揺れない天秤 第五話
製薬会社ってのは、日々研究に勤しむ学者たちの他、出来上がった薬を売り込む営業マン、製品の特許に関わる法律家など、意外に多くの人間で構成されているらしい。
俺たちは目的通り、製薬会社の前まで来たところで、まず第一に、その人数を収容する、建物のデカさに目を剥くことになった。
中央に建つ研究棟らしき巨大なビルに、連結して建つオフィスビル、事務棟らしき平屋など、その敷地内には複数の施設が並び、その入り口にはオートロックのセキュリティゲートが配置されている。
このセキュリティゲートは、門に併設された一部屋分の空きスペースで、イメージとしては空調や強風対策のため、よくスーパーなどで自動ドアと自動ドアの間に空きスペースが設けられている、あれに近い。その出入り口に認証システムがあるわけだ。
これは警備員に通達して開けさせるか、いわゆるIDがなければ通過できない仕様で、強引に突破しようものならすぐさまスペースの両側の扉にロックがかかり、警備員が飛んできてお縄になる、余人の侵入を許さない仕様ってことになる。
カメラも複数設置されていて、人と一緒に通過しようとしても、おそらくは顔認証システムが弾くのだろう。一見すると鉄壁のようにも見えるが、それも所詮は中央のコンピューター管理による代物には違いない。IDを登録する管理システムがあり、そこにネットワークが繋がっている以上、俺たちに障害とはなり得ない。
「レイラ、今俺たちの前にある製薬会社のセキュリティに干渉できるか?」
俺は敷地に入る前に、携帯端末を使ってレイラへと連絡を取っておく。使っているのはただのスマホだが、一応、持ち歩けるパソコンとして最低限のスペックはあるため、レイラと通話程度なら不可能ではない。
『ロックを解除します』
奥には警備員の立つスペースもあるが、IDを持っているフリだけして堂々と目の前を通りすぎていく。勿論呼び止められたりはしない。俺は一応スーツを着ているし、いくらジーンズにシャツなどという風体の坊主が一緒にいるとはいえ、ここは見る限り私服通勤の会社だ。ゲートが自動で開いた以上、関係者だと判断せざるを得ないのだ。
「案外普通に通り抜けられるもんっすねー」
「所詮は日本のセキュリティだからな」
キョロキョロするんじゃねえ、と軽く叱りつけながらゴンを振り返る。せっかく侵入できても、中で捕まっては意味がない。
というか、妙に落ち着いていると思ったら、、まだだらしなく鼻の下伸ばしてやがんのか、こいつは。
「おい、寝惚けてんじゃねえ」
「いって! いや、マジいてーっすよケイさん!」
ゴツッ、とゴンの額に裏拳を食らわし、まずはオフィスビルに向けて歩き出す。ゴンはそれに盛大に抗議をしてくるが、無視一択だ。いいから付いてこい、と手でジェスチャーだけ返してやる。
「いってー、、ケイさん、何怒ってるんすか? 最後に俺が手柄挙げたからっすか?」
「うるせえよ。調子に乗んじゃねえ」
俺は人の少ない通りを選び、足早に歩きながら、額を押さえるゴンにドスの利いた声を返してやる。苛ついている、と言われれば、苛ついていることは否定できないが、、こいつの能天気っぷりも大概だな。
ゴンは、自分の頭の後ろに手を回し、俺に付いてきながらどこか勝ち誇ったように、あの電柱の指摘で佐久間のねーちゃん完全に俺に惚れたっすよねー、とかボケた妄言を吐いている。言いながらも俺の様子を窺うようにしていて、こいつ、反省するどころか、人の反応を楽しんでやがるな。
ちっ、さすがにガキのお守りが過ぎたか、、俺はひとまず、一度気分を切り替えて、おい、とゴンを振り返る。すでに虎穴にいる身だ、少なくとも、警告だけは与えておかねばならない。
「言っておくが、佐久間は警察だ、完全に味方だとは思うんじゃねえぞ。俺たちはレイラを抱えてんだ。忘れるんじゃねえ」
