最弱の薬師、魔王を調剤する
---
# 第十五章「再接触」
---
丘だった。
変わっていなかった。
風も、草も、白い花も。
---
リナは歩いた。
迷わなかった。
---
石の前で、止まった。
しゃがんだ。
---
触れた。
冷たかった。
それだけだった。
---
リナは手を離さなかった。
そのまま、目を閉じた。
---
誰かがここにいた。
長い時間。
同じ場所に、繰り返し来た。
祈るように。
あるいは、祈ることしかできなかったように。
---
リナは目を開けた。
石は、冷たいままだった。
何も変わっていなかった。
---
荷袋から、空の小瓶を出した。
白い花を、一輪摘んだ。
---
摘む前に——
石に、もう一度触れた。
左手で。
右手で、花を摘んだ。
---
同時だった。
---
小瓶に入れた。
封をした。
---

ソルが後ろで見ていた。
何も言わなかった。
---
リナは立ち上がった。
小瓶を光に透かした。
---
前回と、同じに見えた。
しかし——
少し、違った。
---
測定できなかった。
でも、確かに違った。
---
リナは帳面を開いた。
書いた。
*接触条件の変更:石と花、同時。感覚:前回と異なる。再現性:未確認。*
---
ペンを止めた。
もう一行書いた。
*誰かの時間が、花に入ったかもしれない。*
---
書いてから、少し考えた。
消さなかった。
---
「戻ります」
ソルが頷いた。
---
丘を下りながら、リナは小瓶を握っていた。
壊さないように。
---
風が来た。
草が揺れた。
白い花が、一斉に揺れた。
---
リナは止まらなかった。
でも、見た。
---
揺れ方が、均一だった。
一輪だけ——
一瞬、遅れた。
---
見間違いかもしれなかった。
記録しなかった。
---
歩き続けた。
小瓶を、握り続けた。
---
**第十五章・了**
---
*【免責事項】**
本作品はフィクションです。登場する人物・団体・地名・事件等はすべて架空のものであり、実在するいかなる人物・団体・場所とも関係ありません。本作品の著作権は作者(Gosta debolacha)に帰属します。無断転載・複製・改変・二次配布を堅く禁止します。
