【ダウン症ピッピ】いつもの場所に座って
いつもの場所に座って、今日も娘は出発して行った。
今朝はニコニコ、昨日は涙目、その前はグズグズ──
毎朝ちがう表情で、バスに乗り込んでいく。
ダウン症の娘は、特別支援学校2年生。
毎朝8時05分集合の通学バスに乗って大好きな学校へと出発する。
窓際のいつもの席に座り、窓の外に立つ私とのやり取りを楽しむのが毎朝の日課だ。
かつては、乗りたくなくて泣きながら先生を困らせる日もあったけれど、ここ数日は意気揚々と自ら席へ向かうようになった。
バス停は、整形病院の広い駐車場。
そこに大きなスクールバスが停まり、朝の通勤時間には人々の視線も集まる。
けれど私たちは気にせず、キャッチボールをしている。
もちろん、野球ボールは存在しない。
私が握るのは「おにぎり」という名の見えないボール。
大谷翔平のように格好よく振りかぶり、娘へ向かって投げる。
娘はバスの中、私はバスの外。窓を隔ていても関係ない。
豪速球だからこそ、米粒がほろりとほどけないように、ギュッギュッと結んであるのは──母の愛情そのものだ。
娘も笑って投げ返す。
私はいつの間にか狙いを定めて当てに行くのを楽しんでいる。
命中したか?
娘はヒョイと逃げる。
投げる、逃げる。
投げる、逃げる。
投げる
そして──食べる。
「あむあむあむあむあむ~!」
「そんなにおにぎり投げてないよ」と、私は笑う。
ハートを投げたり、大きな岩を投げたり。手遊びをしたり、カマキリダンスをしたり、窓越しにタッチをしたり。
ほんの5分ほどの時間だけれど、私たち親子にとってはかけがえのない宝物。
はたからどう見られていても構わない。
私たち親子の愛のキャッチボールの時間。
ピエロになって笑われても、あなたとの小さな別れのひとときを楽しく過ごせれば──
母にとって、それが何よりの喜びであり、何よりの幸せなのです。


行ってらっしゃーい(笑)!
