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rich_poppy335
祖母の法事
仕事を半日休んで、法事に出席した。
祖母の一周忌らしい。
1年に1度しか着ない喪服。
革靴。
去年と同じはずのズボンが、
ウエストのところで少しゆるくなっていた。
一応、本家の長男なんだが、
どこか他人事のようだ。
法事の段取りは、
姉が全部やってくれる。
住職と話す。
親戚を案内する。
お茶を出す。
誰かに呼ばれる。
また歩く。
せかせかと動き回っている。
私は、
「ありがとう。」
とだけ言う。
姉は、
「もうっ。」
と半分笑いながら、
またどこかへ歩いていく。
寺へ入る。
木の匂い。
畳の匂い。
本堂は明るい。
後ろから差し込む光が、
畳を白く照らしている。
子どもが10人くらいいる。
落ち着かないのだろう。
足をぶらぶらさせたり、
身体を揺らしたりしている。
私は、
いつもの席へ座る。
一番後ろの右端。
毎回ここだ。
ここからだと、
全体が見渡せる。
母は真ん中に座っている。
神妙な顔だった。
住職が読経を始める。
ポクポクポクポク。
鐘が鳴る。
風が吹く。
風鈴が鳴る。
からーん。
線香の匂いが、
少しずつ濃くなる。
私は、
母指球でリズムを取っていた。
無意識だった。
ポクポクポクポク。
ごーん。
ポクポクポクポク。
毎回思うのだが、
坊さん以外、
本当に意味を理解して唱えている人は、
いるのだろうか。
言葉という箱の中に、
何も入っていない言葉を唱え続ける。
それに、
どんな効果があるのだろう。
形式に、
精神性は宿るのだろうか。
ポクポクポクポク。
線香の匂い。
ああ、この匂いか。
木の匂い。
風鈴の音。
一番後ろの右端。
ポクポクポクポク。
身体が、
1年前を思い出していた。
あ、そっか。
私は祖母の遺影に向かって、
一言だけ唱えた。
南無妙法蓮華経。
