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AIを使っても"臨床推論"は代替できないと思う話【理学療法士の視点から】

これまでSOAP記録へのAI活用・使う上での注意点についてお話ししてきました。今回は少し視点を変えて、「そもそもAIは臨床推論を代替できるのか」 というテーマで、自分なりの考えをまとめます。

結論から言います

AIは臨床推論を代替できない。

そしてこれは、「AIがまだ技術的に未熟だから」という話ではありません。臨床推論という行為の本質にかかわる話です。

そもそも「臨床推論」とは何か

臨床推論とは、患者さんから得た情報をもとに、

  • 何が起きているのか(問題の特定)

  • なぜそうなっているのか(原因の考察)

  • 次に何をすべきか(介入の判断)

を考えるプロセスです。

理学療法士の現場で言えば、こういった場面です。

歩行観察をしながら「この体幹の側屈は中殿筋の筋力低下によるものか、疼痛回避による代償なのか、それとも対側股関節の問題が影響しているのか」と鑑別していく。

ROMやMMTの数値と動作観察を組み合わせて「問題の本質はどこにあるか」を絞り込んでいく。

今日の歩き方が昨日と微妙に違うことに気づき、介入の優先順位をその場で変える。

これらはすべて、目の前の患者さんをリアルタイムで観察・評価しながら、これまでの経験と知識を統合して判断するプロセスです。教科書に書いてある答えを引き出す作業ではなく、患者さんという「個」に向き合いながら考え続けることです。

AIが得意なこと・根本的にできないこと

AIが得意なことは確かにあります。これはこれまでの記事でも書いてきた通りです。

  • 評価結果の箇条書きをSOAP形式に整理する

  • Assessmentの言語化を補助する

  • 難しい文章をわかりやすく言い換える

  • 勉強会資料の構成を作る

こういった「情報を整理して文章にする」作業との相性は良い。

一方で、AIには根本的にできないことがあります。

AIは「今この瞬間の患者さん」を見ていない

これが、AIの最も本質的な限界です。

どれだけ精度の高いAIでも、入力された情報の中からしか答えを生成できません。 患者さんの表情・歩行のわずかな変化・「なんとなくいつもと違う」という感覚——こういった情報は、テキストに変換した時点で多くが失われます。

例えば、同じ数値の患者さんが2人いたとします。

右膝伸展ROM:−15°
右大腿四頭筋MMT:3
疼痛NRS:5/10

しかし、

  • Aさん:昨日より表情が明るく、自分から動こうとしている。「今日は調子いいです」と話している

  • Bさん:昨日より顔色が悪く、動作がぎこちない。発語も少ない

この2人への臨床判断は、まったく異なるはずです。

Aさんには少し負荷を上げた練習を試みる。Bさんにはまず体調確認・バイタルチェックを行い、今日の介入量を落とすことを検討する——こういった判断は、数値だけでは導き出せません。

数値は同じでも、臨床判断は変わる。これが医療の現場です。

「それっぽい解釈」が危険な理由

AIが生成する文章は非常に自然で、読んでいると「正しそう」に見えます。これがある意味で最も危険な特性です。

例えば、以下のようなAssessmentをAIが出したとします。

「中殿筋筋力低下によりトレンデレンブルグ歩行を呈しており、立脚安定性の低下が転倒リスクに関与していると考えられる」

一見すると、しっかりとした考察に見えます。ですが実際には、

  • 疼痛回避で体幹を患側に側屈させているだけかもしれない

  • 対側股関節の問題に対する代償動作かもしれない

  • 足関節背屈制限が立脚期の骨盤コントロールに影響しているかもしれない

  • 小脳失調や感覚障害が関与しているかもしれない

AIは入力された情報から「もっともらしい解釈」を生成しているだけです。その患者さんの全体像を把握して答えを出しているわけではない。

「それっぽい文章」をそのまま記録に使い、そのまま治療方針に反映してしまうことは、患者さんに直接影響するリスクになり得ます。

ハルシネーション(もっともらしい誤情報の生成)の問題は、単に「数値が間違う」だけでなく、「臨床的に間違った解釈が、正しそうに見える文章として出力される」 という形でも現れます。これは医療職として特に意識しておく必要があります。

SOAP記録を書くこと自体が「臨床推論の訓練」

もうひとつ、大切なことをお伝えしたいと思います。

SOAP記録を書く行為は、単なる事務作業ではありません。

  • Sで患者さんの言葉を整理し

  • Oで評価結果を客観的に並べ

  • Aで「なぜこうなっているのか」を言語化し

  • Pで「だからこうする」を決める

このプロセス全体が、臨床推論を言語として外に出す訓練です。

特に新人PTの時期は、Assessmentが浅くて先輩に指摘される、Planが的外れで「なぜそれをするの?」と問われる——そういった経験の積み重ねが、臨床推論の力を育てます。うまく書けないことにも意味があります。

ここをAIに「整理してもらう」「考えてもらう」習慣がつくと、思考プロセスそのものが育たなくなるリスクがあります。

AIは「自分の考えを整理する補助」として使うもの。「考えること」そのものは、自分がやらなければいけない。

これは、AIを使う上で絶対に忘れてはいけない前提だと思っています。

では、AIとどう向き合えばいいか

「AIを使わない」という選択肢は、現実的ではないと思っています。記録の効率化という点では、うまく活用することに意味があります。

ただ、何をAIに任せ、何は自分がやるか の軸を明確に持っておくことが重要です。

AIに任せていいこと

  • 評価結果の箇条書きをSOAP形式に整理する

  • Assessmentの文章表現を整える・言い換える

  • 記録の構成・流れの確認

  • 難しい用語・文章の噛み砕き

自分がやらなければいけないこと

  • 目の前の患者さんを直接観察・評価する

  • 「なぜそうなっているのか」を自分の頭で考える

  • Assessmentの最終的な解釈・判断を下す

  • 記録の内容すべてに責任を持つ

AIはあくまで「道具」です。どんなに優秀な道具でも、使う人間の臨床判断を代わりに担うことはできません。そして、その判断に責任を持てるのも、目の前の患者さんを実際に見た人間だけです。

まとめ

AIは臨床推論を代替できない。それは技術の問題ではなく、臨床推論という行為の本質にかかわる話です。

患者さんを直接見て・感じて・考えて・判断する——このプロセスは、どれだけAIが進化しても、医療職である人間にしかできないことだと思っています。

だからこそ、AIを使うことと、臨床推論を自分で鍛えることは矛盾しない。

「AIに整理してもらいながら、自分の頭で考える習慣を守る」

これが、AIと共存する医療職のあり方として、今の自分が大切にしていることです。

今後は、SOAP記録で実際に使えるプロンプト集などをまとめていく予定です。すぐに使える内容にするので、興味がある方はフォローしておいていただけると嬉しいです。


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