紫野 本家玉寿軒 京都市上京区 和菓子なスクチャイ194 2026.01.06
和菓子なスクチャイ194 京都府 > 京都市上京区
※くまの身長は7.5cm。大きさの参考に。
紫野 本家玉寿軒 京都市上京区

1.納豆の香り








包みを解いた瞬間、納豆の香りが漂った。
これは甘いお菓子なのか、塩辛いお菓子なのか、想像出来なかった。店舗で見た時には丸い落雁のように見えて美味しそうだったので買ったのだが、まさか納豆のにおいがするとは思っていなかった。
大丸京都店の地下で税込756円で買った。
横開きの箱を開けると整然と並んだ「紫野」が姿を現した。
薄い紙を通して3種類の色違いがわかり、それが5つずつ3列に並んでいた。
まあお行儀のいいこと・・・しかしすぐに食べ終わりそうな量である。
2.食べた




恐る恐る薄紙を剥ぐと中からドーム状の落雁が出てきた。直径を測るとちょうど2.5cmだ。
最初食べた時は噛み砕いてしまったのでいきなり中心の塩辛い「大徳寺納豆」と甘い落雁が口の中で混ざってしまって興醒めしたのだが、実は最初から噛み砕かず口中で落雁が溶けるまで甘味を楽しんだ方がいいということに気づいた。
すると最後に中心の「大徳寺納豆」が現れるのだ。
この大徳寺納豆はそのままでは溶けないので噛み砕くことになるが、あたかも地球の中心部分にある重くて固い「コア」が、地球の大部分のマントルが溶けた後に出現するような感覚だった。
こんな小さな丸いものに地球を当てはめるのもどうかと思うが、それだけ中心部分が周囲の大部分よりも顕著に固いのだった。
ともかく最初から噛み砕かずに落雁が溶けるのを楽しみ、最後に小さく塩辛い乾燥納豆が出てくるという演出はなかなか粋なような気がした。
最初はそんな心の余裕はなく、納豆臭にただただ驚くだけであったのだ。
まあ、慣れが必要なお菓子ということかもしれない。
そんなこんなのちょっとクセのある和菓子で、聞くところによれば抹茶とよく合うのだそうだ。
3色って、一見、和三盆、黒糖、抹茶のように見えるが、それぞれの味の違いはわからなかった。
原材料名を見ても着色だけで抹茶や黒糖は使っていないので、味は同じで単なる色の違いだけの可能性が高い。
3.本家玉寿軒
京都市上京区の西陣の地に暖簾を掲げる「本家玉寿軒(ほんけたまじゅけん)」は、京都の数ある和菓子店の中でもとりわけ茶道界(特にお家元)との繋がりが深く、高雅な佇まいを守り続けている名店だ。
3.1.本家玉寿軒の歴史と格式
創業は慶応元年(1865年)という幕末の動乱期に創業し、以来150年以上にわたり西陣の地でお菓子作りを続けている。
3.2.茶道家元との縁
茶道三千家(表千家・裏千家・武者小路千家)の御用達を務めており、お家元好みの菓子を数多く手がけている。
3.3.「本家」の誇り
派手な広告や多店舗展開をせず、職人が一つひとつ丁寧に手作りするスタイルを貫いている。
西陣という伝統と美意識が厳しい街で愛され続けてきた、まさに「通好みの店」なのだそうだ。
3.4.銘菓「紫野」
「紫野(むらさきの)」は本家玉寿軒の技術と京都の歴史が凝縮された非常に気品のあるお菓子だ。
3.5.名前の由来
店舗の北側に広がる「紫野(大徳寺一帯の地名)」から名付けられた。
この地は古くから高貴な人々が狩りを楽しんだり、風流を解したりした場所だったそうな。
4.紫野
紫野の生地は、質の高い和三盆糖と寒梅粉(お餅を乾燥させて粉にしたもの)を合わせた口どけの良い落雁だ。
