屍人の夜⑦
有賀祐希/田原剛/高橋アタル/浅丘あや/佐藤恵理子
午後9時過ぎ頃
高楼山
「だとすると、奴らが来る前にここを離れればいいんじゃないか」田原は言う。
「奴らはこちらへ向かっています。ここまでの道は一本道で下へくだるのは危険です」アタルは返す。
「ここへ留まるのはもっと危険だぞ!」
「大体なんでこんな所へ来ようと思ったんだ?」
「私のせいです。私がここがいいって言ったんです」あやは言った。
「彼女を責めても仕方がない。それより窓を塞ごう」険しい表情で有賀は言う。
「戦うしかないんだよ、その時が来たんだ…」
「何もしなければ皆死ぬ…」
有賀は危機的な状況の中、真摯な表情を見せながら言った。
「部屋のドアを外して窓を塞ごう」
「ハンマーや釘は倉庫にあるはずだ」
「早くしよう、もたもたしてたら皆奴らに殺られてしまう」
5人は手分けして部屋のドアを外し、ハンマーと釘を使って窓を塞いでいった。
手分けして、ドアやテーブルなど窓を塞げるものがあれば徹底的に外し窓を塞いでいき、臨戦態勢は整った。
「田原、猟銃は何丁ある?」有賀は田原に訊く。
「2丁だ。弾は全部で56発ある」
「20発入りの弾が2ケースと16発」
「貴重だな、奴らと戦うには…」
「まさか、人に向けて発砲すんのかよ!」
「それしかないだろ…」
「奴らは人間じゃない、人間の姿をした怪物だ」有賀が熱弁した。
「しかしだな、家の中から窓を叩く人を撃つなんて結構無謀だぞ!」
「ここは明かりを消して静かに身を潜めるんだ」
「銃は最後の手段だな、大体家の中でライフルなんかぶっ放せば、どんどん奴らを引き寄せる事になるし、うるさくてしょうがない。耳がおかしくなるぞ…」田原は諭すように言う。
「それもそうだな、ここはお前が言ったように身を潜めるしかないか…」
「ああ、補強もしたし明かりを消せば、奴ら襲って来ないかもしれない…」
戦々恐々しながらも5人は近づいてくる屍人たちを前に極限の状態に追い込まれていた。
「大丈夫だろうか…」
「分からんさ…」
「ただ…明かりを点けていたんじゃ奴は寄ってくる…ここは消灯するのはいい考えかもしれん…」
一堂は電気を消して窓の隙間から様子を覗っていた。部屋は真っ暗な上、屍人の群れが来るか来ないか、静寂と緊張に包まれ、極度の緊張感が5人を襲う。
「来ないな…」
「来ない方がいいんだが…」
「心臓に悪いなこんな状況…」
「奴らの弱点ってなんなんだ…」
「脳だ、つまり頭だ。脳天に弾をぶち込むか、頭部破壊で奴らは機能を停止するはず…」
「あとは?」
「火を恐れるかも…」
「火?」
「ああ…」
「確かか?」
「さあな、試してみるか?」
「まずはこのまま様子を見よう…」
「今何時だ?」
「10時43分」
「このまま夜が明けてくれればいいのに…」
「携帯は?」
「駄目だ、圏外だ」
「皆が使ってるからか…それとも通信障害か…」
「両方さ…」
「このまま夜が明けたら移動するか…」
「どこへ?街は危険なんだぞ…」
「自衛官の弟がいるんだが、連絡が取れれば何か分かるかもしれない…」田原は言う。
「そう言えばここへ来る途中、自衛隊の特殊車両が沢山来ていました」
「災害時の救援活動で来てるんだ」
「自衛隊と警官、猟友会が協力して奴らの一掃するしかないと思う」
「あとは政府がどう判断し、ゴーサインを出すかだな…」
「いくら屍人とは言え、人を撃つとなると反対する人たちがいるからな…」
「集団的自衛権を行使し、正当防衛で発砲許可が下りるかどうかさ…」
「早いとこ決断しないと、犠牲者が増える一方だ…」
「厳しい決断だろうな…」
「屍人じゃないのに誤射したとか、色々出るだろうし…」
「SFの世界じゃない、現実世界さ…」
5人は緊張の中、屍人からの襲撃に備えていたが、いつしか眠りについていた。
全員が寝静まった頃、ハンターの田原は一人見張りを続けていた。
猟師の田原は独特の嗅覚の持ち主だ、何か嫌な予感が離れなかったのである。
2階の窓から双眼鏡で辺りを見回す田原、ライフルのスコープから覗いているのは、この山荘へと繋がる一本道。遠くに見える街灯の様子だ。電信柱の街灯は道路を照らす、もし屍人の群れが押し寄せるなら、最初に街灯の明かりに屍人たちは照らされるはず…何時間も双眼鏡で街灯を見ている。集中力も必要だ。トイレに行く暇もないだろう。
もうすぐ夜明けだ…。田原は獲物を待ち狙いを定めるハンターそのものだ。
街灯までの距離、約1キロ。狙われるんじゃない、あくまでこっちが狙うんだ。田原はハンターとしての嗅覚と精神力で恐怖を打ち消していた。
その時だった、街灯の下をゆっくりと揺らめくように歩く人影が見えた。「ん…!」田原は息を飲んだ。
1人2人3人4人5…6…人、人間か、田原はライフルのスコープから覗き込んだ。
揺らめくように不規則な挙動で歩く不気味な人影はやはり屍人!しかも群れだ、屍人の群れがこっちへ向かって来るのが見えるのだ。田原は一階へ急いで下りていった。
寝ている4人を起こした。
「おいっ…皆起きろ…来たぞ!奴らだ…!」
小声ながらも緊迫した様子で伝える田原。
「皆2階へ上がれ早く!」
「本当か!」
有賀は双眼鏡で街灯に照らされた屍人の群れを目撃する。
「来た!あれか…気味が悪いな」
「このままだとどのくらいでここまで来る?」有賀は田原に訊く。
「そうだな、恐らく20分てところか…」
「俺たちに気づいているのか、ここへ向かっているのか?分からんが…通り過ぎてくれればいいのだが…」
アタルとあや、そして恵理子も2階へ上がってきた。
屍人の群れは山荘を目指すようにゆっくりと徐々に近づいて来ていた。おそらくあと15分ほどで襲撃されるであろう。
確実に近づく屍人の群れに5人の緊張が迸るのであった…。
