それは歯医者じゃない
人家もまばらなアラブの辺境地帯で銀歯が取れてしまった時の話。
帰国予定は何週間も先だ。都会に出るのもそのときだ。
どうしよう。
ということで、近くの村で歯医者があるかどうか尋ねてみた。
すると、「デンティストいるよ」とのこと。
さっそく向かってみたが、ここが歯医者と言われた家の前まで来て、踏みとどまった。泥壁の普通の家だった。
ここに本当に歯医者の設備があるのだろうか。
心配なので、まずは口コミを仕入れることにした。
村に一軒しかない歯医者だけあって、口コミはすぐに集まった。それで、気づいたことには、どうやら抜歯しかやっていなさそう…。
村人の口コミはすべて「一瞬で抜いてくれるよ。おれはこことここを抜いてもらった」の類型だったのだ。
銀歯とかレジンとか絶対扱ってないだろう。それはもう歯医者じゃない。抜歯屋だ。
……という顛末をヨーロッパ人のスタッフに話したら、「日本人なのにメタルを入れてるの?」と驚かれてしまった。いや、日本人銀歯多いと思うが?!
彼女が言うには、メタルは電磁波と干渉するから良くないとかなんとか。「だから、私はセラミックよ」と言って見せてくれた奥歯がきれいだった。本物の歯と見分けがつかない。あ、いいなぁ、セラミック。
というわけで、日本に帰ってさっそく歯医者にいって、セラミックにできないかどうか尋ねてみた。しかし、先生は「これくらいなら今はレジンでもいけますよ。セラミックは価格設定高くなりますけど、レジンなら安いですし」と言う。
そんなにひもじそうに見えたのか?
とりあえず、レジンとセラミック両方の長所と欠点を聞いてみたら、…セラミックは焼きものなので、割れるときは一気に割れる。レジンならポロポロと徐々に崩壊していく…ということだったので、心は決まった。
レジンにしよう。
安いからではない。辺境でセラミックが割れたら銀歯よりも困ると思ったからだ。銀歯なら取れた場所にはめ込んでおくこともできるが、セラミックは割れてしまうのだから無理だろう。徐々に崩壊するレジンならば、崩壊の予兆を感じ取ってから行動を起こしても、崩壊の前に歯医者に到達することが可能だと考えたのだ。
というか、高いほうの治療を勧めない先生が良心的過ぎて感動した。
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