見出し画像

造形はメロディー

空間装飾をフォルムから考える


私は、音楽をメロディーで聴いている。


歌詞も大切だと思う。


けれど、最初に身体が反応するのは、言葉の意味よりも、音の流れや旋律の方だ。


昔、音楽を作っていたことがある。


歌詞からメロディーを考える人もいれば、先にメロディーがあって、そこに言葉を乗せていく人もいる。


どちらが正しいという話ではない。


ただ、自分はメロディーから入る感覚の方が強かった。


空間装飾における造形も、少しそれに近い。


花やグリーンという素材から空間を考えるというより、先に形やフォルムの流れがある。


そのフォルムを立ち上げるために、花を使うこともある。


グリーンを使うこともある。


木や鉄、ウレタン、モルタルを使うこともある。


私にとって、造形はメロディーに近い。


今回は、空間装飾と造形について考えてみたい。



1. 造形とは、形をつくること


造形とは、言葉の通り、形をつくることだと思う。


岩をつくる。


樹形をつくる。


オブジェをつくる。


そうした立体物を制作することは、わかりやすい造形である。


けれど、私にとって造形は、それだけではない。


花やグリーンを使った空間装飾も、そこに奥行きや立体感をつくっているなら、それは造形である。


ただ素材を並べるのではなく、形を立ち上げる。


高さをつくり、重心を置き、抜けを残し、視線の流れをつくる。


その瞬間、装飾は平面ではなく、空間の中に存在し始める。


だから私は、空間装飾を考えるとき、基本的にはすべて造形から見ている。


造形が必要になる瞬間がある、というより、最初から造形として考えている。


2. 花やグリーンも、造形のための素材である


花を扱っているように見えるかもしれない。


グリーンを扱っているように見えるかもしれない。


けれど、私の中では、花かグリーンかという分類はそれほど重要ではない。


大切なのは、その空間にどんなフォルムを立ち上げるかである。


花が必要なら花を使う。


グリーンが必要ならグリーンを使う。


岩のような質感が必要なら、モルタルや塗装を考える。


大きな形を支える必要があれば、鉄骨や下地から考える。


素材は、フォルムを成立させるために選ぶ。


音楽で言えば、同じメロディーでも、ピアノで鳴らすのか、弦で鳴らすのか、ギターで鳴らすのかによって印象は変わる。


空間装飾もそれに近い。


先にあるのは、形の流れである。


その流れをどの素材で鳴らすのか。


花やグリーンは、そのための音色のようなものかもしれない。


3. 平面的な装飾には、メロディーが乗っていない


極端に言えば、平面的な空間装飾は、私にとってメロディーが乗っていない状態に近い。


もちろん、平面的な装飾が必要な場面もある。


すべてを立体的にすればよいわけではない。


けれど、奥行きや立体感、視線の流れが生まれていない装飾には、少し物足りなさを感じる。


花を置く。


グリーンを並べる。


素材を面で整える。


それだけでは、空間の中に響きが生まれにくい。


奥に入る部分があり、手前に出る部分がある。


密度のある場所があり、抜けている場所がある。


曲線が流れ、重心が定まり、空間との距離感が生まれる。


そのとき、装飾にメロディーが乗る。


私にとって造形とは、装飾にメロディーを与えることなのかもしれない。


4. 良い造形は、足し算だけでは生まれない


良い造形は、ただ足すことで生まれるものではない。


花を増やし、グリーンを増やす。


ボリュームを出す。


それだけでも、立体感のようなものは作れる。


けれど、必要のないものまで足されてしまうと、造形ではなく、ただのカタマリになる。


私にとって良い造形とは、必要最低限の要素で成立しているものだ。


足し算だけではなく、引き算の感覚があること。


何を入れるかだけでなく、何を入れないか。


どこを膨らませるかだけでなく、どこに余白を残すか。


その判断によって、フォルムにリズムが生まれる。


良い造形とは何か。


それは、良いメロディーとは何かを考えることに近い。


説明しきれない部分もある。


けれど、身体が心地よいと感じる流れがある。


それを探している感覚がある。


5. 抜け感は、メリハリの中に生まれる


抜け感は、ただ空けることではない。


