悲恋物語じゃなかった「人魚姫」|Re:lithの原点
最終更新日: 2026年5月18日
本記事では、アンデルセン作『Den lille Havfrue(一般的邦題:人魚姫)』の物語構造や結末に踏み込んで解説しています。
あわせて、ポプラ社「世界名作ファンタジー にんぎょひめ」、永岡書店「世界名作アニメ絵本 にんぎょひめ」の内容にも触れています。
いずれも重要な展開を含みますので、未読の方はネタバレにご注意ください。
原作は青空文庫にて日本語訳が公開されています。先にそちらを読んでから本記事をお読みいただくのもおすすめです。
▶ 原初の記憶を辿る
最近、自分の感性の源流はどこにあったのかと考える機会があった。いくつか浮かぶ中で、原初の記憶にあたる「にんぎょひめ」について、今回はお話していこうと思う。
記憶している限り、私が初めて触れた物語は、世界名作ファンタジーの「にんぎょひめ」だ。初子だったので恐らく色々と与えられていただろうが、どういうわけか、他は殆ど記憶にない。
実母の話では、まだ文字を読めない2歳の私が、この本は完璧に暗唱していたそうだ。それだけ何度も読み聞かせをねだって、それに応えてくれていたのだろう。唯一、愛されていた時期もあったのかもしれないと思える記憶である。
▶ 原初の記憶を買い戻す
それもあってか、私はウン十年経った今でも、この本の表紙や中の絵をハッキリと覚えていた。
世界名作ファンタジーは、少なくとも3回大きなリニューアルが入っているそうだ。今回思い立って検索した際にも、他社製品と合わせてかなりのレパートリーが検索結果に並んだ。
「あぁ流石にどれか判らんかも……」と怯んだのも束の間、スクロールして視界に入った瞬間「これじゃん!!!」となり……うーん、人間の記憶ってすごい。
造形的な好みの土台が、現在も変わっていないことも要因かもしれない。幼女Re:lithがにんぎょひめを愛していた大きな理由の一つは「ほかのおひめさまよりおかおがかわいいから」だった。今見ても、やはり私の記憶にあるこのバージョンが一番可愛いと感じる。
ちなみに、ディズニーのアリエルも当時のディズニープリンセスの中で一番可愛いと思っていた。気付いたらアースラの魅力が解る年増になっていたが(うっさいわ)。
▶ 原初の記憶開封の儀
……というわけで、早速Amazonでポチってワクワクしながら到着を待ち、開封の儀を執り行った。

……他社製品が届いた。
私が求めていたのは古い中古の絵本ではなく、「思い出の品」だ。
めげずに、今度はメルカリで探して無事にゲット。

随分状態が良いなと思ったら、なんと第84刷、2017年産でした。ちなみに第1刷は1985年。絵本ってしゅごい……。
それにしても……うーん、懐かしい。
なんか色々と、チクチクするな。
▶ 思い出と読み比べる
せっかくなので読み比べてみた。
この二冊は、お話の骨組み自体は変わらないようだ。
永岡書店版は、文章が最低限で、話の本筋だけに集中しやすいシンプルな構成になっている。
ポプラ社版は、情景描写やキャラクターの背景情報が多く、頭の中でイメージを膨らませながら読み進めるような構成になっている。
唯一大きな違いだと感じたのは、彼女が良心と姉たちの犠牲の間で板挟みになったことに言及しているか否かだ。
ポプラ社版は、そこにハッキリと言及しているので、彼女が王子の寝室に忍び込んだことにも納得感がある。永岡書店版は、そういった葛藤があったことを、対象年齢の子供が汲み取るのは難しいかもしれない。
そしてもう一つ引っ掛かったのは、ラストシーンだ。私の記憶にある「にんぎょひめ」は、泡になって海の藻屑と消えるあの終末だ。
イラストは、暗い海に白い泡だけが浮かぶ物悲しいものだったと記憶していたが、今回入手した本では、随分と明るい印象のイラストだった。また、最後に神に掬い上げられるという展開も、私の記憶にはなかった。
ポプラ社版は第60刷で改訂したようだが、その際に追加されたのだろうか。けれどネットで調べた限りでは、世界名作ファンタジーの「にんぎょひめ」は、内容は大きく改訂されていないとあったので、単に私の記憶違いかもしれない。
いずれにせよ、幼女Re:lithも「死後に神に掬い上げられる」ことを「救い」だと感じていなかったことだけは確かだ。夢見がちな幼女だったが、妙に実利的な面も持ち合わせていたのだなと、今になって認識することとなった。
▶ 悲恋物語じゃなかった「人魚姫」
童話の絵本は、近年の風潮に合わせて最後に救いになるオチが付け足されたと語られがちで、確かに児童書全体の傾向としてはそういったこともあるとは思う。
ただ、「にんぎょひめ」に限って言えば、実は原作の方が明確に救いがある構造になっている。
原作では、人魚は300年という長寿な種族であるが、死ねば泡となり消滅する……という前提がある。
同時に、人間は短命だがその魂は永久に死なず、身体が死ぬと、魂は天国という美しい場所へ昇ることができる……というように、人間は「永遠の魂」を持つ存在として特別視される。
更に、人魚姫の王子への憧れは恋心のみではない。人間が人魚を心から愛して牧師の前で永遠の誓いを立てると、人魚に魂を分けることができる……という祖母の話が、人魚姫をより一層強く駆り立てるのだ。
そうして人魚姫は、王子の愛と永久の魂を手にするために、魔法使いの元へ向かう。
結果は、みなさんご存じの通り。
しかし原作の人魚姫は、泡になった後も消滅することなく、空気の精霊になる。
ここで活きてくるのが、「人魚は人間に愛されることでしか魂を得られない」という設定だ。
空気の精霊にも魂は無いのだが、人魚とは違って人間の目に見えない彼らは、300年の善行を積むことで魂を手にすることができる。
これは、王子の命と引き換えに生き延びる道を捨てて泡になった人魚姫が、その善行によって掬い上げられて空気の精霊になり、結果として魂を手にするルートを開拓した……という構造。つまり彼女は、恋に敗れて終わったのではなく、魂の獲得という新たな物語を歩み始めたのだ。
このように原作では、恋愛はあくまでも人生の中で経験する要素の一つにすぎない。一人の女性が生きて生涯を終えるまでの苦悩や葛藤、そして、心の在り方を描いた作品だったのだ。
▶ Re:lithが影響を受けた作品「にんぎょひめ」
私は今でもやっぱり、ポプラ社版「にんぎょひめ」が好みだと感じる。
善悪の所在を問いかけ、自ら選択する在り方が描かれている。
幼少の私はこの儚さを美しいと感じるだけだったが、現在の私は「自己犠牲は誰も幸せにしない」という持論で以って、これを「物語として美しい終わり方」だと感じている。
「好み」は変わっていないように見えて、「評価軸」は真逆と言ってもいいほど変わっているという構図が、面白い。
次は、私の世界が多層になった瞬間を、静かに辿ってみたい。
原作「人魚姫」(アンデルセン)は青空文庫にて日本語訳版が無料で読めます。訳文はかなり古風ですが、気になる方はぜひ。
▶ 青空文庫「人魚の姫」
当記事にコングラボードを
🙇 頂きました 🙇

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【 Re:lith Information 】
例えば世界はこんなふうにも捉えられる――
その視差を描く音楽。
Re:lith(リリス/りりす)は、北海道を拠点に活動する日本の音楽家・作詞家・クリエイティブディレクター。独自概念「心理詩(Psychological Lyricism)」を提唱する心理詩アーティストとして活動している。
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