借金を減らしたら、経済が壊れた
夕方のニュースを見ていた。
「国の借金が過去最大を更新しました。
国民1人あたり、約1000万円になります」
アナウンサーが深刻な顔で読み上げる。
テロップが赤い。
でも、ふと思う。
その1000万円、
誰に返すんやろ。
銀行に?
アメリカに?
隣の人に?
実は、返す相手は「自分たち」だ。
日本政府の借金はほぼ全額が日本円建てで、
約9割が国内で消化されている。
なぜ「借金=悪」という前提で
ニュースが流れ続けるのか。
この構造を、一度立ち止まって見てみたい。
「国の借金1000万円」はなぜ誤解なのか
国の借金を国民の頭数で割る計算は、
会計の基本を無視している。
政府の負債は、そのまま民間の資産だからだ。
財務省が出す「国の借金」は、
政府のバランスシートの負債側だけを見た数字だ。
ところが、その裏側を見れば
同じ金額が国民の預金や
年金基金の資産として存在している。
政府が100兆円の国債を発行すれば、
民間の銀行口座のどこかに
100兆円が増える。
これは複式簿記の原理であり、
会計を学んだ人なら知っている。
2026年度末の日本の
普通国債残高は約1,129兆円に達する見込みだ。
この数字だけを見れば確かに巨額だ。
しかし、この数字の裏側には
同額の民間資産が存在する。
京都大学の藤井聡教授は、
この「国民1人あたり〇〇万円」という表現を
「デマ」と断じている。
国民は返済する側ではなく、
貸している側だからだ。
ダイヤモンド・ザイの太田忠氏も、
日本の純負債比率はG7平均以下であり、
財政破綻の可能性はゼロだと指摘する。
「国の借金=国民の借金」ではない。
「政府の赤字=民間の黒字」。
簿記の世界では、当たり前の話だ。
そもそも「国の借金」は借金なのか ── 本当の限界はどこにある

国債は借金ではない。
政府が通貨を供給する手段のひとつだ。
「借金」という言葉を使った瞬間に、
議論はすでに歪んでいる。
家計の借金は「返さなければ破産する」。
銀行から借りたお金は、
自分で作ることができないからだ。
では、政府はどうか。
日本政府は円を発行する側だ。
円建ての国債を発行して、
円で返す。
返す通貨を自分で作れるのに、
「返せなくなる」ことがあり得るだろうか。
これは屁理屈ではない。
財務省自身が外国格付け会社への意見書で
「自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」
と明言している。
NIRA総合研究開発機構の調査でも、
「財政規律派」「リフレ派」「MMT派」の
3つの立場に分かれる専門家たちが、
自国通貨建て国債で破綻しないという点では
ほぼ一致している。
では、国債とは何なのか。
政府が国債を発行すると、
その分だけ民間の銀行口座にお金が増える。
政府が「支出する」と、
国民が「受け取る」。
つまり国債の発行とは、
政府が経済に通貨を送り込む行為だ。
「借りている」のではなく
「届けている」。
この仕組みを理解すると、
「国の借金」という表現が
いかにミスリードかが見えてくる。
家計の借金 → 他人のお金を借りている。
返さなければ破産する。
政府の国債 → 自分が発行する通貨の記録。
返す通貨は自分で作れる。
同じ「借金」という単語を使っているが、
中身はまったく別物だ。
ギリシャが破綻したのは、
ユーロという「他国の通貨」で
国債を発行していたからだ。
自分で刷れない通貨で借りれば、
家計の借金と同じ構造になる。
だから返せなくなった。
日本は自国通貨国だ。
ギリシャとは、構造が根本的に違う。
それなのに、
「日本もギリシャのようになる」
という言説がなぜ消えないのか。
「借金」という言葉が、
思考を縛っているからだ。

では、本当の限界は何か。
金額ではない。インフレだ。
政府がお金を出しすぎて、
モノやサービスの供給が追いつかなくなると、
物価が上がり始める。
これが本当の「天井」だ。
2020年、政府は全国民に10万円を配った。
お金は大量に出回ったが、
インフレ率はほぼゼロだった。
経済が冷えきっていたからだ。
つまり、お金を出しても
物価が上がらないうちは、
まだ余裕がある。
「でも、今だってインフレじゃないか」
そう思った人もいるかもしれない。
たしかに物価は上がっている。
でも、今の日本のインフレは
原材料高や円安による「コストプッシュ型」だ。
みんなが買いすぎて値段が上がる
「デマンドプル型」ではない。
コストだけ上がって、賃金が追いついていない。
経済が過熱しているのではなく、
家計が圧迫されている。
この状態で政府が支出を絞れば、
さらに苦しくなる。
コスト上昇に負けない賃金を作るには、
政府が需要を支えて企業の売上を伸ばし、
賃上げの原資を生む必要がある。
むしろ、出すべき局面だ。
問題は「いくら借りたか」ではなく、
「経済がどう反応しているか」。
借金の額ではなく、
インフレの中身を見ればいい。
借金を減らそうとして何が起きたか
1997年以降、日本は財政赤字を
恐れるあまり、
公共投資を半分以下に削った。
その結果、先進国で唯一、
経済が成長しない国になった。
1997年は転換点だ。
この年、消費税が3%から5%に上がった。
同時に、政府は「財政再建」を掲げて
公共事業の削減に舵を切った。
プライマリーバランス黒字化目標。
「国債の利払いを除いた収支を
黒字にしなければならない」
という財政ルールだ。
このルールのもと、
政府は支出を絞り続けた。
結果、何が起きたか。
企業は先行きの需要を見込めなくなった。
設備投資を控え、賃金を上げなくなった。
消費者はお金を使わなくなった。
デフレが定着した。
政府が支出を減らす。
→ 民間の売上が減る。
→ 企業が投資と賃上げを抑える。
→ 消費がさらに縮む。
→ 税収が減る。
→ 財政赤字がまた増える。
借金を減らそうとした政策が、
借金を増やし続ける構造を作った。
これが30年間の正体だ。
興味深いのは、
このパターンが日本だけではないことだ。

