安倍元首相銃撃事件第10回公判傍聴記(第1回被告人質問)/2025.11.20
昨日、2025年11月20日の奈良地裁での山上徹也被告の第10回公判を傍聴することができたのでここに記録します。
__________________________________
昨日は、山上被告が自らの言葉で事件や生い立ちなどについて語る「被告人質問」が始まる重要な公判だった。
裁判初日(10月28日)一般傍聴希望者は傍聴席32席に対し727人が並び、倍率22.7倍。昨日は傍聴席33席に対して318人、抽選倍率は約9.6倍。初日の注目度より下がるが依然地方裁判所としては異例の倍率だった。

__________________________________
山上被告の様子は報道でもある通り、伸びた髪を後ろで結び、事件時の印象とは異なる風貌だった。深い疲弊と諦め、哀しみを宿すかのような暗く静かな眼差しが印象的だった。
着席した山上被告を4人の警護官が傍聴席に背を向けるかたちで囲み、傍聴席から直接表情が見えにくいようにしていた。法廷があまり大きくなく、被告人と傍聴者が約2メートル程度と至近距離のため被告人の精神面などに配慮した措置のように思われた。
被告人と傍聴席は防犯上の配慮からアクリルパネルで区切られていたのは報道にある通りだった。荷物検査、ボディーチェック、法廷の持ち込みはノートのみ、筆記具は裁判所から貸与。奈良地裁は本公判中、他のすべての裁判を停止、本公判に厳重警護で集中しているよう。
公判は13時10分開始、2回の休憩を挟んで17時頃終了。前半は証人尋問、書証の読み上げなど、後半は被告人質問に当てられた。
__________________________________
証人尋問に全国霊感商法対策弁護士連絡会で旧統一教会員の脱会サポートにあたり、元信者でもある弁護士・神谷慎一氏が出廷した。
質問では安倍晋三元首相が旧統一教会の友好団体「天宙平和連合(UPF)」に送ったビデオメッセージ(2021年9月)についての宗教2世の受け止めなどについて語った。
「ビデオメッセージは、社会的に影響が大きい有力な政治家が自らの言葉で直接顔をさらして旧統一教会総裁・韓鶴子氏への敬意を表するものであり、それまでのちょっとした祝電を文書で送るのとは一線を画するもので宗教二世たちにとって衝撃は大きく、絶望を与えるものだった」
「有力な政治家がメッセージを送ることは、国家が同会に外向きの信用を与える。安倍元首相までもがそれをするのかと弁護士としても衝撃を受けた」と宗教二世、弁護士、両立場から当該ビデオメッセージの影響の大きさを訴えた。
本証言は山上被告が旧統一教会とは「直接的な」関係をもたない安倍元首相を殺害の対象としたことに関する量刑上の裁判官と裁判員の心証を左右するものになるだろう。
事件については、神谷弁護士の知る宗教2世4人程度「何か重大なことが起こると思っていた」「山上さんのようにいつか誰かがこのようなことをするのではと思っていた」「あれは自分ではないかと山上被告に自分を投影した」「山上がしなければ自分がやっていた」と語るものがいたという。
上記の発言に関しては裁判長から具体的に発言した人数、発言が事件後か前か詳細確認があった。(メモが不確かだが上記発言は事件前後の両方であったとの確認があったと思う)
証人(神谷弁護士)が脱退に成功したのはどうして?「両親や親せきの協力のおかげ。アパートに立てこもって協会との交流を絶った」
「山上被告の母親のように深く長く入信している方は脱退は困難。信者の方にも濃淡がある」

__________________________________
山上被告と4歳年下の妹とのメールのやり取りの書証読み上げの最中、山上被告が頭を抱えてうつ向き続ける様子が見られた。(眼鏡をはずし涙をぬぐっていたようにも)
被告人質問では「母親の入信で家庭崩壊が始まるのは自分が中2、妹は小学生だったから一番傷ついていたのは妹なんじゃないかと。自分にできることはなかったかと思っている。」という語りからも、幼い妹を守りたかったという思いがとくに強いようにも感じた。
メールの内容は「冷蔵庫が壊れたが買うお金がない」「そのくらいの金もないのか」「〇〇くん(兄)はどうしてる?」「今月の支払いに困っている」母親の近況、韓国行きのこと等々。
前回の妹の裁判への出廷に関して「非常に辛い思いをさせた。自分の覚えていないことをよく覚えているなと。」
__________________________________
・心理テストでの被告人の発言
「うらやましいのは人間らしくいられること。自分は他人とはどこか違う。何か欠けているのではないか。」
__________________________________
・家宅捜索で見つかった資料として
中央大学法学部通信教育への願書、志望書
「将来、詐欺、カルト教団被害者への救済を目的として司法試験予備試験を通じて法曹を目指したい」と書いていた。