腹芸がどうとか言っていたが、事実本音を隠すのはあいつも不得手ではない。それくらいできなきゃあの年齢で警視、キャリア組になんてなれはしない。
そんなあいつがレイラの能力を佐久間が知った時、、あいつがどんな反応をするかは、想像に難くない。あれだけ猟犬としての能力を日々磨いている佐久間だ、それこそ一見スルーしたように見せかけて、心を殺してでも、俺たちに牙を剥くだろう。ハッカーやクラッカーの一味と見なして。
身内だからといって手加減をするような奴でもないことは、さっき二度もゴンに取り調べモードを発動したことで、こいつ自身もわかっているはずだった。ゴンもそれを思い出したのか、一瞬だけ渋い顔をする。が、すぐにだらしない顔に戻りやがった。
「いや、きっと佐久間のねーちゃんだって好きな相手には甘くなるっす! 俺は佐久間のねーちゃんと愛の逃避行ってのも悪くねーと思うんす!」
いや、力説すんな。
最近の若者は恋愛しねえというが、恋愛に夢見すぎだろう。あいつはそんなに甘くねえぞ。
仕方ねえな、、これ以上は言うだけ無駄と見て、俺はひとまずオフィスビルの中へと入っていく。信頼あるセキュリティゲートが正門を守っているからか、ビルの入り口には自動ドアがあるだけだ。無防備なこった。
全面が真っ白の壁に、反射しそうなくらいに清潔に磨かれたタイル張りの床、ホテルのようなエントランスと、やたら小綺麗なオフィスビルの中では、受付の事務員が、またホテルのラウンジにいるような制服で一人座っている。俺はその女に、できるだけ柔らかな雰囲気を作って、申し訳ありませんが、と話しかけた。
「佐久間葵と面会の予定がある者ですが、佐久間はどちらの建物におられますか? 実は所属もよく存じませんで、可能なら、そちらもお伺いしたいのですが、、」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
事務員の女は、何やらパソコンを操作してから、申し訳なさそうに前に両手を揃えて頭を下げる。
「申し訳ありません、本日佐久間は出社しておりませんで、、よろしければ、私どもから佐久間へ言伝てを承りますが」
「いや、個人的な用件ですので、それは結構です。ちなみに佐久間はいつもはどちらへ?」
「佐久間は薬品研究部門の人間ですので、普段はそちらの研究棟にいるはずです」
受付のお嬢さんは、カウンターから身を乗り出し、中央の研究棟を掌で示しながら、にこやかに微笑みかけてくる。俺が、ありがとう、と礼を言って身を翻すと、席を立ってお辞儀までして見送ってくれた。なんつーか、さすが教育が行き届いている。必要な情報も余さず教えてくれた辺り、な。
佐久間葵は薬品研究部門で、普段は研究棟か、、ってことは宇津木もそこには出入りしていて、まず調べるべきはそこからってことだ。初見の建物が多い上、敷地が広大なので、レイラからの下情報があっても、こうした絞り込みは必須になってくる。
「なんか、、意外っすね」
と、ゴンが俺に、本当に意外なものでも見たように話しかけてくる。主語がないため、一体何について言っているのかすぐには判別はできない。俺は、何がだ、となるべく感情を込めずにゴンへと問いかけた。
「俺がこういう猿芝居ができることについてか、言葉遣いについてか、こういう場で怖じ気づいたりしねえことか、主語を言え」
「ええっと、、基本全部なんすけど、強いていうなら、ケイさん、あんな丁寧な言い回しもできたんすか、ってとこっすね」
ちっ、全部か。確かに、こいつにはあまり普通の社会人じみた部分は見せてねえからな。まして、普段の言葉遣いがこれだ、ああいった丁寧な言葉遣いについて、こいつが意外に思うのも無理もないのかもしれなかった。
とはいえ、それもまた、事情があってってやつだ。俺だってマサキに会うまでは、普通に社会人をしていたのだ。それがゴンへの回答だ。
