リハビリで大切なのは筋力だけじゃない|PTが現場で実感していること
今回は「リハビリで本当に大切なこと」についてお話しします。「筋力をつければ歩ける」「筋トレすれば元に戻る」と思われがちですが、現場で見ていると、実はそれだけでは足りないんです。今回はその話をまとめます。
はじめに
ご家族や患者さんから、
「とにかく筋トレを頑張ります」
「筋力さえつけば歩けるようになりますよね?」
「もっと負荷をかけてください」
と言われることがよくあります。
その気持ち、すごくわかります。 「弱くなったから動けない」と感じたら、「鍛えれば戻る」と思うのは自然ですよね。
ただ、現場で何百人もリハビリを担当してきて感じるのは、
「筋力をつければ動けるようになる、というほど単純ではない」
ということです。
もちろん筋力はかなり大事な要素です。 でも、リハビリで大事なのは、それだけではありません。
今回は、筋力以外にPTが大切にしているポイントを、わかりやすくまとめます。
結論:リハビリで大事なのは「5つの要素のバランス」
最初に結論からお話しします。
何を目標にするかも重要ですが、リハビリで動けるようになるためには、
① 筋力
② 関節の柔らかさ
③ バランス能力
④ 感覚(特に足の裏や手の感覚)
⑤ 心理面(自信・不安・意欲)
この5つのバランスが大事です。
筋力はその中の1つでしかなくて、他の4つが整っていないと、
筋力があっても歩けない
立てるけど不安で踏み出せない
動けるけど怖くて動かない
ということが普通に起こります。
ひとつずつ説明していきます。
① 筋力:もちろん大事、でも「鍛えれば動ける」わけではない
まず筋力について。
筋力は確かに、動くために必要な要素です。
特に、
太もも前面(大腿四頭筋)
お尻の横(中殿筋)
ふくらはぎ(下腿三頭筋)
体幹
このあたりが弱くなると、立つ・歩くが難しくなります。
ただし、ここが落とし穴です。
筋力テストで「数値が良くなった」としても、
「日常生活で使えるかどうか」は別の話
なんです。
例えば、ベッドで寝た状態で「足を上げる力」が強くなっても、立って歩くときにその筋肉がうまく使えるとは限りません。
「持っている筋力」と「使える筋力」は違うんです。
なのでPTは、筋トレだけでなく、
立ち上がりの中で筋肉を使う練習
歩きながら筋肉を使う練習
動作の中で筋肉を発揮する練習
を組み合わせていきます。
「動きの中で使える筋力」を育てることが、本当の意味でのリハビリです。
② 関節の柔らかさ:硬いと、筋力があっても動けない
意外と見落とされがちなのが、関節の柔らかさ(可動域)です。
例えば、
足首が硬くて、つま先が上がらない
股関節が硬くて、足が前に出ない
膝が伸びきらず、まっすぐ立てない
こういう状態だと、いくら筋力があっても動作はうまくできません。
特に高齢者の方や、長期間ベッドで安静にしていた方は、関節が固まりやすいです。
「関節が硬い → 動かしにくい → 動かさない → さらに硬くなる」
という悪循環が起こります。
なのでリハビリでは、
ストレッチ
関節をゆっくり動かす運動
マッサージや温熱
なども取り入れて、関節の柔らかさを保ちます。
筋力アップとセットで、柔らかさの維持も同じくらい大事です。
③ バランス能力:転ばずに動くために必要
筋力があっても、バランスが取れなければ転んでしまいます。
バランス能力は、
立っているときに体を真ん中に保つ力
ふらついたときに踏ん張る力
物を取ろうとして体を傾けても倒れない力
歩いているときに左右に揺れない力
など、いろんな場面で必要になります。
これは筋力とは別の能力で、
神経系の働き
体の傾きを感じる感覚
視覚的な情報処理
反応のスピード
など、複数の要素が関わっています。
なので、
「筋力はあるのに、何もないところでつまずく」
「立てるけど、すぐにふらつく」
という方は、筋力だけでなくバランス機能の低下が背景にあることが多いです。
リハビリでは、
片足立ち
重心移動の練習
ボールを使った運動
不安定な床面での練習
など、バランス重視の練習も組み合わせていきます。
④ 感覚:足の裏が感じられないと、安定して立てない
ここはあまり知られていない部分です。
実は、動くためには「感覚」がかなり重要です。
特に、
足の裏がどう床に着いているか
関節がどの角度になっているか
体がどっちに傾いているか