宅建やFPの資格を取得していたことは報道で知っていたが、法曹を目指そうとしていたことはこの日初めて知り驚いた。与えられた過酷な境遇の中で「役割」を果たそう、抜け出そうとさまざまな手段を考え実行し、足掻いていたのだろう。
_______________________________
1200万円の死亡保険の受取人は母と妹
自殺未遂から一年以上経っていれば、自殺が原因であっても死亡保険を受け取ることができる。
_________________________________
・自衛官時の自殺未遂の際の診断内容、心身の状況
平成17(2005)年2月15日自殺未遂(アルコールとベンジン50ml服用)
2月16日~3月23日まで入院
診断:スキゾパーソナリティー障害
無表情、覇気なし、口数少ない、「母親には会いたくない」と言う
両親に対する怒りの感情を隠しその発露が自害へ向かう
自殺方法は「『完全自殺マニュアル』に苦痛が少ない方法としてあったから」
「2005年1月から本格的に自殺を考えるようになった」
「それまでもずっと、表現したくてもできないくらいの強烈なみじめさを感じ続けていた」
「自分が押し付けられた役割に嫌気がさした。自殺をして保険金を残してやればその役割を果たし終えられるかと」
__________________________________
被告人質問の際は、太く落ち着いた、少し震えたような擦れたような声で一言一言絞り出すように、自らの思いや生い立ちなどについて語っていた。
丁寧な言葉使い、言葉選びに被告人の高い知性が垣間見られた。実際、父親は東大出身、伯父は弁護士、彼自身は奈良県立郡山高等学校卒。「どんな学校ですか」という問いに「公立の進学校にあたります」と自ら述べるように、調べると県内2位、偏差値67前後、難関大学進学者を多数輩出する進学校だった。裁判所の精神鑑定ではIQ113であったという。
自らの辛い生い立ちを語ることは、被告人に多大な精神的負担を与えているように見えた。母親の献金についての質疑の際、首近くに当てた左手が細かく震えている様子も見られた。
弁護人は質問中心配そうに彼の様子を見つめ、休憩前に「大丈夫か」(おそらくそう言ったように見えた)と声を掛ける様子も見られた。
被告人質問中、弁護人席前上座に座った古川雅朗弁護士が終始顔を紅潮させ口を一文字にぐっと結び被告人を心配そうに見つめていた様子が印象的だった。目に涙を溜め、2度ほど目立たぬように涙をぬぐったようにも見えた。
裁判官も神妙な面持ちだった。裁判員も涙する人もいた。被告人の過酷な生い立ちに傍聴人のおそらく半数くらいは涙していたように思う。
法廷はやるせない空気に充ちていたように感じた。
__________________________________
被告人質問冒頭「被害者への気持ちは後日に伺う」ということで「今日は被告人の生い立ちを時系列で追う」趣旨で質問が始まった。
弁護人「いま何歳ですか」
被告人「45歳です」
弁護人「ここまで生きていると思いましたか」
被告人「(やや間があいて)生きているべきではなかった。このよう結果になってしまい、たいへんご迷惑をおかけしているので…」
報道でも被告人の第一声として印象的に取り上げられているが、実際にその場に居合わせたものとしてこのやり取りにたいへん悲痛なものが感じ取られたことをとくに伝えたい。これは紙面やネット上の短い字面だけでは伝わらないものと思う。
被告人の雰囲気、声のトーン、答える間などから、深い反省の意を含みつつ、哀しみというか、絶望というか、心深くの慟哭というか_。聴く者の心を抉るような場面だった。
_________________________________
・父親について(被告人が小学校低学年頃自死)
仕事の休みの日、社宅の2階で兄と自分と遊んでくれた。子どもに暴力をふるうような人ではなかった。精神病棟で父を無視してしまったことがひとつ心残り。
・母親について
先日の母の証言を聞いて「相変わらずだな。非常にマイペースと言いますか。証人として裁判所に出廷したことについて「辛い立場に立たせてしまった。母の信仰からもわたしが事件を起こしたことについて責任を感じさせてしまっていると思う」
「基本的には悪い人ではないと思うが、統一教会との関係については理解できなかった。あれだけの多額の献金さえなければ…」
「母親にとっての兄の存在は?」「証言を聞いて思ったが、兄の病気のことが第一の問題なのだなと」
・兄について(2015年11月飛び降り自死)
「兄は明るく交友関係も広かった。」兄がリンパ管腫で右目が突出している風貌でいじめられたいたことについては?「家族としてはそんなに気にならなかったが…。自分ではどうにもできないし、それは自分の領分ではないと思っていた」
※山上被告の兄についての精神科医師の治療状況についての取り調べ書(書証調べ)
H24~H27.9.14
「母が統一教会にはまっているせいで大学に行けなくて精神的に病んでいる」