密度のある部分があり、そこから余白に抜けていく流れがあるから、抜け感として感じられる。


音楽でも、似たような瞬間がある。


サビの前や曲の途中で、ふっと音が抜ける。


ギターが消えて、ベースだけが残る。


音数が減ることで、次の展開が気持ちよく入ってくる。


あの感覚に、私は昔から反応していたのかもしれない。


造形も同じで、全部を埋めないからフォルムが見える。


抜く場所があるから、曲線が生きる。


余白があるから、重心が伝わる。


ただし、抜くためには、足されている部分も必要になる。


ずっと音が少ないだけでは、音を抜いた気持ちよさは生まれない。


しっかり鳴っている部分があるから、一瞬の抜けが効いてくる。


造形における抜け感も、密度と余白の関係で生まれる。


足すところは足す。


抜くところは抜く。


そのメリハリがあるから、空間にリズムが生まれる。




6. 造形は、空間との関係で決まる


造形は、装飾物単体で完結するものではない。


どれだけ美しいフォルムでも、置かれる空間との関係が合っていなければ、空間装飾としては成立しにくい。


たとえば、決められた範囲の中に坪庭を作る場合、その枠の中で足し引きを考えることができる。


石を置き、植栽を入れ、余白を残し、高低差をつくる。


その範囲の中で、一つのメロディーを作ることができる。


けれど、空間全体と一体で装飾を考える場合は、さらに広い視点が必要になる。


空間そのものが、すでに強い装飾性を持っていることがある。


建築の意匠、壁の素材、天井の表情、照明、柱や開口のリズム。


そうした建築や内装の表情が強い場所に、さらに装飾を足すと、かえって邪魔になることがある。


その場合は、あえて引く。


もしくは、空間装飾を入れない方がいいこともある。


逆に、建築や内装がとてもシンプルで、空間の印象が少しぼやけている場合もある。


そこに造形を入れることで、視線が定まり、空間のピントが合う。


造形は、ただ目立つためにあるのではない。


空間に焦点をつくる。


印象をぼやけさせず、一つの世界観としてまとめていく。


その役割も、造形にはある。




7. シルエットから始まり、構造で現実にする


造形を考えるとき、私はまずシルエットを見る。


それが作れるかどうかは、一度横に置く。


空間の中に、どんな輪郭が必要なのか。


どんな曲線が立ち上がると、空間のピントが合うのか。


どこに重心があり、どこに抜けがあると心地よいのか。


まずは、形の気配を捉える。


そのあとで、構造を考える。


どう支えるのか。


どう固定するのか。


どう搬入し、現場で成立させるのか。


造形は、感覚だけでは成立しない。


けれど、構造だけから始めても、空間に響くフォルムにはなりにくい。


感覚でフォルムを立ち上げ、構造で現実に着地させる。


その両方があって、空間装飾としての造形になる。




8. その空間に合うメロディーをつくる


これからどんな造形を作っていきたいのか。


そう聞かれると、少し答えるのが難しい。


なぜなら、同じ空間は一つもないからである。


ホテル、店舗、商業施設、エントランス、ロビー。


場所の名前だけで、必要な造形が決まるわけではない。


小さな空間でも、強いメロディーが必要なことがある。


大きな空間でも、静かに引いた造形の方が合うことがある。


大切なのは、自分が作りたい形を空間に持ち込むことではない。


その空間に、どんなフォルムが必要なのか。


どこに重心を置き、どこを抜き、どこに視線のピントを合わせるのか。


その都度、空間に合うメロディーを探していく。


私にとって造形とは、空間に形を置くことではなく、空間に合うメロディーをつくることなのかもしれない。


花やグリーンを使うこともある。


木や鉄、モルタルを使うこともある。


何を使うかよりも、その空間でどう響くか。


そこから、空間装飾を考えていきたい。



次回予告

次回は、空間装飾と施工について考えていきます。


RETHECITY JOURNAL

RETHECITY JOURNALは、空間装飾・空間ディスプレイ・空間デコレーションの領域から、空間価値について考えるジャーナルです。
リザシティジャパン株式会社では、花・植物・造形・アーティフィシャルフラワー・フェイクグリーンなどを用いた空間装飾を手がけています。


いいなと思ったら応援しよう!