生地の中心に、大徳寺伝来の「大徳寺納豆(塩辛い発酵豆)」が一粒入っている。
一口食べると、和三盆の淡雪のような甘さが広がる。
そこへ、中心にある大徳寺納豆の強い塩気と独特のコクが加わる。
この「甘・塩・酸」の絶妙なバランスがお抹茶の味を最大限に引き立てるとして、これまで茶人たちから絶賛されてきたのだ。
「紫野」の包装紙や箱は、京都らしい上品な紫色を基調としている。
手土産として持参するだけで「京都の本当に良いものを知っている」という信頼に繋がる、格の高い一品と見做されているようだ。
なお、本家玉寿軒は「紫野」のような干菓子だけでなく、季節ごとの生菓子も絶品で、吾輩は見ていないが特にお正月用の「御びら(ごびら)」などは京都の伝統的なお正月を支える大切な存在とのことだ。
5.おすすめは抹茶と
「紫野」は本格的な抹茶と一緒に食べるのがいいようだ。
和三盆が口の中で消えた後、大徳寺納豆の余韻が残っているうちに温かいお茶を一口飲むと、お茶の甘みが驚くほど鮮明に感じられるとのことだ。
6.大徳寺納豆
大徳寺納豆はそのまま食べると非常に個性的(味噌のような風味)だが、本家玉寿軒の「紫野」の中に閉じ込められると、不思議とチーズのような芳醇な深みへと昇華されると言われている。
吾輩は大徳寺納豆を単独でそのまま食べたことがないので違いがわからないが、発酵食品は多かれ少なかれチーズのような風味が感じる場合があるだろう。
特に甘い落雁と合わさってチーズっぽく感じると言えば感じるかもしれない。
大徳寺納豆は名前に「納豆」と付いているが、我々が普段朝食で食べるネバネバした「糸引き納豆」とは全くの別物だ。
その作り方は非常に特殊で、まるで「お寺で作る漢方薬」や「チーズの熟成」を彷彿とさせる。
大徳寺納豆は中国から伝わった「豆豉(トウチ)」が日本で独自に進化したものだ。
糸を引かせる「納豆菌」ではなく「麹菌」を使って発酵させ、2年越しの熟成期間が必要とのことだ。
1.蒸し煮と麹付け
厳選した大麦と大豆を蒸し、麹菌を付けて「豆麹」を作る。
2.塩水での漬け込み
この豆麹を塩水と一緒に木桶に入れ、ここからが独特なのだが、数ヶ月から約1年もの間、じっくりと発酵熟成させる。
3.天日干し
熟成が進んだ豆を桶から出し、大徳寺の境内の陽光の下で天日干しにする。
職人がつきっきりで豆を返し、乾燥具合を調整する。
この「太陽の力」を浴びることで豆のタンパク質がアミノ酸に分解され、強い「旨味」に変わる。
4.さらなる熟成
乾燥させた豆をさらに寝かせ、合計で1年〜2年の歳月を経て、ようやくあの真っ黒で濃厚な「大徳寺納豆」が完成する。
出来上がった大徳寺納豆は見た目は真っ黒な小石のようだが、味わいは驚くほど複雑だ。
味噌を凝縮したような塩気、かすかな酸味、そしてブルーチーズや八丁味噌にも似た深いコクがある。
長期発酵させているため保存性が非常に高く、かつては僧侶たちの貴重なタンパク源である「保存食」でもあった。
7.本家玉寿軒が「大徳寺納豆」を使う理由
本家玉寿軒が「紫野」の芯にこの大徳寺納豆を一粒入れるのは「究極のコントラスト」を作るためと考えられている。
和三盆(陽):儚く消える純粋な甘み。
大徳寺納豆(陰):どっしりと残る深い塩気と旨味。
この対極にある二つが口の中で合わさることで、単なる甘いお菓子ではない「人生の深み」に通じるような味わいが完成する。
これこそが、茶人たちが「お茶の味が最も引き立つ」と愛してやまない理由なのだそうだ。
(おわり)
