屍人の夜⑨
山奥の山荘で5人は屍人の群れの襲撃に備えていた。あと数分ほどでここまで来るだろう。
「このまま通り過ぎてはくれないだろう、奴らは我々を狙って来ているんだ」
「2階から狙撃する!」田原は言い放つ。
「弾は56発ある。何体来るか分からないが、やるしかないだろう…」
「もう一丁ライフルがある誰か援護射撃を…」
「…俺が、やります…」アタルが言った。
「そうか、だが遠い距離の獲物にヒットさせるのは難しい。だがら至近距離に入ってからだ」
「皆、耳を塞いで別室にいた方がいい」
「そうか分かった、あとは頼んだ…俺たちは窓から見てる」有賀は言う。
「アタル気をつけて…」あやは心配そうに言う。
「俺とアタルで狙撃する!」
皆は別室へ避難し、狙撃は2人で行う事なった。
スコープから覗きこむ田原剛。
「全てヘッドショット、難しいがやるしかないな」
「撃つタイミングは?」
「アタルは奴らが数メートルの距離に来たらだな」
「俺は遠目から撃って出来るだけ倒す」
辺りは日の出間近で明るくなりつつあった、まもなく日の出が訪れようとしていた。
「ちょうど夜明けだ、迎え撃つにはいい時間だ…」
「さあいつでも来い!これが最後の砦だ」
「弾丸は56発、全て使うだろう」
「全部撃ち尽くして弾が無くなったら?」
「マチェーテがある、それで頭をぶった切るしかないな…」
「えっ?!」
「怖いか?」
「まあ…」
「だろうな、だが出来るだけ俺は奴らを倒すつもりだ…」
「もしもの時は…、車で皆で逃げろ」
「あと300メートル…」
「ゆっくり近づいてくる…」
屍人の群れは徐々に山荘へと向かってきた。
何もしなければ建物は包囲され、補強した窓も破壊され、皆襲われるだろう。
「そろそろ射程圏内に入る」
「アタル、イヤーマフを…」
田原剛は狙いを定め、引き金を引いた。
凄まじい発射音が部屋中、そして山々に響き渡りそれまで静寂を打ち消した。
田原剛は一発目を撃った!!
弾丸は屍人の頭を貫き、倒れ込んだ。
1体目を倒したが、屍人の進行は止まらない。
剛は続けて2発目を撃ち込んだ…。
10階建てのアパートの屋上に籠城する6人だったが、突然やってきた感染者、吉田は別室に隔離してていたが、納棺師の紗代子、自衛隊の浩次、無職の隼平らに見守られまもなく死が訪れようとしていた。
まもなく日の出前だ、辺りは薄っすらと明るくなっていた。
「このままだと夜明けの日の出と共に蘇りを果たすでしょう」紗代子は言った。
「蘇ったらもう吉田さんではない…」
吉田の息は徐々に弱まり息を引き取った…。
皆、それぞれ祈りを捧げた。
紗代子は納棺師として、蘇る前に遺体を丁重に施した。自分に出来る事はこれくらいだろうけれど、何より成仏してもらいたい、そんな願いもあったからだった。蘇ったら現実より厳しい現実が迫る事になるが…。紗代子の想いそのものであった。
「どのくらいで蘇るんだ?」葉一が訊く
「分からないが、顔色や顔の形相も変わっていくだろうから、恐らく数分だろう…隊員たちもそうだった」浩次は言った。
「見ろよ、みるみるうちに顔が崩れていってる…間もなく蘇る」
「予想よりも早いかもしれない、俺と隼平以外は皆外へ!」
浩次と隼平を残して3人は外へ出た。
そして、
日の出だ、太陽が東からゆっくり昇ってくる。
それと同時に吉田の頭がゆっくりもち上がってくる。吉田は日の出と共に蘇ったのだ。
浩次は拳銃を構え、屍人となった吉田の頭部に狙いを定めた。
「来るぞ!」
2人に緊張が走る…。
その時だった、外で銃の発砲音が連続して鳴り響いた。
2人はそれに気を取られてしまった。
蘇った吉田ゾンビは、勢いよく浩次に襲いかかった!
浩次は倒され、その反動で拳銃が手から離れて落としてしまった。
浩次と揉み合いになる、あまりにも急な襲撃と力の強さで、浩次も驚きを隠せず、浩次は首を咬まれてしまった。
隼平は仰向けで咬みつかれた浩次に、覆いかぶさる吉田ゾンビの両肩を掴み引き上げ、押し倒す。隼平は床に落ちた拳銃を素早く拾い上げ、吉田ゾンビの頭部を撃ち抜いた。そのまま息絶える。
「くそっ、やられた!」首の出血を抑えながら苦しそうに訴える浩次。
「なんだ、どうなってるんだ!」
「一掃作戦だ、銃による狙撃を開始したんだ!」苦しみながら答える浩次。
「まさか、そんな…」
「このままでは…俺も…奴らと同じに…その前に…その銃で…始末してくれ…頼む……」
目を瞑る浩次に隼平は拳銃を頭部に向ける。
息を飲んだあと、隼平は拳銃を撃った。
浩次は倒れ、息絶える…。
「おいっ!大丈夫か?!開けるぞ」
葉一が部屋の扉を開けた。
「んっ!なんで2人倒れてるんだ…」
「蘇ったら急に不意打ちを食らったんだ、それで浩次さんが咬まれて…撃つように言われた……」
「そんな…」
「仕方なかったんだ…」
屋上では一掃作戦の銃声が鳴り響く…。
屋上から下階を見下ろすと大勢の部隊が列を成して、屍人たちを始末する様子を目にする。倒され屍人たちの遺体は自治体の人達によってトラックやダンプカーの荷台に乗せられていた。
「何とか助かったかな…」葉一は言った。
「助かった?そうでしょうか…犠牲者が多すぎて…何と言ったらいいか…」
朝日が昇り、この中核市にもようやく朝が来たのであったが、隼平は気がかりな事があった。
やがてこのアパートの屋上へも救出部隊がやってきたが、隼平は一人、屋上のドアを開けてある場所へと向かったのであった。