イギリスも2010年代に緊縮財政を選び、
公共サービスの劣化と
経済の停滞を招いた。
アルゼンチンはIMFの緊縮条件を
受け入れた結果、
経済危機をさらに深刻化させた。
「借金を減らせば経済が良くなる」は
世界中で繰り返し試され、
繰り返し失敗している。
第一生命経済研究所の永濱利廣氏は、
失われた30年の主因は
人口減少ではなく、
バブル崩壊後のバランスシート不況に伴う
資本投入量の低迷だと分析している。
つまり、政府が投資を絞ったことが
民間の投資停滞を加速させた。
にもかかわらず、日本では
PB黒字化目標が
2026年度に達成見込みとされ、
「財政健全化が進んでいる」と報じられている。
第一生命経済研究所のレポートによれば、
2026年度のPB黒字化は
税収の上振れによるもので、
歳出改革の成果ではない。
つまり、たまたま黒字になっただけだ。
それを「成果」と呼ぶのは、
30年間の構造を何も変えていない。
データで見る「緊縮の30年」
・名目GDP: 1997年544兆円 → 2024年609兆円。
27年間で1.12倍。
同期間にアメリカは3.4倍、
イギリスは3.0倍、ドイツは2.2倍に成長した
(IMF, 2024)
・名目賃金: 1997年をピークに下落が続く。
1996年を100とすると、
イギリス・アメリカは230〜240に到達。
日本は96に減少した
(内閣府 令和4年度経済財政白書)
・公共投資: ピーク時から0.55倍に縮小。
同期間に欧米は1.52〜3.51倍に増加
(佐藤信秋 参議院議員 調査資料, 2021)
https://www.sato-nobuaki.jp/report/2021/20210114-004.pdf
・労働分配率: 1990年代後半は先進国の中で
比較的高かったが、20年間で一貫して低下し、
主要国で最も低い水準に転落
(厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析)



27年間でGDPが1.12倍。
これは成長ではない。停滞だ。
同じ期間に、世界は2倍にも3倍にもなった。
1000万円の借金より怖いもの
冒頭のニュースに戻る。
「国民1人あたり1000万円の借金」。
あの数字を聞いたとき、
不安になるのは自然なことだ。
でも、本当に怖いのは
借金の額じゃない。
借金を恐れて、
橋を直さず、
学校を建てず、
研究に投資せず、
賃金が上がらないまま
27年が過ぎたこと。
1000万円という数字は、
国民が政府に「貸している」お金だ。
返してもらう側なのに、
なぜか「返さなきゃ」と思わされている。
もし明日もまたニュースで
「国の借金が過去最大」と流れたら、
こう読み替えてみてほしい。
「国民の資産が、また増えました」
数字は同じだ。
見る角度が違うだけ。
よくある質問

日本が財政破綻する可能性はあるのか
自国通貨建て国債のみを発行する
日本政府が債務不履行に陥る可能性は、
論理的にゼロだ。
財務省も国会で
「デフォルトは考えられない」と答弁している。
ただし、過剰な財政出動で
インフレが急加速するリスクはあり、
そのコントロールが財政運営の本質になる。
プライマリーバランス黒字化とは何か
プライマリーバランス(PB)とは、
国債の利払い費と
償還費を除いた政府の収支のこと。
日本では2025年に閣議決定された
「2026年度PB黒字化目標」が
財政政策の制約として機能してきた。
しかし、PB黒字化はデフレ下では
経済を縮小させる方向に作用するため、
目標自体の妥当性が問われている。
なぜ「国の借金=危険」という報道が続くのか
財務省は毎年「日本の財政関係資料」を公表し、
債務残高の大きさを強調する。
この資料がメディア報道のベースになっている。
資産側(国民の資産としての国債)や
自国通貨建てである事実は
同じ資料でも目立たない位置に
記載されており、
バランスシート全体を読み解く報道は少ない。
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