「俺も、これでも最初っからこんな仕事をしてたわけじゃねえからな。社会人としての最低限の対応ぐらい身に付いてんだよ、、っと」
とーーその途中、エントランスを出たところで、何やら携帯が着信を伝えてくる。通話先は、、チッ、いよいよ面倒くせえ。
「ケイさん、スマホ鳴ってるっすよ?」
「わかってんだよ。くそっ、タイミングのわりい」
さすがに、エントランスの前は人が多すぎる。やむ無く俺は道を外れ、物陰に入ったところでようやくその通信に出てやる。
「何か用か? 今立て込んでんだよ」
『ほう? それがこの僕に8回もコールを待たせた理由かい?』
ーー男とも女ともつかない、中性的な声質。吟うように豊かな抑揚をもって紡ぎ出される言葉は、どこか楽しげで、まるでこれから獲物をたっぷりといたぶろうという、無邪気で残酷な猫を彷彿とさせた。
こいつはーー、こいつが、俺たちの所属する総合事務所の唯一の上役にして雇い主、青天目マサキだった。昨日は事務所に顔を出しに来なかったから平和だったが、通話先からゲームの音がしてこないということは、今日は普通に出社したらしい。今日はチョコレート菓子の土産を買ってやる気分でもねえし、帰社したくねえな。
ああ、、この際だから正直に言おう。俺はこいつが苦手だし、もっと言っちまえば、嫌いな部類の人間ですらあった。複数人で面を付き合わせての会話ならまだ耐えられるが、こんなふうにマンツーマンの応対などしたくもない。だが、それでも応じざるを得ない理由が俺にはある。
俺は、なるべくこちらの心情を悟られないよう、平易な声でそいつへと答えてやる。
「今朝メールしただろう? 今いるのは例の製薬会社だ。お前が昨日寝腐って仕事しなかった分働いてやってんだ、感謝しろ」
『ほほう、それは結構。ちょうど今日は僕もその製薬会社に一つ用があってね。あと3分22秒ほどその場で待っててくれないか?』
「ふっ、、」
っとと、、あぶねえ、思わず、ふっざけんじゃねえ、と本音が出るところだった。おそらくマサキには察知されただろうが、クスクスという笑い声が聞こえるだけで、そこに対する指摘はない。
『では、また後で。健闘を祈る』
そうこうしているうちに、それだけを告げて一方的に通話が切れやがった。3分ということは、あの通話は移動中の車内からか。あいつのことだ、製薬会社に入ってくる手段など無数にあるだろうから、来ると言っている以上は本当に来るつもりなんだろう。それも、秒単位で時間ぴったりに。
それと、製薬会社に、用がある、、その言葉の不吉さは、心当たりがありすぎて、何をするつもりなのかは想像も付かない。いずれにせよ、事務所に留まらせておけなかったのはこちらのミスだ。明日にはこの会社は解体します、とか言われても驚かないよう、心構えだけはしておくとする。受付のお嬢さんにも、心の中だけで先に謝っておいた。
「今の、もしかしてマサキさんっすか? ケイさん、マサキさんから電話が来るといつもすげえ顔してますよね」
「ほっとけ。あいつがいつもとんでもねえことばっかりしでかしやがるのが悪いんだろ」
あいつの素性からすれば些細な処断にすぎないのかもしれないが、庶民の俺たちから見れば、あいつの振る舞いは破壊神にも等しい。そういうやつなのだ、青天目マサキってやつは。
さて、ゴンと会話をするうち、件の三分という時刻はあっさりと過ぎ去り、わかりやすいよう、エントランス横の芝生に来ているというのに、どこか落ち着かない気持ちが湧いてくる。あと十秒、奴の姿は勿論、正門のゲートには車がやって来るような気配もない。
「一体どこから来るつもりなんだ、あの野郎、、」
製薬会社の規模からして、一応ヘリポートもあるはずだが、あんなもんが降りてくれば爆音が響くのですぐにわかる。空でも陸でもないとすると、あいつが現れるのはーー
「待たせたかな?」
「ーーー」
、、そういうことか。
