの娘さん…?…3人だけですか?」「はい、修一の娘なんです。何とか入れてほしいんです、無理を承知ですが、どうかお願いします」
「……そうですか…、分かりました、どうぞ入って下さい」
ただ事ではないことを察知した有賀は3人を中へ入れる事にした。

「街では何が起きているんですか?」有賀は3人に尋ねた。

「信じられないかもしれませんが、化け物が人を襲っているんです…」

「化け物?化け物ってモンスター?それとも殺人鬼みたいなやつ?」

「いえ、人間です。理性を失った人が化け物に変身したみたいになって、人を襲っているんです」
「なんだって!つまり屍人?ゾンビみたいな感じですか?」

「はっきりした事は分かりませんが、そうと言われればそうかもしれません」あやは答える。
「君たちも襲われたの?その化け物に」
「襲われそうになりましたが、何とか逃げてきたんです」
「ただ父が奴らに襲われて、それっきり…」
答えるあや。

「田原大変な事になったぞ…こんな事が本当に起こるなんて…」

「いや大変なのはこれからだぜ、その化け物たちはここへ来るかもしれないんだぞ」

「実はここへ向かっている途中、襲われました。街はどこも危険なのでなるべく遠く、奴らから離れた場所の方がいいと思ってここへたどり着いたんですが、きっとここへも来るかもしれません」

「かなり多いのか、奴らは?」田原は訊く。

「たぶん2〜30人ほどいました」

「そんなに!」

「ここは危ないな…」

「屍人の夜と化すかもしれない…」

有賀は不安そうな顔で言った。

時計は午後8時を回っていた…。