カロニア群島神話録『パックルルルカス神話』4章⑤モグ族の始まりの風
これは例外的にショグワ・ニ族ではなくモグ族に伝わる部族の始まりをモグ族の族長達から聞いた話をまとめたものである。
私の父のお祖父さんのそのお祖父さんのお祖父さんがこんな話を聞いたんだ…
…
ニーショグニー平原から旅立ち、パックルルから授かった舟を操り
トハンブリーの波に乗り、グゥワルーの海へ漕ぎだした、我らの祖先の夫婦は清々しく吹く風と空を渡り自由に飛ぶ鳥たちをみて、心を弾ませた。
妻は言った「あぁ、貴方。私は鳥のように自由に飛び回りたい」
夫も言った「そうだな。風のようにどこまでも行って、多くを見たい」
その時、風と鳥の神ピが喜びの風で夫婦の背を押した。
夫婦は島々を巡った。
海を観て、山を聴き、
浜辺で歌い、草原で踊り、
森で遊び、磯で座り、
谷で語り、崖で笑った。
多くを見て。
知り。
学び。
運び。
伝えた。
それはやがて島々に広がる知の風となる。
それは、そんな我々の大いなる始まり。
我らはモグ族。
モグ族の、モグは「知る」ということ
海にも、大地にも縛られることなく、風のように軽やかに吹き、すべてを見るため我々は島々を巡るのだ
4章⑤了
カロニア群島神話録:解説
前項に続きカロニア群島四大部族の一つモグ族に伝わる部族の創世譚です。
モグ族最大の特徴はやはり、一処に定住する事なく群島内を巡り渡るコトでしょう。「知る」ことを部族のアイデンティティとし、島から島へと舟を進めました。一部はカロニア群島を、離れ外海へと挑んだ者もいたといいます。
島から島へと舟を進め、
出会った風景や人々、歌や踊り、道具の作り方を
自ら学び、運び、伝えていった。
この「運び、伝えた」という行為こそが、モグ族の真の役割でしょう。
彼らは単なる旅人ではなく、群島全体に「知の風」を静かに、しかし確実に広げていく文化の媒介者だなのです。
海藻布の太鼓トママは当初、モグ族独特の楽器でしたが、
巡る過程で内陸の素材へと形を変えながらも、その軽やかな響きは今も群島各地の踊りや儀式に息づいていきます。
モグ族の創世譚は、ただの移動の物語ではありません、「知ること」と「共有すること」がいかに尊いかを、
風のように軽やかに、しかし力強く語っています。
根津曽大学
プセポリネシア研究室
教授 畑里増郁