いつの間に、と言うしかない。マサキは俺たちの背後、エントランスのある側からひょっこりと顔を出していた。それも、青のストライプの入った紺のスーツに革製の鞄などという、ちょっと小洒落た会社員といえば通じてしまいそうな格好で。
とはいえ、それは格好だけだ。中性的な顔立ちに小柄な体躯、染めたにしては妙に自然に感じさせる銀髪、色素の薄い瞳と、どう見ても未成年にしか思われない、下手をすれば男か女かの判別すら付かないこいつの外観でこんなスーツを着ても、何かのコスプレ、劇団衣装でしかない。
俺はそのコスプレ男の歩いてきた経路を見て、皮肉な笑みで出迎えてやる。
「お前な、、先に中にいたってことかよ?」
「おかしいかな? 製薬会社に用があると言ったろう? 僕は外からやって来るなどとは一言も言っていないよ」
くっそが、、だから性格悪いってんだよ。
マサキはうっすらと微笑んで小首を傾げ、その動きに合わせて絹糸のような銀髪がさらさらと音を立てて流れていく。美少年といって間違いない外見でこんな仕草をしたせいか、周囲にいる女どもの視線が一斉に集まってくる。無断で潜入している身で目立つんじゃねえ、と言いたいが、それもこいつの美貌の前では土台無理な話というものだ。
こいつは、気に入らないことに、この界隈では知らぬ者のない有名人でもある。女たちの何人かに、もしかして、という声が混じっているのがその証左だ。それくらい、世間にもその名が知られているのだ。
「すでにオフィスビルの中にいた、ってことっすか、、相変わらず神出鬼没っすね、マサキさん」
おはようございます、と遅れて事情を理解したゴンは、馬鹿丁寧にマサキに頭を下げている。俺とは違い、むしろ感心したような口調で、素直な奴だとつくづく思う。ちょっとは動じやがれ。
「ーーで、青天目グループの御曹司様が、こんなところに何の用があったってんだよ?」
青天目グループ、、それは、決して俺たちの総合事務所について差す言葉ではない。というか、本来であればマサキは俺たちとは関わることなどあり得ない素性の人間なのだ。
青天目グループってのは、要は世界を股にかける巨大コングロマリットの通称だ。そのトップの一人息子である青天目マサキは、自らも複数の部門の代表を務める辣腕の経営者でもあった。
血筋だけではない。こいつは海外留学もしていて、国内トップの大学を首席で卒業し、いくつかの博士号も持っているはずだ。それも、経営の片手間に取ったとか言うレベルの化け物っぷりを発揮して。
女たちに顔を知られているのは、その中でも銀髪美貌の御曹司として、よく雑誌なんかに特集が組まれているからだ。血筋も金も見た目も頭脳も、全てを兼ね備えた敏腕経営者は、次は一体何を望むのか、みたいなタイトルを引っ提げてな。
俺たちの事務所の所長、なんて肩書きは、こいつにとってはついでのついで、そのまたついでに付いた道楽の渾名みたいなものに過ぎない。むしろ、昨日は来ねえのかとか文句を言っちまったが、基本的に週四なんかで事務所に顔を出していて、それは逆に大丈夫なのかという話だ。
マサキは、事務所の所長としてはね、とか露骨に肩を竦めて俺に笑いかけてくる。
「せっかく所員たちが仕事を頑張ってるんだ、差し入れの一つや二つ持ってきてあげるのが上司の務めというものだろう?」
はい、とそう言ってマサキは俺とゴンに、金属のプレートのようなものを手渡してくる。表に返して見てみると、そこには撮った覚えのない自分の証明写真を貼り付けた、社員証なるものが表記されていた。
「おい、、まさか」
「そう、君たちはこの製薬会社の研究員として登録してあるから、事件解決までの間、これを使ってここへと自由に出入りするといい。これだけ巨大な施設だ、二人で探検するにしても時間がかかるだろう」
おいおい、、まさかこのためだけにここに来たのかよ。