「自閉症スペクトラム障害」
「リンパ管腫で右目が突出し(視力も喪失)外見的な理由でいじめに合い、たいへんな不満を抱えていた」
「弟(山上被告)もしんどい思いを抱いている。誰からも守ってもらっていない」
「母親に暴力をふるって、死ね、死ね、と言っている」(自分が言っていたということか)
「1億3000万円の献金には驚いた」
_________________________________
・小学生時
「おとなしいほうだった」
・中学時
中2から母と旧統一教会との関係から家庭トラブルが始まる。
部活はバスケ部だった。
母の入信については、TVのワイドショーで教会に批判的な報道があったが、それを母に実際にぶつけることはできなかった。
・祖父について
「叔父は包丁を持ち出し母親殺して自分も死ぬと言っていたことも」
これについてどう思ったか?「自分ではどうしていいか分からなかった」
被告が中2、妹小学生時「祖父は家の鍵を変えて母を家に入れないようにして母親抜きでやっていくと言っていた。しかし、祖父は家事の心得もなく、母無しではうまく回っていかないかないだろうと思った」
「母が夜暗くなってドアの前で開けてくれと何度も言われて開けてしまったこともあった。それに対して祖父は怒り、お前も統一教会かと言われたこともあった」
「事業がうまくいかなくなった祖父から自分は田舎に帰るから出て行ってくれと土下座して言われた」「自分は中学生だったので経済的に自立することもまだできず、出ていくと言っても何時間も外を歩いたり、駅のホームで座ったりして」
「統一教会のトラブルが無ければ普通の人だった」
・母親の入信に関して
「それまでの人生観のようなものが根本的に変わってしまった」
「現実的には不可能だったかもしれないが、親戚に預けてもらったり、児童養護施設に入る手続きを(母親に)してくれれば良かったとも思う」
「母親に金を無心され金を渡してしまうことで、旧統一教会に間接的に自分は利用されているとも感じた」
・高校時
進学校できちんと勉強する環境が整った家庭の子が多かった。自分は周囲とは違うと感じていた。とても勉強に集中できる環境にはなかった。
部活は応援団に入部した。「応援団は上下関係が厳しく、自分の置かれた家庭環境が理不尽であったので忍耐力がつくかと思ったから」
野球部が強く甲子園に行って応援したことも。
高校は何度も辞めようと思っていたが…。
高校の卒業アルバム「将来の夢」に「石ころ」と書いたのは?「ろくなことがないだろうという意味で」
・高卒の頃(1999年6月)、母と韓国に2週間ほど行ったこと
「母の強い勧めを断れず行った」
「教団の教義をビデオで観てよくできてるなと思った」
楽しそうに教義を読み上げたり踊ったりする信者たちを見て「こんなに楽しそうな人もいるんだなと。自分の家とはまったく違うなと」
__________________________________
・大学進学について
母と兄(?)に勧められかなり高い大学への入学の勉強をしていたが、実際には母にはそんな経済的はなく、続かないことは分かり切ったことだった。
兄に「自分(山上被告)には自分のやりたいことをやる権利がある」と言われたが、お金はないものはないので…
・消防団への就職
なぜこの職業を選んだのか?
「応援団にも言えることだが、何かのために自分の存在を投げ打つものの最たるもののように当時の自分には思えたから」
・自衛隊入隊
2002年8月入隊
この頃母親の自己破産を知る。
「母は気位の高い人なのでショックだったろうと思った。献金をすれば神に救われると思っていたのだし、経済的にも宗教的にも挫折であったと思う」
_________________________________
定刻17時となり被告人質問は途中にて閉廷。
次回公判(第11回)は 2025年11月25日午後1時10分から奈良地裁にて。
年内複数回の公判を経て12月18日に論告求刑・最終弁論、2026年1月21日に判決が言い渡される予定。


__________________________________
事件の背景にある旧統一教会と政治家の問題、宗教二世の苦悩は未だ進行形です。
被告人の行為は許されるべきものではありませんが、彼をここまでの絶望に追い込んだものは何だったのか。私たちは今もこの国を覆い根を張り巡らす問題について、本件を通し考えなければならないと強く思うのです。
_________________________________
貴重な初公判傍聴記(松永洋介さま)は、こちら ↓ 。
法定刑の上限が無期懲役と重い銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法「発射罪」の成否が本件の重要な争点(これが成立するか否かで大きく量刑が変わる)。検察は山上被告の手製銃が同法上の「砲」にあたると主張していることに係り重要な内容を含みますので、ぜひお読みください。
わたしのポストもシェアしていただきました。
