ヒエロニムス・ボスの作品を巡って 6

ブリュージュの最後の審判
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:The_Last_Judgment_by_Hieronymus_Bosch_(Bruges)
99x117,5cm バルティックオーク材に油絵
この作品、最初にブリュージュ(冒頭イメージはブリュージュの風景)のダイバー街のグルーニング美術館(Groeningemuseum)でみたときは、ガラス板で覆われていて反射がきついせいもありましたが、なによりクリーニングしてなかったので真っ黒で、なにがなんだか全くわかりませんでした。
絵葉書を買って、え、こんな絵だったの、と半信半疑だったという、ひどい状態でした。
あとで買ったチノッティのカタログ・レゾネでは、内部が工房作、外側が真作という、まことに奇妙な評価でした。普通は内側の中心部を親方が仕上げ、外側や背景や周辺部を弟子にまかせるというのが普通なのにね。
ブリュージュという街が気に入って、何度も訪れたこともあるし、この作品自体が手頃な大きさで、欧州の特別展に貸し出されることが多く、他の街で開催された特別展の機会も含めて、何度も何度も観賞いたしました。3度目ぐらいには、かなりクリーニングされていて、鮮やかな色彩が蘇っていた。
2005年にブリュッセルのBOZARTの特別展示でみたときは、こういう感想を持ちました。
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伝ボスの「最後の審判」もきていた。なかなかきれいな作品で、みどころも多いが惜しいかな中心部分のキリスト、天使などが弱いとおもう。ただ、これは、絵のサイズを考慮する必要があるだろう。快楽の園のような大きな絵のモチーフを小さな祭壇画につめこむとかなり無理がでてくるということもあると思う。大きな祭壇画をもとに、「類似のものを」という個人の需要に対してアトリエで制作されたものではないか?
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その後、なぜか評価が上がっていて、現在のBRCPのカタログ・レゾネでは真跡の中に入っておりますね。 昔の評価では、「パスティーシュ」という否定的な評価が多かったんですけどね。樹輪年代法では、基底材の伐採年代は1478年という妥当な年代なので、合格なんですね。
当方としては、どうなんですかね、ちょっと繊細すぎる線で、細密画っぽい感じもします。右翼の地獄がやけに閑散としていますね。プラドの「快楽の園」やリスボンの「聖アントニウスの誘惑」、プラドの「三賢王の礼拝」の画家と同じ人だとは思えません。

ただ、チノッティもいうように外側の非常に傷んでいる「茨の冠をつけられるキリスト」はその優れた力のある筆力から画家本人の作品のようにみえます。ただし本当に奇妙なことですね。外側は親方の作で内側が違う、このようなケースは2人がよほど親しくお互いを認め合ってないと難しいでしょう。クエンティン・マーティエスとヨアヒム・パティニール、リューベンスとヤン・ブリューゲルのようにね。
そうなると、収集家・美術批評家だったフェリペ・デ・ゲヴァラ(1500?- 1563)が著書に書いた「ボス本人より繊細な技術をもつ助手」、近年、明らかになったヒエロニムス・ボスの甥で、ボスのキャリアの最盛期に10年も同居していた甥のパウルス・ウィジナントPaulus Wijnants(1470/75 -1543/46)あたりの作品なんじゃないかと思っています。
この作品、皮肉なことに、ヴェネチアのグリマーニ枢機卿のコレクションだったことがほぼ確実に実証できるようです。従来グリマーニ枢機卿コレクションといわれてきたヴェネチアにある3作品が「ボスの真作である」しかし「グリマーニ枢機卿コレクションなのかは怪しい」という状況なのと正反対なんですね。というのも、グリマーニ枢機卿の姪のPaolaや甥のMarino Grimani枢機卿のもとにあったのが、ほぼ確からしいのですから。

また、この作品、1520年ごろにヴェネチアにあったのは、ほとんど確実です。アメリカの Timken Museum of Art美術館にあるイタリア人画家サヴォルドの「聖アントニウスの苦難」のあちこちに、この作品の魔物と同じものが引用されています。上に比較イメージをおいてみますね。左がサヴォルド右がブリュージュのボス作品の部分図です。サヴォルドは1520年ごろにヴェネチアにいましたからね。このことを指摘した米国人学者の論文は1974年40年以上も前に出ていたのに、何十年も無視されておりました。米国クリーブランド大学の人の論文です。
Michael A. Jacobsen, ≪Savoldo and Northern Art≫, The Art Bulletin, LVI, 1974, p. 530-534
こういう無視というのは結構あるんですね。このTimken Museum of Artはサンディエゴにあるんですが、2025年に来日するサンディエゴ美術館とは別です。
また、最近、発見されたボス派の素描もこの作品と関係が深いものです。
File:Circle of Jheronimus Bosch 001.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Circle_of_Jheronimus_Bosch_001.jpg
最近わりとクローズアップされたせいか、わりといろんなところで、この作品の一部が利用されとりあげられることも多くなったようです。確かにオリジナリティはあるので、もっと知られて良い作品だと思っております。

イリヤ・エーレンベルグのヨーロッパ破壊大虐殺小説「トラストDE」の翻訳書の表紙にもなっていましたね。
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