屍人の夜⑧
田原浩次/五條紗代子/伊藤隼平/塩野未理/近藤葉一/吉田章
アパートの屋上で過ごす5人。突然やって来た伊藤隼平はどうにか屍人から逃げきり、とあるアパートの屋上へ続く部屋にたどり着いたのであった。
「幻想的な夜とは…、これでは屍人の夜だな…」
浩次、隼平、紗代子、未理、葉一の5人は集まり語り始める。
葉一「それでこれからどうする?」
「このまましばらくは待機、街が動き出すまでは…」
未理「街が動き出すって?」
浩次「私は自衛隊員で、各地で集団で暴動事件が発生したんだが、最初は警察官が対応していたんだけど感染が広がって自衛隊員が派遣された」
「しかし隊員も襲われた事で、私はそこを離れ退避して今ここにいるんだ。連絡さえ取れればまた私は任務へ戻る事になる」
「ここまで感染が広がれば感染者を隔離するか、一掃作戦を行う事になるかもしれない」
「一掃作戦って?」
「屍人たちを銃で狙撃する作戦だ」
「えっ、ここは日本だぜ、自衛隊を使って銃で人を撃つなんて…冗談だろ…」
「一掃作戦が行われれば銃声で分かるはずだ…」
「一掃作戦になる可能性は?」隼平が訊く。
「十分にあると思う」
「感染者が拡大する前に行う可能性はある」
「おそらく夜が明けて、明るくなってから開始されるかも…」
「それまでここで待機する方がいいだろう」
「外は危険だからな…」
「それに危険なのは屍人だけじゃない」
「強盗などの犯罪も起きているらしいから、一掃作戦は実行される可能性はあるよ」
未理「本当に?」
「でなきゃ終わらないから、もとの世の中に戻すためにはそうするしかない」
「外にいれば誤射される可能性もあるから屋内にいた方が安全だと思う」
葉一「もはや外は無法地帯だ…」
「それよりも連絡手段がない、携帯も繋がらないし」
浩次「外部との連絡は出来ない」
「あと問題は食料の確保だな、人間は何も食べずに3ヶ月は生きるというが、水分は必要だ。水は水道から出るが、食料は調達するしかない。やはり略奪や強盗が頻発しそうだ」
「携帯は2週間くらい使えなくなるかもしれない」
葉一 「今年は11年周期という太陽の極大期にあたる。フレアの影響は磁気嵐を起こし、人工衛星が落下したらしい」
隼平「だとナビは勿論、ネット検索も出来ないのか?文明は大昔に戻るのか?」
浩次「そこまでは私は分からない」
葉一「ところで奴らの弱点は?自衛隊ならなんらかの情報を知ってるはず…」
浩次「奴らを倒すの方法は頭だ!頭を銃なんかで撃ち抜くか、強い衝撃を与えれば奴らの機能は停止する」
「厄介なのは咬まれたら感染する。そして奴らと同じ姿になり理性は失い、人を襲うようになる」
隼平「なんで人を襲うんだ?」
「人肉が好みなのか?本能なのかは分からない。とにかく咬まれたら最後だ…」
紗代子「納棺の仕事をしていたら、急に遺体が蘇った、そこからは酷かった…。」
「葬儀場ではお坊さんが御経を唱えている時に蘇った遺体が、目ん玉を抉り咬み切った…」
「棺から蘇った死人は容赦なく自分の家族を襲ったんだもの、これほど恐ろしい事はなかった…」紗代子は実体験を語った。
隼平は風俗嬢エルナの事を考えていた。
エルナは大丈夫だろうか……。無事でいてくれるといい。こんな世の中になったんだ、借金はこれでチャラになればいいのに…。そうだ、ここから脱出したらエルナに会いに行こう、その時こそ…。
その時だった、部屋中に轟音が響く!
屋上の鉄の扉を叩く音だ。
「開けろ!早く開けてくれ!」
さっきの俺みたいだ、隼平は思った。
ドアの近くにいた隼平は施錠を開けようとした。「気をつけろよ!」浩次は言った。
隼平は施錠を外し、ドアを開けた。
ドアの向こうには血だらけの男が屍人らに襲われて苦しそうにもがいていた。
浩次は鉄パイプを武器にし、屍人たちを押し退けるように突き倒し、何とか男を中へと入れ素早く施錠した。
「うっ……」男は血だらけの左腕を押さえていた。どうやら逃げてここまで来るうちに咬みつかれたようだ。
つまりこの男は感染者だ。
「大丈夫か?」浩次は言った。
「くそっ!咬まれた…」男は苦しそうに言った。
「早く治療を…救急箱は?」
「棚にある」
紗代子は咬まれた傷を治療しようと、救急箱からガーゼと包帯で腕を治療する。
「まずいな感染者だぞ…」
「どのくらいで変身するんだ」
「分からんが…」
「程度にもよるだろう」
「どうする?変身したら皆殺られてしまう」
「出て行ってもらわないと…」
「そんな事、面と向かって言うのか…」
「ここから追い出すなんて…」
「じゃ屍人に変貌するまで待ってるのか?…」
「変身したら屋上から突き落とす!」
「そんな残酷な…」
「しばらく様子を見よう」
隼平と浩次は部屋の外の屋上フロアでヒソヒソ声で話している。ここは屋上にあるいわゆる屋上部屋と呼ばれる場所である。
2人は中へ戻ると紗代子の治療は終わり包帯姿になっていた。
「大丈夫ですか…街の様子はどうなってます?」浩次は尋ねた。
「酷いもんさ、街に出れば襲われる。皆は建物の中にいる、その方が安全だ」男は言った。
「あなたの名前は?吉田、吉田章」
「よろしく吉田さん」
「具合の方はどうです?」
「ああ、あまり良くない。頭がガンガンするんだ。まるで二日酔いみたいに、吐き気もするし…」
「…………」一堂は沈黙した。
「そうですか、あまり無理しないで下さい。少し横になりますか?」
「ああ、そうさせてくれ…」
浩次と隼平は吉田を別室に招き、休ませる事にした。
「さて、吉田さんをどうするかだ」
「変身したら手に負えなくなる」
「その前にどうにかしなければ…」
「このまま隔離して皆を外へ俺たち2人で始末するしかない」
「そんなリスクがあり過ぎる、しかもどうやって頭部破壊するんだ?…」
「実はな、俺は拳銃を持っているんだ」
「えっ?」
「俺は自衛隊員だ、本当は出来ない事なんだが、裏ルートで手に入れたモノがあるんだ」
「本当に!?」
「まさか使う時が来るなんてな…弾もある」
「もし蘇ったら、いや確実に生き返るだろう。その時はこいつを使う」
「それは心強いモノだな。その時は頼むよ」
「撃ち方も心得ているだろうから…」
「ああ…」
「みんなには?」
「俺から話す」
「皆、ちょっと集まって欲しい…」浩次は皆を集めこれからのする事を話した。
それから数時間が経った。吉田の様子は以前にまして悪くなる一方だった。
「時間の問題だな、もうすぐ屍人として蘇る…」は言う。
「私たちは外に避難すればいいのね」紗代子は尋ねる。
「ええ、近藤さんと、塩野さんとで外にいた方がいいでしょう」
「俺と隼平さんで葬ります…」
「ツライ事ね…」
屍人の夜は刻々と時を重ね、深夜にまで及んだ。しかし、いつ蘇りを果たすか分からない状況に5人は緊張を強いられ、眠りにつくことさえ許されなかった。
