カロニア群島神話録『パックルルルカス神話』4章③「ショグルーとグゥワルー」より「カツオドリのはなし」まだ海と大地の仲が険悪だった頃の話
私の父のお祖父さんのそのお祖父さんのお祖父さんがこんな話を聞いたんだ。…
……
あるところに、マタロという青年がいた。
彼は海に入れば部族の誰よりも長く泳ぎ深く潜った。
また、陸にあれば誰よりも早く遠くまで駆け、
美しく澄んだ歌声と、優雅で力強い踊りが上手い男だった。
その姿もまた、たくましく美しかった。
その頃、グゥワルーとショグルーの仲はまだ険悪で、常にいがみ合っていた。
しかし二柱の女神は、マタロのことをいたく気に入っていた。
グゥワルーは、マタロが海を泳ぐと心地よい流れを作り、多くの魚を与えた。
ショグルーは、マタロが丘を駆けると爽やかな風を送り、たくさんの花を咲かせたのだった。
ある時、二柱の女神はまたしても激しく争い始めた。
争いの原因はマタロだった。
トーブは面白そうに腕を組んで見つめ、パックルルは少し心配そうに、ピは興味本位で空から眺めていた。
ショグルーが言った。
「マタロは大地を駆けるのを愛している。あの者は私のものだ」
グゥワルーが返す。
「あの者は、海に入ることを何よりも楽しんでいる。私のものだ」二柱は遂にマタロの前に立ち、問うた。
「お前は海と大地、どちらを愛するのか」
マタロは困惑し、悲しそうに答えた。
「私は大地を踏みしめる感覚も、海に包まれる安心も、とても愛している。
どちらかを選ぶことはできないし、選びたくもない」
その言葉を聞いた瞬間、二柱の女神は再び激しく争い始めた。
波は陸の木々をなぎ倒し、土砂はサンゴたちを埋めた。
島は二人の怒りで大きく揺れた。
マタロは心を痛め、その晩、磯の波が打ち寄せる岩の上に立った。
そして静かに言った。「私は大地も海も愛している。
大地と海が、お互いを傷つけるのなら……
私はどちらのものにもならない」そう言い残し、マタロは岩に自らの頭を打ちつけ、事切れた。
トーブは苦い顔をし、パックルルは涙を流して哀悼のダンスを踊った 。
ショグルーとグゥワルーは、ようやく我に返った。
自らの争いの無益さに心を痛め、これからは無闇にお互いを傷つけるのはやめようと約束した。
パックルルはマタロを哀れに思い、鳥と風の神ピに頼んだ。
ピはパックルルの目を見ると頷き、マタロの魂を召し上げ、海と陸を行き来する鳥、カツオドリに変えたという。
今でもカツオドリのことを、島民はマタロ・ピと呼ぶ。
凪の時間や、潮の変わり目に白い鳥が優雅に海と陸の間を飛ぶのを見ると、
人々は静かに祈る。
「あれはマタロ・ピだ。大地と海が和解した証だ」と。
カロニア群島神話録:解説
いくつかある、ショグルーとグゥワルーの和解譚の中でも、特に切なく美しい一編である。
マタロの死は単なる悲劇ではなく、二柱の女神に「無益な争い」を気づかせるための、 静かな生贄の物語と言える。
パックルルが哀悼のダンスを踊り、ピが魂を鳥に変える流れは、 「踊りと風が、失われたものを優しく繋ぐ」というこの神話らしい優しさに満ちている。今もカツオドリが海と陸を行き来する姿は、
島民にとって「和解の証」であり、「争ってはいけない」という戒めでもある。
根津曽大学
プセポリネシア研究室
教授 畑里増郁