という感覚情報が、動作の安定性を支えています。
例えば、糖尿病の方や脳卒中後の方は、足の裏の感覚が鈍くなることがあります。
そうすると、
床の凹凸に気づきにくい
体重がどこにかかっているかわからない
結果として、ふらつきやすくなる
ということが起きます。
筋力やバランスの練習をする前に、
足の裏を刺激する
足首をいろんな方向に動かす
目を閉じて感覚を意識する
など、感覚を整える練習が必要になることもあります。
「動けない原因が、感覚にある」というケースは、現場でも本当によくあります。
⑤ 心理面:「動ける体」と「動こうとする気持ち」は別物
これが最後の、そして個人的に一番大事だと感じている要素です。
リハビリをしていると、
「体は動けるはずなのに、本人が動こうとしない」
「立てるのに、立ち上がるのが怖いと言う」
「歩けるはずなのに、歩く意欲がない」
という場面に、本当によく出会います。
これは、
一度転んだ経験がある
痛みへの不安がある
失敗するのが怖い
周りに迷惑をかけたくない
そもそも目標が見えない
など、心理的な要因が関わっています。
特に転倒後の不安は、想像以上に大きいです。
「転んでから、歩くのが怖くなった」という方は本当に多くて、その不安があると、
動きが慎重になりすぎる
体が硬くなる
かえって転びやすくなる
という悪循環が起こります。
なのでリハビリでは、
「できた」という成功体験を積み重ねる
安全な環境で少しずつチャレンジする
目標を本人と一緒に決める
小さな変化を一緒に喜ぶ
ということを大切にしています。
気持ちが動かなければ、体も動きません。
ここはどんなに筋力をつけても解決できない、心理面の積み重ねが必要な部分です。
なぜ「筋力だけ」では足りないのか
ここまで5つの要素を見てきました。
整理すると、リハビリで動けるようになるには、
筋力(動くためのエンジン)
柔らかさ(動かすための土台)
バランス(安定して動くための調整力)
感覚(体の状態を知るためのセンサー)
心理面(動こうとする意志)
これらすべてが複雑に組み合わさって初めて成り立ちます。
車に例えると、
筋力 = エンジンの馬力
柔らかさ = 部品の動きやすさ
バランス = ハンドリング
感覚 = センサー類
心理面 = ドライバーの意志
馬力だけ強くても、ハンドルが効かなかったり、ドライバーが運転する気がなかったら、車は動きません。
リハビリも同じで、全部のバランスを整えることが大事なんです。
家族にお願いしたいこと
ご家族の関わり方が、この5つの要素すべてに影響します。
特に大事だと感じるのは、
① 「筋トレだけ」を勧めない
「もっと運動しないと」と筋力ばかりを強調すると、本人の不安や意欲が置き去りになります。
② 過介助をしない
「危ないから」と何でも手伝うと、筋力・バランス・感覚・自信、すべてが失われていきます。
③ 小さな変化を一緒に喜ぶ
「今日は少し背筋が伸びてたね」「歩くのが安定してきたね」など、小さな変化に気づいて声をかけることが、本人の心理面に大きく影響します。
④ 焦らない、比べない
「あの人はもう歩いてるのに」と比較すると、本人の意欲が下がります。リハビリのペースは人それぞれです。
まとめ
「リハビリで大切なのは筋力だけじゃない」というテーマでお話ししてきました。
整理すると、
リハビリで動けるようになるには、筋力・柔らかさ・バランス・感覚・心理面の5つが必要
「持っている筋力」と「使える筋力」は別物
関節が硬いと、筋力があっても動けない
バランス・感覚は筋力とは別の能力
心理面(不安・意欲)が動作にかなり影響する
全部のバランスが整って初めて、動ける体になる
リハビリで結果を出すには、「筋トレを頑張る」より「自分に足りない要素を知る」ことが大事です。
それがわかれば、専門職と一緒に効率的なリハビリができます。
ご本人やご家族で、「うちはどの要素が弱いんだろう?」と気になったら、ぜひ理学療法士や主治医に相談してみてください。
このnoteでは、リハビリ・介護予防・医療サービスについて、現場目線でわかりやすく発信しています。気になるテーマがあれば、他の記事も読んでみてもらえると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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