屍人の夜⑩最終話
高楼山の山荘では、ハンターの田原剛が屍人の群れを相手に一人、ライフルで仕留めていた。
発砲、リロードを繰り返す田原剛。
「くそっ!倒しても倒しても次から次へと奴らはやって来やがる!これじゃキリがない…」
屍人の群れは建物を包囲し、窓を叩き壊そうとしている。
「おいっ、一階の窓が危ない!壊されそうだ!」有賀とあやは1階の様子を言いに来た。
「仕方ない、俺は外へ出て奴らと戦う」
「お前たちは車で逃げろ!」
「そんな事出来るかっ!」有賀は言い放つ。
田原は一階へ行き、ドアを開けた。
「俺が出たら鍵を閉めろ!」
「おい、やめろ田原!死ぬぞ!」有賀は田原の肩を掴んで言い放った。
「ありがとよ…」
田原はライフルとマチェーテを手に屍人の群れに飛び込んだ。
田原はマチェーテを振りかざし、屍人たちの頭部に斬りかかる。
首をハネる!飛ぶ、縦割りなどを駆使し、次々と屍人たちを倒す田原。屍人も残り数体まで減らしたが、囲まれ田原は屍人たちの餌食となってしまった。
有賀はもう一つの猟銃を持って外へ飛び出した。
残り数体の屍人たちを猟銃で倒す有賀。
辺りには屍人たちはもういない。
田原のもとに駆け寄る有賀。
「おいっ田原、死ぬなよ!無茶しやがって!」
「俺も咬まれたから、あとは頼んだ…」
「蘇ったらやってくれ…」
そう言い残すと田原剛は息絶える。
有賀祐希は田原の瞼を指で閉じた。
4人はふと、一本道へ目をやると、ゆらゆらと一体の屍人がこちらへ向かってくるのを目にする。
あやの親父さん、修一ゾンビだった。
「父さんだ…」あやは言う。
「私が仕留める…銃を貸して…」
「いや、俺がやるよ、あやがやったら後悔するよ…」
「じゃ2人で仕留めたら…」
「いいよ、それで…」
あやとアタルは猟銃を2人で抱え込み引き金を2人の指2本で押さえ、修一の頭部に狙いを定めた。
発砲音と共に修一は倒れ、2人は最後を見送った。
2人は猟銃を地面に落とし、抱きしめ合った。あやは涙を流し号泣した。アタルはあやを強く抱きしめる。
遠くから自衛隊の特殊車両が来るのが見えた。一掃作戦が高楼山まで及んでいた。
4人は自衛隊の車両に乗り込み救助され、田原剛の遺体も搬送された。
アパートの屋上を出た隼平は一掃作戦の非常線を飛び越え、繁華街へと向かっていた。
隼平が向かう先は風俗嬢のエルナの所だった。
隼平は店内へ恐る恐る入っていった。
物が散乱し、荒らされた店内。だが人の気配はなかった。エルナは大丈夫だろうか…。うまく逃げてくれたのだろうか。
隼平は念のため昨日来た部屋へ行ってみる事にした。
隼平はドアノブに手を掛け、そっとドアを開けた。
中の奥には人影が見えた。
エルナだろうか…。
隼平は奥へと進んだ。
後ろ向きに座っている女はゆっくりとこちらをふり返った。
振り返った女はエルナだった…。
だがエルナはすでにゾンビ化していた。
隼平はショックを受け、茫然と立ち尽す。
エルナは椅子から立ち上がり、隼平の方を向いた。
そこには小玉のスイカを手に持つエルナが、ゆっくりと歩き出し、手からスイカが溢れ、床に落ち割れてしまう。エルナは割れたスイカの上を裸足で踏みながら隼平に近づいてきた…。
ゆっくりと…、両腕を前に突き出し
それはまるで隼平を待っていたかのようであり、助けを求めるかのようでもあった。
虚ろな表情の中にも、その目だけは何かを訴えていた。
隼平の目をじっと見つめながら…。
エルナが近づくにつれ隼平は悲哀な感情が溢れていた。
すると隼平は浩次から受け取った拳銃をエルナに向けた。
撃つ事を躊躇いながらも、隼平はエルナに向け拳銃を放った。
弾丸はエルナの頭部を貫き、床に倒れ込むように沈んだ。
エルナはきっとずっと部屋の中で感染に苦しみ、そして哀しみに打ちひしがれながらも助けを待っていたに違いない、隼平はそう思っていた。
小玉のスイカだけに温もりを感じながら…。
隼平はそのまま自分のこめかみに拳銃を突きつけた。
そして引き金をゆっくりと引いた…。
カチャっという無機質な音がした。
拳銃のマガジンには弾はもう入っていなかったのだ。
エルナを撃ったのが最後の弾だったのだ。
隼平は拳銃を床に落とす。
隼平は失意と後悔の念にかられ、意気消沈とした。
隼平はしばらく床に倒れたエルナを見つめ、店内をあとにした。
外へ出た隼平は行きどころもなく、その足取りは重く、揺らめく屍人のようだった。
街を徘徊する隼平は非常線を乗り越えて侵入していた。
そして、一掃作戦の部隊員は隼平に向け銃弾が発射された。
隼平は弾丸に倒れ、絶命した。
「ナイスショット!」
「だいぶ上手くなったな!」
「よし、この遺体もトラックに積んでくれ!」
若いボランティアの部隊員は隼平を屍人と勘違いし、誤射したのである。
隼平の遺体はトラックに乗せられ、遺体安置所へと搬送された。
アタルとあやはその後婚約した。アタルは元の世界をとり戻すため、部隊に入隊し活動している。あやはアタルとの間に出来た子供を授かり出産、厳しい時代ながらもアタルと共に協力し、子育てに励んでいる。屍人に支配されたのは過去の話しとなりつつあった。
だが、世界を再建するため、犠牲を払いながらも屍人と人間との戦いは続いていく…、先が見えず、終わりのないその世界のように…。
終