つまりマサキは、どんな伝を使ってか、強引に俺とゴンをこの会社の一員としてねじ込んだ、ってことらしい。仕事が早いと言うか、相変わらずやっていることがおかしいが、それもどうにも建前じみているというか、簡単には納得しかねて、俺は、おい、とマサキに呼びかける。
「セキュリティの心配をしてるなら、レイラで突破しちまえばいいだろう? こんなのわざわざ作っても無駄じゃねえか?」
「いくら機械は騙せても、人間の目は騙せないよ。研究棟なんて機密の塊みたいな部署だ、部外者がそこにいて怪しまれないわけがない」
だから、ちゃんとネームプレートくらいは持っておきなよ、新人といえば通じるから、とマサキは言って、鞄から白衣を取り出して俺たちに押し付け、俺たちに背を向けて、外へ通じるセキュリティゲートへと歩き出していく。
、、そうか。俺が今朝連絡したのは、今日の活動予定として事件現場と宇津木の所属していた製薬会社に向かうという文言だけ。佐久間のさの字も出してはいない。にも関わらず、わざわざ研究員として登録してあるってのはつまり、佐久間葵の存在は勿論、所属も目的も知ってたってことか、、こいつ、色んな意味でタチ悪いな。
「おい、、」
「残念ながら、僕は君たちの調査には付き合えないんだ。僕はこれから探し物があってね。君たち、知らないかい?」
「探し物? なんだよ?」
本当かよ、と疑いたくすらなるが、残念そうに首を振り、マサキは本当に困っているように首をかしげる。知らないかい、と訊きながら、知らない前提でいるのか、マサキは足を止めることはなく、必然的に、俺もゴンも、マサキに付いて門の前まで行くことになる。
マサキはそこに着くまで、しばらく悩ましげに唸ったあと、そのゲートの手前でようやく一度立ち止まり、これだよ、といって指で小さな縦長の、輪っかみたいなものを形作る。
「USBメモリー、さ。古いデータで僕も記憶にないのだけど、事務所から紛失したと和希が嘆いていてね」
これから事務所の大掃除が始まりそうなんだ、と。大きなため息をつき、半ば以上本気で頭痛を押さえるように額を手で覆い、顔を引きつらせながら、答えも聞かずにマサキは門を出ていった。最後に、チョコレート菓子をありがとう、とついでとばかりに礼を言って。
なんつーか、、あいつもあいつで忙しい身だろうに、同情する気持ちがないではねえな。事務所の大掃除ってことは、和希がかき集めてきた段ボールの山を処理しなきゃならないってことでもある。あいつは唯一悩ましいことに、上背がないし体つきも貧弱で筋肉も付いていない。段ボールの運搬やら備品の移動やら、重労働に付き合わされて、さぞや難渋することだろう。
「所長を雑務に駆り出す所員ってのも、問題な気はするけどな、、」
和希のマイペースっぷりは止まるところを知らない、といったところか。マサキの素性を知らないわけでもあるまいに、怖いもの知らずというか、あいつも色んな意味でやべえ。ゴンも所々イカれてるし、ヤバイやつばっかかよ、この事務所。
なんとなく将来を悲観したくもなったが、生憎ここからはこちらもマンパワーが命の耐久勝負だ。俺は気分を切り替え、与えられたネームプレートをスーツのポケットにしまって白衣を纏い、ゴンに、行くぞ、と声をかける。
研究棟の建物はおよそ10階程度。この中で、俺たちは佐久間葵の当日の詳しい動きや、デジタルになっていない人々の情報、つまりは噂話や宇津木、佐久間両名への印象、他に関与していそうな人物など、事件の動機、原因に結び付きそうな情報を探り当てなければならない。
癪には障るが、マサキの言う通り、ここからは長丁場を覚悟する必要がある。そういう意味では、ネームプレートがあった方が動きやすいのもまた事実だった。
「何か出てくりゃいいけどな、、」
さて、、それも、希望的観測になりそうだがね。マサキが先に中にいたってことは。
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