#67『薄明』11章:対峙⑨
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あらすじはマガジンにまとめてあります
華やかで煌びやかなホテルのホールを後にした稜真たちが戻ったのは、まだ引越し荷物が片隅に積まれたままの、少し手狭な『レガリア』のオフィスだった。
「お疲れ様でした! 九条さん、最高でしたよ!」
「乾杯しましょう、乾杯!」
誰かの呼びかけで、会議テーブルの上に並べられたのは、コンビニで買い込んだ缶ビールや缶チューハイ、そして先ほど届いたばかりの宅配ピザとチキン。
先ほどの高級なシャンパングラスの代わりに、プラスチックのカップが配られていく。
「いやもう缶のままでいいだろ」
「リーダー!一言お願いします!」
若手エンジニアたちが、高揚した顔で稜真を囲む。
中堅のオペレーション担当も、慣れないパーティーのフォーマルウェアを少し緩め、晴れやかな表情で稜真を見つめていた。
稜真は、自らもビールのプルタブを開けると、集まった10人ほどの精鋭たちを見渡した。
窓の向こうには、先ほどまで自分たちがいた高級ホテルのある街並みが遠くに見える。
だが、今の稜真にとって、何より誇らしいのはこの質素なオフィスを熱気で満たしている仲間たちだった。
彼らに押されて、稜真は缶ビールを片手に語りかける
「みんな、今日は本当によくやってくれた。
僕があの壇上で胸を張って語れたのは、僕一人の力ではなく、皆の力を合わせてここまでこれたのだと心の底から思っていたからだ。
君たちがいたから、僕は九条稜真として、もう一度、この新しい『レガリア』を掲げスタートを切ることができた」
稜真は少し声を詰まらせ、それから力強く笑った。
「戦いはまだ始まったばかりだ。世間の目は依然として厳しいだろう。
だが、この最高のチームで、新しい秩序を創りに行こう。……乾杯!」
「乾杯!!」
カチカチと缶がぶつかり合う、軽くて小気味よい音。
豪華なホテルの冷えたシャンパンよりも、この少しぬるくなったビールのほうが、今の稜真にはずっと美味しく感じられた。
誰かがスマホを見て声を上げる
「うおっ!すげえ!
代表! 見てください、もう速報出てますよ。
『九条稜真、復活の狼煙。レガリアが提示する新秩序』だって!」
「まじか!速っ!」
全員がわらわらとそのネットニュースを覗き込む
「投資家たちの反応もエグかったですよ。さっきのパーティー、終わった瞬間に投資担当者が三人、僕のところに名刺突っ込んできましたもん」
メンバーたちの興奮した声が響く
麗奈がシャンパンボトルを片手に「これ残ってたやつあっちの会場から持ってきちゃったー!飲みましょうみんな!」と笑う
「加納、あざとい!」「ちゃっかりしてんなぁ」とからかわれながらも全員が笑顔だった
稜真はメンバーの騒ぐ声を満足そうに聞き流しながらネクタイを緩め、窓の外を見つめた。
「お疲れ様でした九条さん!ほんっとご立派でしたよ!飲みましょ!」
麗奈がシャンパンとプラコップを持って稜真の元へやってくる
「はは、プラコップにシャンパンか。いいな。まぁ、ハッタリも実力のうちだからね」
稜真はそう言ってそれをひと口飲むと安堵のため息をつき、麗奈に声を落として尋ねた。
「……古株の連中はどうだった?」
麗奈がニヤリと笑う
「彼らですか? 最初は『負け犬が何を吠えるのか』って上から目線でしたけど、事業説明が終わる頃には、グラスを持つ手も止まってましたよ。
帰り際なんて、何人かわざわざ私のところに来て『九条さんに、近いうち一度席を設けたいと伝えてくれ』って……。
あんなにプライドの高そうな人たちが、ですよ。めっちゃすごくないですか?」
麗奈は勝ち誇ったように笑った
「…そうか。なら、まずは第一関門突破だな」
二人は窓際で、遠くに見える東京タワーの赤い光を眺めた。
ふと麗奈がつぶやく
「来てましたね、櫂さんと茉莉さん」
「………。」
「……かっこよかったなー、櫂さん。5年前より、ずっと」
麗奈の唐突な言葉に、稜真はカップを持つ手を止め、あきれたように言った。
「どこがいいんだ、あんな男の」
「えー。あの影のある感じ? 冷徹そうで……それでいて『オスみ』のある雰囲気がいいんですよ。」
麗奈はふふっと笑うと、ふと懐かしそうに遠くを見つめた
「てか……私、櫂さんのこと好きだったんですよねー。
まだ忘れられてないのかもしれないなあ。5年間、色んな人と付き合ってみたんですけどね……」
麗奈は自嘲気味に笑って、シャンパンを煽った。
「……無理じゃないか。あいつの茉莉さんへの執着は、筋金入りだ。
それこそ、西園寺の秩序を壊してでも彼女を離さないだろうよ」
「ガーン!ひどい!
まぁそうかもしれませんけど!
……でも、九条さんは?
本当に、茉莉さんを取り戻せると思ってます?」
麗奈は稜真をのぞきこみながら問いかける。
彼は手元のカップをじっと見つめた。その瞳に一瞬だけ焦燥が宿る。
「……そのつもりさ。……だが」
稜真は声を落とし、自分自身に言い聞かせるように続けた。
「……あいつの、あの勝ち誇ったような目が……。茉莉さんの肩を抱く、あの指先が……。
全部、僕に見せつけてるみたいで。
『お前には一生、ここまでは踏み込めない』…って言われてる気がしてね」
一気にシャンパンを煽る稜真。喉で弾ける泡が、彼を苛立たせる。
「あいつ、前からそうだった。茉莉さんの前では完璧な執事を演じてたくせに、僕に向ける視線だけは、いつだって鋭くて。
……茉莉さんが知らないあいつの『毒』を、僕だけに向けられているのが、たまらなく癪だったんだよ」
「へぇ……。ふふ、やっぱり九条さんも、あの一族の『影』に魅せられてるんじゃないですか?」
麗奈がからかうように言うと、稜真は「まさか」と吐き捨てた
離れた場所から、メンバーたちの笑い声が聞こえる。
「代表、こっちのピザ食べちゃいますよー!」
「……今行く」
稜真は短く答え、最後に一度だけ、茉莉と櫂が去っていった夜の街を見つめてから、仲間たちの輪へと戻っていった。
第11章『対峙』は今回で終わり、明日は11章あらすじになります
長かったなあ11章。
明日もどうぞお楽しみに。
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